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学園ミステリ〜桐木純架  作者: よなぷー
夏休みの出来事
57/156

0057ダイヤのネックレス事件05☆

 純架は快心の笑みを浮かべた。知的格闘に勝利したものの余裕がある。


「謎を提供するものとして、実にご立派な心掛けです」


「その後に君たちと一戦交えてから3階のこの部屋に移動したのも、英二や結城との打ち合わせ通りだった。後は黒服からペンダントを受け取って、この部屋で成り行きを見守っていたのだ。いたずらが成功するかどうか、嬉々として待っていたよ。……失礼」


 剛さんはタバコを口にくわえ、火を点けた。紫煙をくゆらせつつ深々と吸い込み、吐き出す。


「それにしても、さすがは『探偵部』部長だ。君が真っ先に辿り着くとはな」


 剛さんは椅子から身を起こし、純架に近づいた。ダイヤのペンダントをそっと彼の首にかける。


「これは君のものだ。君には酷いことを言った。でもああしないと、私が仕掛け人の一人だと見破られてしまう可能性があったからね。悪かった、謝罪するよ」


 再び腰を下ろした。穏やかな顔を窓外からの残照が撫でている。


「高校を卒業するまでのしばらくの間、英二は君たちに預ける。その知謀なら息子の仲間としてふさわしいだろう。その後のことはまたそのときになってから相談するとしよう」


 純架は感激し、剛さんに侮辱された恨みも吹き飛んだらしい。晴れ晴れとした笑顔で頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 剛さんは信じられないくらいの笑みで拍手した。


「さあ、今宵(こよい)はバーベキューだ。腹いっぱい食べよう」


 英二が嬉しそうな、でも少し残念そうな微妙な表情で手を叩いた。


「ちぇっ、もうちょっとだったのにな。まあいい余興だったか。どうだ、純架?」


「うん、楽しかったよ」




 星空の下、俺たちはこの前未遂に終わったバーベキューを、今度こそはと楽しんだ。川原(かわら)で牛肉や野菜、魚を焼いて口いっぱいに頬張る。剛さんや黒服たちも食事を満喫していた。種明かしで奈緒や日向の剛さんに対する怒りも溶けている。スタンドライトと燃え上がる焚き木が周囲を明るく照らし出し、それは川の水面(みなも)に宝石のように反射していた。


 奈緒が日向の首にかけられているダイヤのペンダントを、穴が開くほど見つめている。


「ふうん、じゃあ結局売らないんだ、そのペンダント」


「はい。桐木さんに実物を見せられたら、すっかり気に入ってしまって」


 奈緒は目をもぎ離した。残念そうに吐息する。


「あーあ、私も欲しかったのになあ。ま、いっか」


 英二が燻製(くんせい)の肉を並べた。さっきから悪戦苦闘していた奴だ。


「食え食え、美味いぞ」


 結城がカレーライスを作っている。皿に微量を移して味見した。納得いく出来栄えだったのか、自信満々に声を張る。


「もう少しで出来ますから。期待していてくださいね」


 俺と純架はちょっと離れたところでその様子を眺めていた。もちろん俺が純架に聞きたいことがあったためだ。


「おい、何で剛さんが持ってるって分かったんだ? あんな仲悪そうな親子に見えたのに」


 純架は気楽にコーラの注がれたコップを傾ける。


「1階奥の部屋に黒服さんたちが出入りしていたんだろう? もし中にいるのがシェパードのライアンだけなら、そんな慌ただしいことにはならないはずさ。そこには全ての主人である剛さんがいたと考えるべきだよ。そして剛さんがそんなところで何をしていたのか、なぜ僕らにあんな冷たい態度を取ったのか。英二君や菅野さんとひと芝居打ち、僕らの目から真相を遠ざけるために決まってる。つまり3人はグルだったと、こう結論付けられるわけだよ。英二君が、黒服さんやメイドさんの誰か一人にダイヤのペンダントを持たせたという可能性もなくはなかったけど、彼がそんなつまらないことをするとは信じられなかった。あるとするなら、僕らが確実に『ない』と考える場所だろうと推理したんだ。その場所とはもちろん、冷酷非情な――と思わせた――剛さんのポケットの中さ」


 俺は頭をがりがり掻いた。やれやれと溜め息をつく。


「英二の奴、俺たちが一番想像もつかない方法で隠していたんだな。危うく(けむ)に巻かれるところだった」


 純架は遠くで並んで笑顔を見せる親子にコップを掲げた。


「家業の継承についてはシビアなんだろうけど、それ以外はあれで結構、仲のいい二人なんだよ。親子に乾杯。以上がこの事件の全貌だよ、楼路君」

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