27 再会
無事にリュカの昇進が決まりそうな頃、ブロッサムのフローラはソワソワと来客を待っていた。
「椅子は人数分用意したし、紅茶も3種類、お菓子も焼きたて、お部屋も完璧だった。お夕食の人数も増やしたし、あとは待つばかりね。」
急ごしらえとはいえ、王妃の手にかかれば、初めから予定通りというような見事なセッティングだ。満足のいく準備が整った頃、城門が騒がしくなってきた。
「かいもーん」
ひときわ大きな声とともにラッパが鳴り、遠くに見える城へ到着を知らせる。
先頭にチャーリーとエレナ、数人の騎士の後、クロエの馬車にソフィアの馬車、そしてユーゴとユアン、最後はピクニック要員の馬車が続く。この賑やかな隊列で王都に入れば、目立ったに違いない。護衛についていた騎士以外が城の目の前に横付けすると、待ってましたとばかりに国王と王妃が出迎える。
「エレナ、よく来たね。もう立派な騎士だな。」
「陛下、お招きいただきありがとうございます。」
馬から颯爽と降り立ち、膝をつき頭を下げて最敬礼する姿に、国王が感心して声をかけた。
「可愛いお転婆さん、待ってましたよ。」
「フローラ様、私もう十八歳ですよ。大人になったと思ったのになー。しばらくお世話になります。」
「父上、母上、ソフィア姉様もいますのよ。」
馬車から降りて来たクロエがソフィアをの手を引いて連れてくる。
「もちろん忘れていないさ、ようこそブロッサムへ。エマ様のお若い頃にそっくりだね。」
「陛下、お招きいただきありがとうございます。ブロッサムの街道はお花がたくさん咲いていて、手入れが行き届き、それはそれは素晴らしかったですわ。」
ゆっくりと馬車を降りる老婆たちの姿が、横で挨拶を交わす王妃の目に映る。思わず王妃が駆け寄って老婆たちに抱きつく。
「もうお会いできないかと思っておりました。あなた方がいなければ今の私はおりません。」
「おやおや、お嫁に行った前の晩と同じね。」
「そうだね。お互いだいぶ歳をとっちまったはずなのにね。」
涙をグッと堪えた王妃はそれでも離れたがらない。
「ようこそ、お越しくださいました。国王として心より歓迎いたします。」
「陛下、ありがたいお言葉です。突然の訪問をお許しください。」
「本当にあの時お嫁に行かせて間違いなかったね。フローラ様をこんなに幸せにしてくれたんだから。魂があの頃のまんま純粋で清らかだ。そして、より忍耐強く、愛情深くなっておいでだ。」
「その言葉を聞けて、安心しました。お二人に尽力していただき、フローラをフォレスト王国からいただきましたから、これまでもこれからもフローラを大切にしますよ。」
「さあさあ、フローラ様。愛する陛下の胸へとお帰りください。」
王妃は恥ずかしそうに国王の腕に抱き寄せられる。ソフィアとクロエはもらい泣き、チャーリーは両親のイチャイチャを見てられずそっぽを向いている。エレナはこの騒ぎを狸に見つかっていないかキョロキョロしている。
「エレナ、父上は港町に視察へ出掛けているのよ。戻るのはご夕食前だから安心してちょうだいね。」
涙目の王妃が落ち着きのないエレナを安心させる。
「なーんだ、よかった。年寄りのくせに耳がいいから、ヒヤヒヤしましたよ。」
「相変わらず、エレナ姉様はお爺様と仲がよろしくないのね。」
「そうなのよ、クロエ。この前もエレナったらお爺様を狸呼ばわりしたのよ。」
「クロエとソフィアはまだまだだね。」
チャーリーに子供扱いされたとわかった二人は不満げだが、やはりなんのことかわかってない様子だ。憎まれ口を言い合えるのは、深い愛情と厚い信頼の裏返しだと大人はちゃんとわかっている。
「ただ、ここだけの話、レオ様が狸ということは同意するがね。」
「さすがアルス!そうこなくっちゃ!!」
エレナとアルスはまたがっちり握手をした。
「さあさあ、そろそろ中へ入ろうか?フローラがお茶会の準備をしていたんじゃないかい?」
「そうでしたわ。アルスとアルムにこんな立ち話をさせて、ごめんなさいね。」
侍女や従事たちがとっくに荷物を運び入れたのを確認し、国王は執務室へ戻って行った。