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フォレスト王国の太陽と月  作者: 葉月乃 寛
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4 最後の晩餐?

部屋に戻った二人にイネスがお茶を出す。イネス主導ですっかり旅の準備が終わったようで、部屋の隅にトランクが積み上げられている。


「ソフィア様、エレナ様、ご夕食は両陛下がご一緒されるとのことです。」


いつもはだいたい二人で好きな部屋に食事を運んでもらうが、両親との夕食となると正式な広間での食事になるだろう。お茶もそこそこに急いで湯浴みをして、上品なドレスに着替えて、珍しく綺麗に髪を結った二人は、いつ呼ばれてもいいように準備万端で待っていた。


「夕食のご準備が整いました。」

「ありがとう、イネス。バタバタさせてごめんなさい。」

「とんでもございません。さあ、どうぞこちらへ。」



通された広間の長いテーブルには、八人分の食器がセッティングされていて、すでにルイーズと夫のフィンが正装で席についている。


フィンの守護は【火】能力はもちろん【戦士】だ。現役バリバリの騎士団の総長ともなると背負っているオーラも半端じゃない。男ばかりの四人兄弟でしかも長男。堅物で女性との接点も少なかったこの男、ここだけの話、ルイーズの前ではただの優しいデレる男だ。

十八歳という異例の速さで副団長になったルイーズは、難攻不落といわれたフィンに「私があなたに勝ったら結婚してもらうわ。」と逆プロポーズの決闘を申し込んだ強者だ。

ルイーズの強さはレオナルドのお墨付きとはいえ、フィンも総長となったばかりで矜持がある。十歳も年下の女性に負けるはずもなく、その決闘はルイーズが二十歳になる年まで何度も続いた。力の差があった二人の決闘も、いつの間にかいい勝負となっていき、二人が決闘を楽しんでいる様はまるでデートのようだった。さすがのフィンも、二十歳の誕生日にまで決闘を挑んできたルイーズに、『私の負けだ。早く着替えてあなたの誕生日を祝いたいのだが、今日のファーストダンスは私でよろしいか?』と剣を抜かず、片膝をついて逆プロポーズを受けたのです。


おっと、この甘ったるい動悸・息切れ・目眩は何だろう。


ルイーズの誕生日パーティーは、晴れて婚約発表パーティーとなったのは言うまでもない。

その後、ルイーズはさっさと『婚姻の儀』を準備して、半年後には執り行うスピード婚だったので、フィンも最初っからルイーズのことを好きだったんじゃないかとの噂だ。


席多くない?などと話しながら入ってきた二人は、フィンの姿にギョッとしながら給仕に引かれた椅子に座った。

しばらくすると国王と王妃に続いて、後から入ってきたのはオリバーと第二王子のオスカーだった。こんな王家揃い踏みの夕食は、なかなかお目にかかれない。


オスカーはエレナたちの三つ上。長い銀色の髪を一つに結び、アイスブルーの瞳に眼鏡をかけ、線は細身で頭脳明晰。まさに天才と言っても過言ではない。

通常十六歳から高等教育過程に進むところ、オスカーは十三歳からの砦生活で高等教育まで終わらせてしまった。十六歳で城に戻ると飛び級で四年間の学士教育過程へ進み、これまた異例の飛び級で三年間で学士を取得すると、十九歳から博士教育へ進んだ。普通であれば十九歳でようやく学士教育がスタートする中、昨年、めでたく国内最年少博士が誕生した。

そんなオスカーを一言で言うなら〈残念な変わり者〉だ。守護は【水】、能力は【魔法師】で、この魔法師は王族から生まれることは珍しく、後々は魔法師団長になるべく研究の日々を続けている。将来有望とはいっても、側から見たらただのガリ勉やオタクと間違われても仕方がない。

オスカーの執務室というより研究室は、本と研究資料と実験用具でとっ散らかっている。とっくに婚約者がいてもおかしくないのに、変わり者が災いして、未だに婚約者がいない。そういった話がまったくなかったわけではないが、『オスカー様は私に全く興味がございません。』とたくさんの候補者が丁重に辞退していった。

オスカーは女性受けする会話は苦手だが、おすすめの本を聞けば絶対に外さないし、男性には珍しく女性の話に耳を傾けてくれるし、的確なアドバイスもしてくれる。

そんなオスカーをソフィアは陰ながら推している。オリバーが知ったら拗ねるかもしれないが、オリバーには婚姻を控えた婚約者がいるし、そちらに慰めてもらえば大丈夫だろう。

ソフィアは、オスカーを理解して支えてくれる素敵な方を紹介しようと、面倒で退屈なパーティーも仕方なく参加している。そんなソフィアの想いを知ってか知らずか、オスカーときたら最近は『ソフィは気になる人でもできたの?私から父上に相談しようか?』と優しい眼差しを向けてくる。変わり者ではあるが、妹想いのいい男なのだ。


オスカーの素敵すぎるあれこれにトリップしていたソフィアは、オリバーの咳払いで慌てて立ち上がった。両親に挨拶して改めて席につくと、『嫌な予感がする。』とエレナが視線を送ってくる。『なんだか気が気じゃないわね。。』と視線で返事をする。確かにこの部屋の戦闘力は凄まじいことになっている。

