表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園ミステリ〜桐木純架  作者: よなぷー
三学期の憂鬱
148/156

0153ミステリ小説コンペ事件01

   (五)ミステリ小説コンペ事件




 俺は富士通のノートパソコンを前に、しかめっ面でキーボードを叩いていた。ブラインドタッチはできるものの、やはり上手とはいいがたく、ついつい手元を見てしまう。


 近くの中古パソコンショップで購入したこの機種は、約1万7000円。ウィンドウズは今頃「7」である。それでも軽い文章を打つぐらいなら、フリーウェアの『TeraPad』もあって楽勝だった。


「ミステリ小説、か」


 マグカップに入った熱いコーヒーをすすり、自分の練度の低い小説を眺める。まだ書きかけだったが、それだけでも素人っぽさがにじんでいた。語彙(ごい)に乏しいし、同じ単語を何度も繰り返してしまったりする。一人称か三人称かは自由とのことだったが、どちらもよく分からん


 何にしても、とても人前に出せるレベルではなかった。悪戦苦闘は当分続きそうだ。


「楼路、楼路」


 弾んだ声とともにドアがノックされる。この声は義妹の朱里(あかり)だ。


「何だよ、どうした?」


「これ見てくれよ、これ!」


 扉を開けると、部屋着の朱里が雑誌を手に立っていた。落ちつかなげに喜色を表して、指差しているのは『街で見かけた個性派美少女』のコーナー。どうやらティーン女子向けのファッション雑誌らしい。俺はどれどれとのぞき込む。


「あれ? これって……」


 朱里だ。目の前の新家族が、華やかな笑みと服装で堂々撮られている。コートを着ているからまだ冬の頃だろう。


 彼女は握り拳を震わせて、身内に高まる感激を示した。


「凄いだろ! 実はオレ、2月に街中で撮られててさ。うまくいったら4月号に掲載されるって話で、あれからちょっと期待して待ってたんだよな。そしたらちゃんと載っててさ。担当のおっちゃんに感謝しきりってところなんだ」


 へえ、たいしたもんだ。ちょっと見直した。


「お前って『個性派美少女』だったんだな」


 ちょっと茶化してみる。朱里は案の定少しむくれた。


「何だよ、文句あるのかよ」


「いや、ないない。ちょっとからかってみただけだ」


「美人の妹をからかうなよな。……ん?」


 朱里の目線が俺の室内に向かう。ノートパソコンのウインドウに記された文章の羅列に、彼女の目が興味深そうに躍った。


「へえ、小説でも書いてんのか?」


 俺は気まずくなって頭をかいた。


「まあ、そんなところ」


「何かの懸賞にでも出すのか? 公募ってやつだろ?」


「いや、違う。そんな大それたもんじゃない」


「へえ、じゃあ何で書いてるんだ?」


 俺は隣人の同級生を恨んでため息をついた。


「俺の通う渋山台高校は、4月7日に新入生入学式を行なうんだ」


「うんうん、オレも出席するやつだ」


「そして入学式が終わった後、各部活動は3分間だけ、新入生に入部をうながすパフォーマンスをする機会が与えられる。当然純架を部長とする俺たち『探偵部』も、だ」


 朱里が先回りした。


「ははあ、読めたぞ。そのパフォーマンスの原稿を書いていたってわけだな、楼路」


 何だ、頭がいいな。素直に認めるのはちょっと悔しいが、ここは義兄の度量を見せるべきだろう。


「そのとおりだ。よくぞ見抜いた。ただ、俺の原稿が採用されるって決まったわけじゃない。実は全部員でコンペをやることになったんだ」




 純架の電話を受けたのは昨日、4月2日のことだ。奴はこう言った。


「もしもし、先生に相談したいことがあるんですが」


「俺は『こども電話相談室』のパーソナリティじゃねえよ。……なんか用か?」


「実は新入生入学式の我々『探偵部』の出し物が、僕と僕と僕の多数決で決まったんだ」


 ひとりじゃねえかよ。


「与えられた時間はたった3分間。この3分間で我ら『探偵部』は何を見せるべきか。部活動の内容をいかんなくアピールし、なおかつ好印象で記憶にとどまるようなものじゃないと駄目だ。そこで僕が考えたのがこの企画さ。すなわち、ジャジャン! 探偵部主催『ミステリ小説コンペ大会』!」


 さっぱり分からん。


「何が言いたいのか、もう少し要領を得てしゃべれよな」


「クールなご感想ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます」


 これ絶対流すやつだ。


「3分間でオチがつくミステリ小説を、『探偵部』全員が書いてくる。そしてそれを皆で審議し、もっとも素晴らしかったものを入学式のパフォーマンスで披露する。きっとナウなヤングにバカウケ間違いなし!」


 ああ、そういうことか。確かにいいアイデアだ。


「でも俺、ミステリ小説なんて書いたことないぞ。無理だって。他の部員も――飯田さんとかだって初めてだろうし。企画として成り立つのか?」


「一位になった作品の作者には、僕から賞金として5000円を出すよ。どうだい?」


 おっ、太っ腹だな。それだけあれば新しいゲームソフトを買えるかも。ちょっとやる気が出てきた。


「いつまでだ?」


「入学式の前日、4月6日だよ。当日は有無を言わさず楼路くんの自宅に集合だ!」


 こいつの身勝手振りにはときどき愛想が尽きそうになる。


「何で俺の家なんだよ。他にもあるだろ、たとえば英二の豪華な邸宅とかさ」


「行くのめんどくさいよ」


 お前の都合かよ。しかも怠惰ときている。


「……分かったよ。じゃあそれまでに何とか一作書いてみる。話は以上か?」


「よかったら今度セブンに行ったとき、『みそきん』買ってきて……」


 俺は通話をぶち切った。




「なるほどね。それでミステリ小説を……」


 朱里は得心したらしくうんうんとうなずく。そして思いがけないことを口走った。


「それ、オレも参加していいか?」


「えっ、お前が?」


 彼女はにやりと口の端を吊り上げた。大胆不敵に言い放つ。


「1位取る自信があるんだ。賞金は5000円だろ? それだけあれば新しい服の足しになる。4月6日までに書き上げるから、そのときはプリンタを貸してくれ。オレは持ってないんだ」


「あ、ああ、いいけど……。何だよ、ミステリ小説を書いた経験でもあるのか?」


 朱里は首を振って否定した。耳元の髪をかき上げる。


「初めてだよ、そんなもん。でもどうにかなるっしょ。楼路、お前のも期待してるぜ。いい儲け話をありがとな。それじゃ」


 彼女は自信満々に去っていった。ううむ、強敵が現れたか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