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第10話 下級生シルヴィオの評判

「嘘…あれって」


女子生徒たちの黄色い囁き声の間を縫って、廊下を歩むルチア。

彼女たちの視線の先をチラと見たら、そこには銀髪の男子生徒の姿があった。


「よく見たら結構…いや、かなり。悪くないじゃない」


そう、よく見てみると。

ルチアをストーカーしている男子生徒は、悪くない、むしろ良い部類に入る容姿の持ち主であった。

銀の髪は柔らかそうで、すっきりと優し気な目元から覗く暗灰色の瞳は暖かみがある。

中背で細身、背筋は伸びて歩き方は洗練されており、華奢ながら充分に気品を感じさせる。

目鼻立ちも申し分なく整っており、華やかさに欠けるという以外には、見た目に特に欠点らしい欠点は無い。

震えながら謝罪をし大泣きしていた時は、情けない姿がその全てをぶち壊していたので、ずっと気づかなかっただけだ。


ストーカーことシルヴィオ・ベルトロットは、勤勉だと評判の下級生であった。

ルチアの学年がゲームの都合で異様に美男子揃いなのに対し、一学年下のシルヴィオの学年には、彼ら攻略キャラほど派手な美貌を持つ男子生徒はいない。

シルヴィオは、その中で充分に美しいと言える容姿であり、下級生の女子からは人気が高いようである。

正直に言うと、あまり派手な美男子よりも、ルチアはこのくらいが一番タイプである。


そんな彼がストーカーだと知っている人物は、この学園ではまだルチアだけであろうか。

中身が残念でさえなければ、攻略対象外とはいえ、ルチアも真剣に考えたかもしれなかった。

ベルトロット伯爵家といえば、隣国の王家と繋がりがあるらしいし、数十年前に大事業に成功して以来、裕福なことで有名である。

攻略法はわからなくとも、ルチアに気があるのなら伴侶候補として挙げても良かったというのに、惜しい物件である。


ストーカーでさえなければ。

そう思う反面、ストーカーでもされなければ、彼に目が留まることはなかったのかもしれない。

ルチアは、転生悪役令嬢という自分に与えられたアドバンテージを、この人生において使わない手はないと思っているのだ。

破滅回避や、気に食わない婚約者の排除だけを目指して、あとは大人しく流れに従うような生き方をする気はない。


ルチアは、もう前世のように惨めな人生に後悔したくないのだ。

ほとんど怨念の様な未練となったその想いが、今世のルチアを奮い立たせた。

今度こそ間違えずに、欲しいものを手に入れに行く。


(…本当に、結構タイプなのに)


勿体ない、と思いながら、廊下の角でルチアはもう一度シルヴィオのいる教室を振り返る。

すると彼は、美しい姿勢で教室から出てきて、先程ルチアが通った廊下を歩いていく。

そこで、少しわざとらしく見える動作でハンカチを落とし、すぐに自分で拾い上げた。

その様子に、ルチアは僅かな違和感を覚える。


陽の光に照らし出された明るい廊下。

シルヴィオの手元のハンカチに、ルチアは目を凝らす。

そこには、プラチナブロンドの輝きが一筋。


(は!?あいつ、私の髪の毛を拾ったわけ!?)


ぞわぞわと、ルチアの背筋を悪寒が駆け抜けた。

髪を落としたことなんて、ルチアは気づかなかった。

それを彼は見逃さず、ハンカチでカモフラージュして慣れた手つきで拾い上げたのだ。


(そんなもの、どうするのよ!?)


ルチアの心のツッコミに答えるように、彼はそれをハンカチごと手早くポケットにしまった。

そして、ゆっくりとルチアの後を追うように、彼女の方へ向かって歩き出す。


(怖い怖い怖い怖いっ!何よこれホラー!?)


その様子を恐る恐る振り返りながら、ルチアは進行方向へ歩き始めた。

追いかけられると逃げたくなるのが、どこの世界でも人間の心理である。

しかし、姿勢よく歩くシルヴィオの足が身長の割に長いせいか、すぐに距離を詰められてしまう。


(うわあああああ!助けてよロレンツォ!)


心の中で助けを求めた執事は、今は彼女の傍にはいない。

嫌な汗を滲ませながら、ルチアは優雅な歩調を崩さずになるべく早歩きした。

しかし、シルヴィオの気配は迫って来る。


(なんでぇええ!?まさか、『落としましたよ』とか言って髪の毛渡してくるとかいう怖い展開じゃ…!?)


さすがにそれは、杞憂であった。

シルヴィオはルチアを静かに追い越した。


ただ、追い越す瞬間、ルチアの髪から二十センチくらいの場所の空気を、彼は思い切り吸い込んで行った。

それは、そこそこ髪の香りはするかもしれない程度の距離であり、彼のことをストーカーだと知らなかったら偶然のことと思っただろう。

しかし、それが故意だと確信しているルチアは、全身の鳥肌を抑えられない。


(ひぃぃいいいいいい!!!!)


ここでルチアは、少し奇妙なことに気づく。

怖いとは思ったし、解せないとも思った。

しかし、生理的な気持ち悪さは無い。

それはストーカーの奇行に慣れてしまった故なのか、あるいは――。

考えたくもない可能性までもが、彼女の脳裏を過った。


(却下よ却下!!!どうしてこの公爵令嬢ルチア様が、あんなストーカーなんかっ!!!!)


心の中で叫ばないとその考えを打ち消せない時点で、割ともう手遅れなのだということを、この時の彼女はまだ認められなかった。

第十話をお読みくださり、ありがとうございます。


好きなタイプの異性にストーカーされている複雑な心境の悪役令嬢ルチア。

高飛車令嬢を震え上がらせるシルヴィオの手腕に、今後もご期待頂けますと嬉しく思います。

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