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フォレスト王国の太陽と月  作者: 葉月乃 寛
25/71

25 昇進試験1

ブロッサムに春の風が吹いた頃、フォレスト王国では、リュカの昇進試験が始まるところだった。

リュカの人生だけでなく、エレナの人生にも関わる大切な試験なので、試験官たちも責任重大だ。

まずは筆記試験が九十分行われる。出題内容は、歴史、基礎的な戦闘術、毒対策、救急治療、国外情勢など多岐にわたる。終わるとすぐに採点が行われ、九割の正解で次へ進める。

筆記試験が終わると口答試験だ。要人を最短で逃すためのルートを答える試験は、城内から城門までのルートが五問、城門から王都を抜けて二ヶ所ある砦までが五問の合計十問で、一問でも間違えたらそこで終了だ。例えば、試験官から『謁見の間から北の城門へ』と言われたら、一番最短で安全なルートと所要時間を答える。

それが終わればようやく実技試験。実技試験は実践形式で三試合が行われる。


第一試合:入団二年以内の騎士八名を相手にして勝つこと。(盗賊レベル)

第二試合:入団五年以内の騎士四名を相手にして勝つこと。(騎士レベル)

第三試合:団長クラス一名を相手にして互角以上の戦いをすること。(暗殺者レベル)


それぞれの試合でインターバルが十五分ある。この実技試験は、いかに第三試合まで体力を残すかが重要になる。第一試合と第二試合は、数の不利と年数の不利などを考慮して、模擬刀での戦いだ。

リュカの第三試合にはルイーズが出ることになった。ここに関してはモンターニュ家でかなり揉めた。ルイーズはフィンとオリバーが立候補することは予想していたが、オスカーまでが出ると言い出したので、勝ち抜き戦でルイーズが対戦役を勝ち取った。婚約を急がせるとは言ったが、可愛い妹を簡単にやる気はない。これしきのことで負けるような男を、救世主とは認めないとモンターニュ家は一丸となっていた。もちろんリュカには誰が出るか知らされていない。


リュカは筆記・口答試験をあっさりクリアして、実技試験会場に現れた。会場は王都の外、二つの砦に挟まれた位置にある騎士訓練施設だ。噂を聞きつけた非番の騎士や、他の団長など、凄い数のギャラリーがいる。国王に王妃、宰相であるリュカの父親まで引っ張り出されている。この賑わいが聞こえているであろうリュカの控え室にオスカーが入っていく。


「とうとうだな。」

「ああ。」

「負けることだけはするなよ。」

「ああ。」

「今度、ご飯おごってくれる?」

「ああ。」


(よし、集中している。エレナ、大丈夫だ。こいつは強い。)


オスカーは静かに控え室を出て、モンターニュ陣営の席に戻った。


フィンは全ての審判を務めることにした。なにせ第三試合はルイーズなので、何かあって止めに入るならフィンしかいないという判断だ。


「それでは第一試合を開始する。礼!」


リュカを前に八人が綺麗に一列に並び、お互いに礼の形をとる。


「はじめ!」


始まりとともにリュカを取り囲むように八人が散らばる。リュカは想定内といわんばかりに一歩も動かない。八人は誰が行くか様子を伺っている。二人が走り込みリュカの間合いに入った瞬間、リュカが模擬刀を抜くそぶりをして、持ち手の部分を一人の腹に打ち込み、左手に残る鞘でもう一人の腹を突く。二人は膝が地面についても何が起きたのかわからなかった。若手騎士にしてみれば、リュカが模擬刀を抜こうとして、やっぱやめたという動作しか見えていないだろう。


(あと六人。)


リュカは模擬刀を鞘に収めたまま、元の位置で前を向いている。

二人ではダメだとわかったので、三人がリュカへ切り込むが、ギリギリまで迫ったところで、急にしゃがんだリュカが正面の一人を足払いして持っている模擬刀を投げ飛ばす。リュカがしゃがんだことで勢いを殺された残りの二人の顎を、今度は立ち上がる勢いを利用して、模擬刀を抜かずにその両端で打ち上げる。


(残り三人か。面倒だな、いっぺんに来い。)


焦った残りはもちろん三人で来た。リュカはまたしてもギリギリの間合いまで待って、時計と反対回りで三人の足を払っていく。三人は急いで起き上がろうとするが、足を払われた時に鞘で膝を攻撃されていたらしく、その痛みで立ち上がれない。


「そこまで!勝者リュカ。」


リュカは礼をし、さっさと控え室へ下がっていった。


「足払いが先と思われるが、鞘を先に膝へ当て体の軸がぶれたところを払っているな。」

「しかも、初めの位置からリュカの左足は動いていないね。」


オスカーとオリバーが観覧席で解説してあげると、全然動きについていけない王妃が感心している。ルイーズは控え室があるのに観覧席で試合を見ていて、全くお話にならない若手たちの今後の訓練メニューを思考していた。

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