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01

宇宙を流れる星々は希望を与え

偽りの大地は人々に幸せを与える

世界の書き換えと構築はもう完了した


後は、必要なものはあと一つだけ


少女が託したのは一つの可能性

未来をつなぐためこの世界を救うのは

接続されし異界の英兵たち





ワイングラスの中から水がこぼれる感覚、何か大切なものを落とした喪失感と共にシムラは目覚めた。

意識が戻ると同時に今いる世界が何処か異端なものであることを悟る。

技術発展した都市が自然の繫殖に飲み込まれた不思議な街。

温かい日差し、横たわる体を支える野草。そして眼前に広がる人の群れをすべてを認識することができている。

しかしこの状態が、体の感覚に違和感を感じないということが現状を困惑、悪化させる原因となっていた。


「なんだこれ」


そう一人で呟いた言葉には多数の意味合いが含まれていた。

ここがどこなのか、なぜここにいるのか、なにかの事件に巻き込まれたのか。

混雑する思考の中、シムラは下を向き落ち着きを取り戻そうとする。

眼下に映る自分の靴は睡眠の時に履いている黒靴下でもなければ、通勤時に履く革靴でもない。

シムラが履いているのは上質なこげ茶色のブーツ。こんな洒落たもの買った覚えはない。

今度は視界を少しずつ上へ持っていく。全身は白のコート包まれ、黒生地のズボンにはポケットが6つも付いている。グレーの上着は市販されているものと変わりないが手元のブレスレッドは悪趣味な人間がつけそうな印が施されている

ある程度の予想はしていたがその装いはシムラの常識を超えていた。

初めてコスプレをした中二病の高校生でもこんな思い切った服を着ないだろう。


「どうなってんだ!ここから出しやがれ」

「ここはどこなの!」

「俺受験生なんだぞ、試験近いのにこんなふざけたことに巻き込むな!」


前方に広がる集団は声を上げ罵倒する。

非難の声をぶつける相手は勿論この場にいないが、苛立ちや焦りを抑えることができないのだろう。

彼らの服装もまた特異な格好で、西洋の鎧や侍の甲冑を着ているもの、女性の中にはアイドル衣装と思われる服を着ている者もいた。

目前に群がるおよそ100人を超える統一性のない人達。

そんな中、シムラ唯一の共通点に気づく



MMO RPG《All Race(オール レース)



様々な種族を選択、アバターを作成しマップを探索、モンスターを倒し報酬を手に入れる。

なんら珍しいこともない典型的なRPGだが初期パッケージ(日本円で6800円)を公式ホームページからダウンロード以外に金銭の使用が不可。

つまり課金アイテムが無く、学生から社会人、年齢関係なく全プレイヤーが自身のアバターでのみアイテム収集を行うことができる。故に難易度が高くコアなゲーマーに愛されるのがこのMMO RPG《All Race》略してオルレスだ。


シムラの前方で広がる彼らの服装はオルレスで手に入る防具アイテムだ。

となるとここはゲームの世界なのか、シムラ自身が装備しているのは間違いなくゲーム内のアバター『シムラ』のものであり社会人ゲーマーの『田村真(たむらしん)』のものではない。


(オルレスの再現?VRかな、いやこんな高いクオリティのVR見たことない…ログアウトはできないだろうな。あんなに騒いでるし)


正直まだ混乱しているが、確かなことはここで彼らと一緒に騒いでいてもことが進まないということだ。

ここが現実なのか、夢の中なのか、それともそれ以外の『なにか』なのか。どれが正解でもこの場でシムラが出来ることはない。

どうしたものか、などと眉間にしわを寄せ、さらに親指を額に押し付けながら今何をするべきか考える。

結果、考えついたのが他プレイヤーとの情報交換だ。

この世界がゲームに似た世界であるのなら説明書を読んでいない自分は確実に生き残ることができない。

しかし周囲の人物は空に向かって「もとにもどしてー」と叫ぶだけで見ず知らずのシムラの会話に応じてくれそうにない。


せめて知り合いがいれば


そう考えたシムラの脳内で昔の記憶が蘇る

オルレスを始め、初めて出会った戦友たち。

ギルドハウスの建築から始まり、高難易度クエストを仲間との連携でこなし失敗したら反省会、買ったら祝杯をあげる。そんな楽しくて何よりも大切な時間。

だが、今やるべきことは過去を懐かしむことではなく過去を糧にして今をどう歩けば良いのかだ。


なにかあったらこれで即連絡すること!


