37 街ブラ
前半の二人は笑いながら街ブラしていたが、馬車の二人からあそこに寄りたい、そこで止まって、あれが食べたいと注文も多いので、後半はちょっとげっそりもしていた。今度は王室御用達のジュエリーショップの前で止められ、皆で入ろうと強引に店内へ押し込められた。
「まあまあ、王子に王女、お呼び頂ければご希望の品をお持ち致しましたのに。」
店主である四十代くらいの品のいい女性が、喜んで高貴な四人を出迎えた。いつもなら城から呼ばれて出向く店主だが、珍しい上客の訪問に腕が鳴っているようだ。
「こんにちは、マダム。今日は私の親友とお揃いで髪飾りを買おうかと思って。」
「それでしたら、ぜひご覧いただきたいものがございますわ。」
ソフィアとクロエはキャッキャとはしゃぎながら、マダムおすすめの髪飾りを選んでいる。エレナもチャーリーもジュエリーなんか全く興味ない。それなら鍛冶屋に行きたいくらいだ。エレナがプラプラとショーケースの中を覗き込んでいると、ひときわ綺麗な緑色のペンダントが目に入った。
「きれい。」
「お気に召しまして?エメラルドにございます。あなた様の瞳の色と同じですので、よくお似合いになると思いますよ。」
心の中で呟いたと思った言葉は、別の若い店員に聞かれていたようだ。
「無理無理。そうゆう柄じゃないから。」
「あら、では同じ石を使った男性用もございますのよ。あなた様のような美しい方から送られれば、その男性は嬉しくて天にも昇るお気持ちでしょうね。」
エレナは一瞬揺らぐ。しかし、首を振って断った。
「急いでお決めいただかなくても、本日は遅くまで店を開けておりますから。」
店員はエレナの迷いを見逃さなかった。なかなかのやり手だなとチャーリーは遠巻きに見ていた。ソフィアとクロエが大満足の買い物ができたところで、辺りは夕刻が近くなっていたので城へ帰ることにした。エレナは何か考えているようだったが、チャーリーは話しかけることなく心ゆくまで考えさせてあげた。もうすぐ城に着くという頃、
「ごめん、私ちょっと忘れ物したみたいだから、先に戻っててくれない?」
「いいよ。気をつけて帰ってくるんだよ。」
チャーリに笑顔で見送られ、エレナは大急ぎで街へ向かう。
「兄様、どうかしたの?」
馬車の中から声をかけたクロエは、何かあったのか心配しているようだ。
「なーに、青春ってやつは馬で駆け出したくなるってものさ。」
意味がわからないと首をかしげるお姫様たちに暖かい微笑みを向けて、何事もなかったように城へ戻っていく。
チリン。
「まあ、お待ちしておりました。どうぞ中へ。」
エレナは先ほどのジュエリーショップの前で入るかどうか迷っていると、察した若い定員がドアを開けた。
「あの、あまり高価な物は買えないの。」
お金に困っていない一国の姫といえど、ニートの分際で高価な物を買うなどとてもできなかった。エレナが恥ずかしそうにしていると、店員はお任せくださいと小さなエメラルドが1粒飾られた、男性用の懐中時計を見せてくれた。金箔の貼られた表面の真ん中に小さくも美しいエメラルドが埋め込まれている。これなら任務の邪魔にもならず、ポケットに忍ばせておけるだろう。エレナは一目で気に入った。
「これください。」
「はい、すぐにお包み致します。」
エレナは生まれて初めて男性へのプレゼントを買って、フワフワした気持ちでお店を出た。外はすっかり暗くなろうとしていたので、馬に飛び乗り急いで城へ帰った。城に着くなり落ち着きなく部屋に戻ると、ソフィアはクロエの部屋に行っているとイネスから聞いてホッとした。いない間にリボンのかけられた小箱を、自分の荷物に紛れ込ませながらハッと気づいた。
(これからリバー王国に行くっていうのにいつ渡すのよ。こんなの誰にも頼めないじゃない。)
あまりにも考えが足りなかった。と落ち込みながらベッドに倒れこんだ。その後、ソフィアとクロエが夕食の知らせにきたので、その後は余計なことをグダグダ考えずに済んだ。
(とにかく、時計だったら自分で使ってもいいんだし、もう忘れよう。)