クロートーに捧ぐ~転生異世界逆戻り~
バキッ!!!という音と共に、わたしの足下から床が消えた。
「きゃぁ!」
真っ暗な穴のなかに吸い込まれていく。
(し…死んじゃう!!お父様、お母様、助けて!)
落下の速度に、わたしは意識を手放した。
「…ぶ?!ねぇ、君、大丈夫?」
(ん…声…?誰?ダグラス?)
ここに今いるはずのない従者を思い浮かべる。
体が動かない。
「どうしょう…死んじゃったのかな…」
不安そうな声に、なんとか答えようと声をだす。
「だ…れ…?わたし…どうなって…」
目を開くと、目の前にとても美しい少年の顔があった。
とても心配そうに覗き込むその顔をみた瞬間、頭の中にたくさんの映像が流れ込む。
わたしは彼を知っている?
「よかった!!君急に落ちてきたんだよ?僕はユリウス。君は、確か…」
「は、はい、ロザリンダです。…殿下」
この人、いえ、この子は…あの時の…
わたしは今の私になる前、中崎碧という人間だった。
あの時道路に飛び出した黒猫を助けようとして、気付いた時には車のヘッドライトが目の前にあって…
「ご…めんな…さ、おねーちゃんごめんなさい。」
(子供?泣いてる?)
目を開けて起き上がると、五歳くらいの少年が私を見つめて泣いていた。
「お…ね…ちゃ」
「どうして泣いてるの?どこかいたいの?」
泣きじゃくる少年を安心させるように頭を撫でた。
「うううう、僕のせいで、僕のせいで…」
「なかないで、大丈夫だから。」
少年は、絞り出すように告げた。
「あのね、おねーちゃん、死んじゃったの。ぼ、僕が魔法に失敗しちゃったせいで…」
死んだ?魔法?
少年は涙をこらえながら続けた。
「おねえちゃん、もう戻せないから、僕が、僕の世界に連れていってあげる。そこで、ずっと一緒にいてあげるから、だから…」
混乱する頭をなんとか立て直し、少年に訪ねた。
「僕の世界?って?」
「お姉ちゃんのところとは違う次元にあるんだ。言うならば…異世界?精霊と魔法の世界だよ?ね、素敵でしょ?だから安心して?」声を聞きながら意識を失った。
「あ…あの時の…」
わたしは呟いたが、殿下は不思議そうな顔でこちらを見ている。
(ここはどこ?なんで?いったいどうなってるの?)
「さぁ、家まで送るよ。怪我してる。」
殿下の口許にうっすらと笑みが浮かんでいたことは知るよしもなく。(やっと捕まえた。ね、僕は今度は間違えないからね。)