保守党〜女子大生にもなって一度もカラオケに行ってないことに違和感を覚えたので、家族会議を開きます〜
〜中学高校と学級委員長を務め上げ、勤勉な生徒として先生からの信頼も厚く、大学もある程度名の通った大学に通っていた私が、家族会議でカラオケのオールを女友達としたいと家族に打診したら、父親は激昂し、母親は泣きじゃくり、双子の弟どもは姉が遅めの反抗期に入ったとわめき立て、ボケの入り始めた祖父は賛成した〜
1年前に死んだ祖母に私はどう顔向けしたらいいのと、私のブラウスにすがりついて母親はいった。
呆れた話だが、私の家族はとても保守的で、他の家族で許されるような行為は大抵、
「大宮家の家風に合わない」
として禁止されてきた。
カラオケはもちろん、放課後の買い食い、異性とのデート、スポーツは全て禁止。
父、源三郎、曰く
「おしとやか、規律、コンサーバティブ」
が代々伝わるモットーなのだそうだ。
このモットーが明らかに変であると確信したのは、大学に入ってしばらくしてからだった。
「え、えみちゃんカラオケも行ったことないの?」
「いや、家訓的にNGで。」
みたいな会話を何度したことか。
そんな感じで、友達の遊びなどの誘いを断り続けていた私が、なぜ今更になって家族会議でカラオケオールなどという突飛な打診をしたのかというと、これは単に大学で仲良くなった友達の加奈の影響だった。
保守的な家庭で育った私とは対照的に、加奈は、そう、時代の先駆者だった。
加奈との有意義な対話を重ねるうち、私の家族がどれほど異常であるかを初めて認識したのである。
それと同時に、加奈の見せる新しい世界を、「リベラリズム」として否定し続けてきた親一同に腹が立ってきた。
そういう経緯があってからの、今夜の家族会議である。
私の脱コンサーバティブの手始めとして、カラオケへ行くことを何としても納得させるのが今夜の目標だった。
父親は、ほら、もう寝る時間ですよと、唯一の賛同者であった祖父を寝室に連れて行き、カラオケ反対のための危険因子を排除した(といっても、祖父はカラオケが何なのかも知らずに賛成していたのだが)。
これはまるで、秋風五丈原。
どんな知略を持ってこの難局を突破してやろうと、密かに情熱を燃やす私に、家族は明らかなるコンサーバティブの炎で襲いかかってきた。
今まで守り続けてきた伝統を破るつもり云々。
親不孝をして何が一体楽しいの云々。
いつの間にか、反撃するつもりが、うんうんと彼らの話に頷いている私がいた。
いけない、遺伝子にまで染み付いたコンサーバティブの呪縛から逃れられない。
ここはそう、戦略的撤退しかない。
予測以上の反撃を前に、私はリベラリズムの旗を早々に片付けた。
「皆様のお言葉、いたく心にしみました。
恐らくは何か悪い風に当たってしまったのかもしれません。
願わくば、再考の機会をお与えください。」
そう言って、家族会議を無理やり打ち切って、早々に自室に戻った。
「まだカラオケは無理かもしれないわ。」
そう加奈にメールを打って、ベットにうなだれた。
保守党でもいっか。
まどろみながら、そう考えた。
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