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学園ミステリ〜桐木純架  作者: よなぷー
学校行事と探偵部
126/156

0131おみくじの地図事件05☆

 それから幾日かが過ぎ、渋山台高校の3学期が始まった。俺と純架は再び制服の紺のブレザーに袖を通し、毎日の通学を再開した。


 始業式とロングホームルームが終わった放課後、俺たち『探偵部』は部室である旧棟3階1年5組の教室に全員揃った。まどかもしばしの退屈から解放されたと、笑顔で迎え入れてくれた。


 しかし英二、奈緒、日向、結城の4人は冷めた目で俺と純架を見つめていた。


 俺は拝むように手を叩く。迷惑をかけてしまった実感はあった。


「本当にすまん! 電話で一人一人謝ったけど、もう一度謝らせてくれ! 悪かった。この通りだ!」


 純架が俺の背中をさする。


「楼路君もこう言ってるし、許してあげてくれよ、皆」


 お前も謝るんだよ。


 英二は尊大に構えた。ふんぞり返って国王気取りだ。


「それはいいとして、何か忘れてやしないか? おみくじの罰ゲーム、甘酒おごりはどうした?」


 奈緒がくすりと笑って引き取る。


「あと、お汁粉もね」


 俺はこれ以上怒らせないよう従順に平伏した。床を眺めながらぼそぼそと告げる。


「ただいまご用意いたします」


「よろしい」


 純架は手提げ袋から甘酒の紙パックを取り出した。俺はインスタントのお汁粉の袋を机の上に並べる。


「部長として改めて謝罪しておくよ。ごめん、皆。楼路君と二人で勝手に楽しんじゃって」


 俺は全ての紙コップにお汁粉の元を入れると、一つずつポットの熱湯を注ぎ、かき混ぜた。


「とにかく悪かったよ。お詫びだ、飲め飲め」


 英二が眉を歪める。仏頂面だ。確かに初詣(はつもうで)のとき英二は寒がっていて、俺たちに長時間ほったらかしにされたことへの恨みは人一倍らしい。


「反省の度合いが足りない気もするが……。まあいい。結城、コップを持ってきてくれ」


 日向が手渡しに参加する。


「あ、菅野さん、私も手伝います」


「助かります」


 奈緒はそんな二人を半目で見つめた。


「私たちは被害者なんだし、桐木君と朱雀君に全部やらせればいいと思うけど」


 とはいいつつも、結局手助けしてくれる彼女だった。


 冷たい甘酒と温かいお汁粉、二種類の紙コップが全員に行き渡った。純架が乾杯の音頭を取る。


「では、『探偵部』新年――まあちょっと()めたけど――、気合入れていこう! 乾杯!」


 と、そのときだった。


「純架様!」


 その聞き覚えのある声にギクリとしたのは純架と俺だった。引き戸が開けられ、現れたのは……


「う、台さん?」


 他校のセーラー服を身にまとった台真菜が、純架の姿を視界に収めるなり、彼に飛びかかっていった。純架に抱きついて頬ずりし、きらきらした瞳で愛する相手の顔を見上げる。


「ちょ、ちょっと……! どうしたんだい、君」


「またまたー。会いに来たんですよ、あたしが。もっと嬉しそうな顔をしてくださいよ」


 奈緒が呆れたような声を出した。


「その子が誘拐されてた台さん? ずいぶん積極的なのね」


 英二と結城は白けている。動物園で珍獣を眺める(おもむき)があった。


「おい、恋人同士のハグならよそでやれ」


「お熱いことで……」


 真菜はくねくねと蛇のように絡みつき、純架の唇を奪うべく爪先立ちする。これは逃げられない――と思っていたら。


「やめてください!」


 二人の間に割って入ったものがいた。辰野日向だった。彼女はクリンチ状態のボクサーを分けるレフェリー然として、純架と真菜を左右に引き剥がす。純架は助かった、とばかりに日向の背に隠れた。真菜が怒り狂う。


「ちょっと! せっかく色んな手続きしてようやくこの学校に入れてもらえたのに、何を邪魔するんですか、このドブス!」


「ドブスですって?」


 日向が怒りに青ざめた。大声で怒鳴り返す。


「桐木さんは明確に嫌がってるじゃないですか! もう感謝はなさらないで結構、さっさと自分の学校に戻ってください!」


「何よドブス! あんた、純架様の何なのさ!」


 日向がぐっと言葉に詰まった。沈黙した敵対者に、真菜は容赦なく声で斬りかかる。


「どうせ『探偵部』の一部員のくせに! あんたは純架様の恋人でも何でもないんでしょう? 人の恋路を邪魔しないでもらいたいですね」


 こうなると日向は何も反論できない。棒立ちする彼女のそばをすり抜け、また真菜は純架に飛びつこうとした。


「勘弁してくれたまえよ、台さん!」


「嫌よ嫌よも好きのうち! 待ってください、純架様っ!」


 純架は部室からほうほうの(てい)で逃げ出した。真菜が後を追って走り出て行く。


「わ、私は……」


 残されてつぶやく日向が、何だか弱々しく見えた。

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