0036エピローグ☆
(エピローグ)
5月も末の放課後、『探偵部』の面々が俺の家に集まった。明日の中間テスト後半戦へ向けて、勉強会で午後を潰すことになったのだ。
親父と兄貴が東京へ引っ越していったため、我が家は急にがらんとなった。こうして人を入れてないと寂しいというのもある。
「そういや新聞部は今回の『生徒連続突き落とし事件』をどう扱うんだい?」
純架が抹茶バームクーヘンを食しながら日向に尋ねる。相変わらず端麗な顔だった。日向は微笑んだ。
「『渋山台高校生徒新聞』といっても前に見た通り、A4縦書きで4ページ――つまり一枚の紙しか使っていません。学校行事の特集や校長先生の話とかを載せたら、もうほとんど埋まってしまうんです。5月号のような特集は無理ですよ」
「何だ、つまんない」
純架はごろりと仰向けに寝転がった。そのままの状態で口を動かす。日向は苦笑した。
「でも掲示板の壁新聞で大きく取り扱ってもらえるよう、先輩方と交渉するつもりです」
「わくわくするね、日向ちゃん」
奈緒は無理矢理同好会に入会させられたわけだが、そのことに関する不平不満は聞いたことがない。それなりに面白さを見出しているのだろう。
英二が改めて念押しした。
「俺の失敗談は書くなよ。分かったな、絶対書くなよ」
まるで熱湯風呂に挑む芸人のような台詞に、俺は思わず笑ってしまう。結城が咎めた。
「英二様を笑ってはなりません」
英二はこの過保護なメイドに鷹揚に手を振った。少し邪魔くさかったらしい。
「ああ、いちいち干渉するな、結城」
「すみません」
純架がダルマのように起き上がり、アイスティーをストローで飲む。唐突に言った。
「ちょっと聞きにくいこと、聞いてもいいかい?」
俺はいぶかしんだ。
「何だよ、改まって」
純架は蚊の鳴くような声を出した。いつにない自信のなさだ。
「君らは僕の友達と考えていいのかね?」
俺たち5人は気抜けした。
「あれ、お前、俺たちを何だと思ってたんだ?」
「私たち友達でしょ?」
「桐木さん、今更何をおっしゃってるんですか? 水臭い」
英二と結城は無言で見守っている。
純架は頬をほころばせた。こみ上がる喜びを隠そうともしない。
「何だ、良かったんだ。友達とみなして……。僕は今まで友達というものを持ったことがなかったから、おっかなびっくりだったんだけど」
俺は純架の頭を抱き寄せ、その髪の毛を掻き回した。
「大将、よそよそしいこと言うなよな。俺たちは仲間さ。皆お前を信頼してるよ」
「それならいいんだ」
純架は頬を朱に染めた。さすがに気恥ずかしかったのだろう。
「英二君、菅野さん。2人は?」
英二は下の名前を呼ばれたせいか、奇妙に顔を赤くした。
「そうだな桐木、同じ部活――『探偵部』の一員としての繋がりは悪くないとは思っている」
迂遠な言い回しだ。俺はその不正直さに内心苦笑した。
奈緒が手を打ち叩いた。
「そうだ、皆で写真撮ろうよ。仲良し6人組ということで、さ。ねえ朱雀君、日向ちゃん、結城ちゃん、三宮君、いいでしょ?」
日向の胸元には例のデジタルカメラが燦然と輝いている。復活した黒縁眼鏡と共に彼女のトレードマークだ。
「構いませんよ。制服姿でないので校内新聞には使えませんが……部活動の発足を祝し、親睦を深めるためにいい一枚を撮影しましょう」
こうして即席の撮影会となった。俺たち男子が前で屈み、後ろに中腰の女子が並ぶ。日向は設置したカメラのタイマーボタンを押すと、急いで俺の背後に回った。
「皆さん、笑顔で!」
フラッシュが焚かれ、シャッター音が鳴り響く。
そうして出来上がった写真は、カメラの画面を見せてもらった限り、なかなか上手く仕上がっていた。俺たちはそれを自らのスマホへコピーした。
桐木純架、朱雀楼路、飯田奈緒、辰野日向、三宮英二、菅野結城。『探偵部』の面々。皆素晴らしく写りが良かった。
純架は感激を抑止できず、声を弾ませた。
「少なくともこの画面の僕らは永遠だね」
俺は写真を待ち受けに設定しながら、微笑して答えた。
「ああ、そうだな」
渋山台高校での生活は始まったばかりだ。
これから俺たちはどんな事件に出会うのだろう?
俺は胸をときめかせ、血湧き肉躍らせ……
かけがえのない友達と、青春を過ごしていくのだった。