皆が席に着き、給仕がそれぞれに飲み物を注ぐのを待って、国王がグラスを持ち上げる。


「さて、乾杯しようではないか。」


皆、声高らかに乾杯をする。

「モンターニュの剣はフォレストのために!」


国王のセオは、先の内乱で前国王レオナルドと共に国を立て直し、後を継いだ現在も国のために尽力している。守護は【土】で能力は【戦士】だ。元々は騎士団長として、荒れていた治安を正常化した人なので、国民からも愛されている。


「こうして久しぶりに皆で食事ができるなんて幸せだね、エマ。」

「ええ、陛下。子供達が成人してしまって、なかなか揃わないから寂しかったわぁ。でも、オリバーが王位を継いでくれたら、陛下とのんびり過ごせるから楽しみねぇ。ふふふ。」


王妃エマの守護は【水】、能力は【女神】。幼い時に泉の妖精から加護を与えられたことで、癒しを与える力がある。ポワンポワンな雰囲気全開のゆったりな口調で話すのが印象的だ。ウェーブがかった銀色の髪をゆったりめに結って、白い肌はツヤツヤ、大きなグリーンの瞳はいつもキラキラ、笑えば周りで天使が祝福してるんじゃないのか?と思うくらい後光が差す。だから、長いこと直視すると目が潰れる恐れがあるので、注意が必要だ。


「母上、ソフィアもエレナも『誓いの儀』が終わったとはいえ、まだまだ子供ですよ。」

「まぁまぁ、オリバー。あなたは本当に妹達が可愛いのね。」

「もちろんです!こんなに可愛い妹達がいて、私は幸せですよ!!」


でたー!オリバーの兄馬鹿発言。かーらーの、


「あら、一応私も妹ですけれどね。その可愛いに含まれているのかしら?」


すかさずルイーズが割り込んできた。


「ああ、もちろん。ルイーズが妹らしく兄の政務にいちいち口出ししなければ、もっと可愛いのにな。」


オリバーにとっての可愛い妹達はスープを飲みながら、雲行きを見つめている。

『ほらやっぱり面倒な感じになってきた。』と言わんばかりにエレナが小さくため息をつく。


「ええっと、私も兄様や姉様がいてくださるので、心強いですし幸せですわ。」


さぁ、ソフィアが早めに折り合いをつけようとしてみる。


「ありがとう、ソフィア。で、オリバーと私、どちらが城にいる方が心強い?」

「えっ、そんな、どちらだなんて。」

「ほらほら、兄さんも姉さんも、妹に気を使わせたらダメですよ。ソフィ、空気を読むのもレディとして大切だけど、くだらない小競り合いに気を使わなくていいんだよ。」


オスカーがソフィアの気配りに気配りを重ねてきた。

しかもしっかり年長者へ嫌味を付け足すのを忘れない。


「まったく、オスカーは姉に対して尊敬はないわけ?これくらいのこと、小競り合いにも入らないわ。私との小競り合いで無事に帰れる者が、この世に何人いると思っているの?」

「姉さんはの仕事ぶりはもちろん尊敬しているし、フィン様へ向ける可愛らしい表情も素敵だと思いますよ。その可愛らしい表情を少しでも兄さんに見せてあげたらいいのに。と言っているんですよ。」


オスカーは褒めてうやむやにする作戦に切り替えたようだ。


「ばっ、馬鹿言わないでよ!フィンは特別なの!!少しだってもったいないわよ。」

「はっはっはっは。そうか、それは嬉しいなー。オリバー殿、ルイーズの可愛らしさは私だけのもののようです。これは申し訳ない。」


ルイーズがデレた。そして、フィンまでデレをかぶせた。

この方々は、本当に騎士団のトップたちなのか?

この世にはツンとデレがあるはずで、その絶妙なバランスで萌えが生まれるのだ。

デレの垂れ流しはんたーい!

デレの洪水に溺れかけているオリバーが真っ青になっている。

それを見て、皆笑うしかない。


「ほらね。気を使わなくていいんだよ。二人は仲が悪いわけじゃないんだけど、守護が邪魔して素直になれないんだよ。」


みんなの笑い声に紛れて、オスカーがソフィアに耳打ちすると、ソフィアはくすぐったいような、嬉しいような、なんとも言えない表情でオスカーに微笑み返した。


守護は潜在的にその者を守ろうとする働きがあり、人間関係においてもパラーバランスに影響を与えることがある。

例えば、『土』のオリバーは『風』のルイーズに押され気味、『風』のルイーズは『火』のフィンにめっぽう弱いというような感じだ。

守護は自然のパワーバランスを保つのに重要で、どれかが強すぎても弱すぎてもよくない。国で国民の守護を把握するのは、どれかに偏りが生じた時に弱っている守護を持ち、なおかつ能力がより高い者たちで守護力を補わなければならないからだ。


オスカーに丸く収められ、夕食は和やかに進んでいった。

ただ一人、エレナの嫌な予感が晴れることはなかった。



「デザートも美味しかったし、みんな楽しそうだったわね。」


部屋に戻ったソフィアが夕食を思い出していた。


「ソフィ、今日の夕食、最後の晩餐みたいだったね。」

「えっ?そんなことないと思うけど。みんなが私たちを見送るために、忙しい中わざわざ集まってくれたんじゃないかしら?」

「そうだといいけど。」


(絶対違うと思う。)

エレナはそれ以上何も言わず、さっさと寝ることにした。

お読みいただき、ありがとうございます。

投稿がスローで申し訳ございません。

気長にお待ちいただければ嬉しいです。

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