ふと、かつての仲間の声が頭をよぎった。

何かに導かれるように腕を動かし、ズボンのポケットから取り出したのは…片耳に装着可能の小型インカム

昔、シムラが仲間とクエストを攻略しギルドメンバー全員が常日頃持ち歩いていたものだ

あるクエストをクリアすることで入手可能となりこのインカムがあればゲーム内でプレイヤーと直接チャットすることが可能となる。

かつてシムラが所属していたメンバーの中に携帯を所持していなかった人がいたのでゲーム内でこのアイテムを使用することが多かった。

現実世界では携帯などでボイスチャット可能なので大して価値はなかったアイテム。

しかし、今このアイテムを使用すれば知り合いのプレイヤーと連絡することができる。

すぐさまインカムを装着し、旧友と連絡を図る


インカムをつけた瞬間

目の前に広がるのはフレンドリスト、ゲーム内で交流のあったプレイヤー達の名前が記されたそれが視界の中心から拡張する。

リストの名前、かつて所属していたギルドのリーダー『ツカサ』の名前を試しにタップしてみると、電話の呼び出し音に似た音が聞こえる。この世界ではこのインカムを使うことで通話が可能になるようだ。

応答は…ない、そもそもインカムの存在に気づいていないのか、もしくはこの事件に巻き込まれていないのだろうか。

どちらにせよ他に頼れる人がいない

シムラは上から順にフレンドプレイヤーに通話を試みる。


カシム

ここみ

ベルロッテ

シャルナーク

きなこ

もちモーチ

マクナナ


かつてのギルドメンバー数人を呼び出してみるが応答がない。

やはりそう上手くいかないかと諦めながら残りのメンバーを呼び出していたその時


『あーあー聞こえますかシムラさん?おひさーげんきー?こんな状態だけど俺げんきでっせー』

「えっ?誰?」

『おいおい自分から呼び出しといてそりゃないぜ吉田だよ吉田拓真、それともスパイクって言った方がわかりやすいか?』


慌ててフレンドリストを確認する

確かに『スパイク』と記された場所に通話マークが出ていた。


「本当に?本当にスパイクなの?」

『あーそうだよ。スパイクさんだよ俺、シムラは今何してんの?』

「何してるって、別に。ただ1人で困ってるだけだよ」

『そーか、俺も1人ってわけじゃないが困ってる。奇遇だな』


友人の陽気な声に少し気が和む。

スパイク、本名『吉田拓真』

彼は高校生時代の同級生で同じ時期にオルレスを始めたシムラの友人だ

まさか彼もここにいるとは


『なぁ、今どこいる?よかったら合流しないか』

「どこにいるって言われても…先ずここがどこなのか。」

『あぁそれなら確かめる方法あるぞ、お前が目覚めたところの近くに大きい柱とか建てられてないか?俺いる所にはそんなのがあって接触すると場所が表示されたぞ。場所の名前はベルカって所の第3市街だった』


辺りを見渡しスパイクの言っていた柱を探すと思いのほか早く見つかった。

シムラの身長の2倍の大きさの黒鉄の支柱。

支柱に近づき右手で触れてみると黒ウィンドウのなかに白色のテキストが表示される

肝心の場所の名前はベルカ第4市街、と記されていた


『ベルカ第4市街?ならちょうどいい隣街だ』

「そうだね、どこで合う?」

『あーそれなんだが、こっちに知り合いがいてな「一人にしないで!」ってせがんでくるから動けそうにない。』

「わかった、僕がそっち行くよ」

『悪いな、じゃあまた』

「うん、またね」



回線を切り、シムラが向かう先は第3市街。

広場の端には既に移動を始めていた勇敢なプレイヤーたちがいる。

彼らに聞けば第3市街への道を教えてくれるだろう。

未知の大地を歩んで行く。

その姿は未知の探検に心を揺さぶられた冒険者そのものだった。

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