影の薄い女 (ショートショート83)
影の薄い女。
周囲の者たちからよくそうささやかれる。めったに私が、日の当たる場所に出ないからであろう。
私はひどく恐れていたのだ。
他人に自分の顔を見られることを。
このアザのある顔を。
ある日。
私は変わった。
美しい顔の女になった。美容整形の病院で皮膚移植の治療を受けたのだ。
それまでしなかった化粧をし、流行の服で全身をまとった。
気持ちまでもが明るくなる。
――早く治療をすればよかった。
長い間、ほんとうに長い間。
こんなにも簡単なことに、私はどうして気がつかなかったのだろう? 顔のアザさえなければ、こんなに晴ればれとした気持ちになれることを……。
私は何年かぶりにお天道様の下を歩いた。
足が地に着かない。
まるで宙を歩く気分だ。
「おや、めずらしいじゃないか。こんな真っ昼間、あんたが外を出歩くなんぞ」
声のした方向――空をあおぎ見ると、雲間に大男の顔があった。
「おや、三好の大入道様じゃないかえ」
「その顔、どうしたんだい? なんともきれいになったじゃねえか、おイワちゃん」
「ふふふ……」
私は微笑んでウインクを返す。