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学園ミステリ〜桐木純架  作者: よなぷー
桐木純架、登場す
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0022今朝の吸殻事件05☆

「何でだ?」


 帰り道、雨上がりの美しい街を歩きながら、俺は純架を問いただした。どうして純架の鞄に入れられた煙草とライターが、矢原の鞄に入っていたのか。確かに大いなる謎だ。春が終わり、次第に昼間の時間帯が長引いてくる今、通りはまだ明るかった。近所の小学生が遊んで(わめ)いているそばを抜き去ると、純架は簡明に答える。


「今日の体育でバドミントンをやった僕は大いに疲れてね。今朝買ったペットボトルのお茶を飲もうと、一足早く教室に戻ったんだ。そして鞄を開けたら見慣れぬものが入っているじゃないか。煙草とライター。これは誰かが僕をおとしめようとしているな、と勘付き、大急ぎで矢原君の鞄の奥深くへねじ込んでおいたのさ」


「どうして矢原の仕業だと分かったんだ? そのときはまだ矢原が入れたとは分かってないはずだろ」


「別に僕は分かっていなかったよ。ただ数日前、矢原君は『渋山台高校生徒新聞』5月号を、僕の目の前でびりびりに破いて捨てたよね?」


「ああ、そんなこともあったな」


「あのとき、僕はむかついていたんだよ。許せない、と思った。僕にしては珍しいことにね」


 純架は道端のポストに懸賞宛ての葉書数十枚を投函した。


 当てる気満々だ。


「それで大嫌いな彼を困らせてやろうと、嫌がらせ目的の軽い気持ちで、彼の鞄に煙草とライターを放り込んだわけさ。まさかロングホームルームがあんな展開になるとは思いもよらなかったし、犯人が矢原くんであるとは――まああるだろうな、とは思ってたけど――知らなかったよ。彼の昼食が購買のパンであり、弁当ではなかったのも一つのポイントだった。自分の鞄を――まあ証拠品は奥に突っ込んだから気づかなかっただろうけど――調べなかったわけだからね。それが劇的な幕切れに繋がったんだ」


 矢原は数日前に自分が仕出かした挑発行為がもとで、純架に完敗を喫したわけだ。


「やれやれ、相当やばかったってことか。何が原因で事態がどう転ぶか、本当に予断を許さないもんだな」


 俺は一つ聞きたいことがあった。


「なんで煙草の吸殻は二本あったんだ? 誰かに見つかったら言い訳できない危険な橋を渡るってのに、なぜそんな手間をかけたんだ?」


「簡単だよ、あれは僕と楼路君の二人分ってことさ。僕たちが毎朝一緒に通学しているのを知っていてそうしたんだ。君も狙われてたんだよ、楼路君」


 俺は冷水を背中に入れられた気分だ。純架は胸に手を当てた。


「以上がこの事件の全貌だよ、楼路君」


 俺たちはプラットホームで電車を待った。人々の顔はいつもより穏やかに見える。


「それにしても驚くべきは矢原の嫉妬だな。いつも虎視眈々(こしたんたん)と純架の失敗を狙っていたかと思うとぞっとするな」


 純架は「そうだね」と同意を示すと、思慮深げに語った。


「でもああまで情熱的に――悪辣(あくらつ)な意図を持って他人を(おとし)めようとするなんて、僕には到底出来ないな。僕はその点だけは彼をうらやましく考えるよ。楼路君もそう思わないかい?」


 俺は滑り込んできた電車のガラスに自分の顔を映した。不出来なそれは純架と比べると大きく落ちる。


「さあな。人間、何をうらやましがるかは人それぞれだ」


 そして、停車してドアを開けた列車に乗り込んだ。

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