22 昔話2
ポンコツ王には、五年振りにレオナルド自ら領地の報告に訪れるということにして、最小で最良の陣営で謁見を取り付けた。やる気など微塵もない城内の警備は警備といえるものではなく、完全スルーで謁見の間に着くことができた。ユルユル警備に紛れ、ポンコツ王の背後にしれーっと警備兵っぽく立っているのは、レオナルドの息子であり現国王のセオと、暗殺ならお任せのユーゴだ。しかし、こうも誰も気付かないものか?と二人は思ったそうだ。
テンプレ挨拶の口上が終わると同時に、セオの剣がポンコツ王の首元に突きつけられた。
なんちゃって警備兵や側近が目にしている光景を理解した時には、すでにセオ率いる精鋭部隊によって制圧されていた。
そのスピードに満足したレオナルドがゆっくりとポンコツ王に近づいた。
「他国に売れば、その国から殺されるか幽閉されるかどちらかだ。それとも今ここで、私の息子によって切られるか。」
落ち着いた声でポンコツ王へ命の選択を迫る。
「残りの人生はのんびり過ごせるように手配する。これまでのような生活とはいかないが、まともな暮らしを保障しよう。」
ということでまとまった。
担ぎ上げられただけのポンコツ王を殺してしまうのは、無益でしかないと思ったそうだ。
殺す価値もないというということではなく、殺せばそこに少なからず恨みの渦が発生するということをレオナルドはよくわかっていた。渦は後々大きくなり、無関係な国民を巻き込み、望まぬ戦争へと発展していく。だからこそ、血を流さない選択をした。
ポンコツ王からしたら、面倒ごとから逃げたいだけだったので、表向きは退位という形で交流のあったブロッサム王国へ追放されるのは大歓迎だった。
元来、レオナルドは慈愛の人だったので、一度に一生分の命を買い取るのではなく、毎月分割で現金支給することに決めた。でないと、ポンコツ王がポンコツっぷりを如何なく発揮し、一年もしないうちに騙されるか何かで行き倒れるだろうと踏んだからだ。
そして娘のフローラが、好きで好きでしかたがないというブロッサム王国の第一王子に嫁ぎたいというので、嫁ぐことの交換条件にポンコツ王を監視してもらうことにした。レオナルドは、フローラ名義でブロッサムの外れにある小さな屋敷を買い、昔からの使用人を数人つけ、控えめな馬車に乗せてポンコツ王を送り出した。
慈愛のレオナルドとはいえ、もともと王位争いに興味のないポンコツ王を担ぎ上げた側近たちに対しては、それはそれは冷え切った対応だった。
王といっても名ばかりで、ポンコツ王は国政に関われず、重要な役職は側近の近親者で採用し、いつの間にか汚職を家業としていたので芋づる式で殲滅できた。汚職で手に入れた財産は全て没収し、当時の階級位は剥奪した。但し、それぞれの屋敷で働いていた無関係の使用人達には支度金を持たせ、紹介状をつけて、他の屋敷で再雇用してもらえるようにした。
そして汚職役人を殲滅したことで、役職がガラ空きなので、国政組織の再編成を行なった。汚職に関わらなかった有力な家から二名ずつ選抜してもらい、主要組織に振り分け、領地で培った司法を改良し周知させ、国民としての在り方を再教育し、健全な商売を促して、腐敗した王都を正常化していった。
また、国内情勢を正常化するとの名目で、他国からの貿易商人の受け入れを縮小した。もちろん汚職役人と蜜月関係だった商家から出禁を言い渡した。引き続き貿易が可能な商家には、新しくなった王家の通行証を再発行した。これらによって、国外との繋がりは減り、現在では鎖国中といってもいい状態だ。