行動に移すは先決なり
『何かしら?』
こちらの声に反応したグラマラスな女性が振り返ってくれた。
どうやら食いついてきてくれたようだ。
ならば、次に移す行動は―――
「どう?俺今パーティーメンバー探してるんだけど……君みたいに可愛い子がいたら戦闘でも元気出るなぁって思ってさ‼︎」
ふふっ。
ここで一気に畳み掛けて一気にパーティーメンバーに引き入れるぜ―――。
しかし、女性は心底困った顔で仁を見つめると、
『ごめんなさい……』
弱弱しい声でそう答えた。
仁は眉を動かして訪ねた。
「ど、どうして?」
顔を近づけて断られた理由について聞いた。
勇気を出して声を掛けたのに撃沈するなんて……。
一体何がいけなかったというのだ‼
『スケべなこと考えてる顔バレバレなんです……』
「え?」
そう言われて、仁は思わず自分の顔に手を当てた。
顔に出ていただと⁉
俺としたことが一生の不覚‼
後悔の念が押し寄せていると、女性が背中を向けて去ろうとした。
『じゃあね』
「あぁ……‼︎待って‼︎プリーズウェイトォオオ‼︎」
一声かけて何の躊躇いもなく去っていくその雄姿をじっと見つめて、仁は嘆いた。
行ってしまった……。
くしくも一人目は撃沈。
だが、今は一人失敗しただけ。
中々の攻撃力だったが、その失敗を次に繋げればいけるはずだ‼
たった一度の失敗で挫ける俺でもない‼︎
女の子のためなら、例え過去にどんな凄惨なことを受けたとしても、それが自分を突き動かす感情だから。
めげずに突き進む姿は勇敢であった。
次はあのショートカットが似合う女の子にしよう。
意を決して自ら話しかける。
「へい、そこの彼女―――」
(いや、待つんだ六間仁‼︎あの子はどう見てもチャラい子には付いていかないイメージだ……)
そう。
男子にも好みがあるように、女子にも好みがいるのだから。
じーーー。
じっくりと観察する。
ここで間違えてしまえば、先程のような失敗を繰り返すだけだ。
それでは意味がない。
どちらかというと好青年でいった方が良さそうだな……。
方向性が決まった。
後は実行に移すだけだ。
よしっ‼
ゆっくりと歩み寄り、慎重に攻めていく。
「やぁ、こんにちは。ちょっといいかな?」
『な、何ですか?』
おっと、明らかに警戒心が剥き出しだ。
これでは少々厳しいか?
「いや、大した用じゃないんだけど……。実は今パーティーメンバーを探しるんだけど……、中々集まらないんだよね」
『そうなんですか?』
「そうなんだよ」
おっ。
どうやら少し警戒心が解けたようだ。
これなら少しは話を聞き受けてくれる可能性が上がった。
畳み掛けるように話を進める。
「そこで、君でよかったらなんだけど、僕とパーティーメンバーになって―――」
と、何とか軌道修正出来たと思った矢先、思わぬ来客が来た。
『てめぇ……、人の女に何勝手に喋ってんだ?』
くそッ―――
横恋慕が入った。
もう少し押せば、仲間に引き入れることが出来たというのに……。
誰だ俺の邪魔をしたのは‼
声を掛けられた方向を向いた瞬間、仁は動きを止めた。
屈強な肉体を持った男が凄まじい形相でこちらにメンチを切っていた。
『あっ、ハルト。なんかこの人がパーティーメンバー探してるっていうから話を聞いてたの』
その男をハルトと呼び、ショートヘアの女の子は男の方へと駆けて行った。
『こいつのどこを信用したんだ?こんな悪人面。絶対について行くな。何されるか分かったものじゃない』
『いや、でも悪い人には見えないし―――』
『見ろこの変態的な顔‼︎どこからどう見ても危ない奴だ‼︎』
こちらを指差して失礼なことを述べる男にガンを飛ばす。
おう待てこら。
お前まであのジジィみたいなこと言いやがって……。
好き勝手言わせておけば……。
「おうテメェ‼︎」
久しぶりに出した大きな声で男を威嚇しようと試みる。
『あぁ?』←凄い睨み
「何でもないです。いい彼女さんですね」←汗ダラダラ
『そうだろ?』←満面の笑み
「はい‼︎それでは僕は用があるのでこれで‼」←逃亡
猛ダッシュ。
この場は逃げるに如かず。
背後を見せる恥ずかしさなんてものは仁には知らない。
『あーぁ、行っちゃった。いい人そうだったのに……』
『いいんだよ、あんな奴ほっとけよ』
去り際に聞こえてくる声に、仁は虚しい気持ちがいっぱいになった。
「クソォ……リア充爆発しろォオォオ‼︎」
そう叫びながら、己の持たなさを痛感している。
きっと前の世界での怠慢が起こした悲劇とでもいうべきなのだろうか。
思わず後悔しそうになる。
あの時もっと女子と話していれば―――
もっと社交的になっていれば、きっと結果が変わっていたのかもしれない。
そう思うと、胸が苦しくなった。
己の無力さを痛感する。
無能さを垣間見る。
無知さを教えられる。
だから自分は駄目なんだ。
だからいつまで経っても変わることが出来なかったんだ。
折角新しい世界に来たというのに、この世界でも前の時と同じような結果になってしまうのかもしれない。
途端に悔しさが脳内を巡り、歯痒さが体を支配していく。
こそばゆくなり、体を掻き毟りたくなる。
今日という日が終わりを迎えようとしてた―――。
取り合えず、今日の所はお開きにしよう。
また明日体勢を立て直すことにしよう―――。
大丈夫。
まだ時間はあるはずだ。
そう思って、自分に言い聞かせて一日を終えた―――。
★☆★
翌日同じようにまだ声を掛けていない人に声を掛けたが、全てが撃沈した。
そのほとんどが既にパーティーメンバーを組んでいるという理由で断られるのが多かった。
その次は、生理的に無理という判断で断られた。
正直心が荒れかけた。
その後も仲間に引き入れようと躍起になっているが、全くと言っていいほど収穫がない。
どんどん日が経ち、いつの間にか死までの期限が目前まで迫っていた。
「あぁもう。パーティーメンバーなんて全然見つからねぇじゃねーか……」
それ以降も手当たり次第声を掛けたはいいが……。
一向に集まる気配がなく……、
仲間集めをしてからそろそろ五日間が経過していた。
いい加減心が折れ掛けていた。
日にちが経過していく度に、死期が近付いているような気分に感じる。
何とも言い難い胸騒ぎがする。
どこかに救いの神でもいれば、すんなり事が運ぶのだろうが。
そう運よくいった試しが前の世界ではなかった。
全てが実力で決まるあの世界では、運なんて望みの薄い選択肢など選ぶ者もいなかった。
そう。
結局のところ自分は負け犬でしかないのだ。
このまま死期を受け入れることも厭わないという境地まで至っていた。
全てが暗くなる感覚に襲われる。
それは知った感覚だ。
何度も味わってきた苦い感覚。
目に光が灯らなくなる。
そして、全てが嫌になる。
何も見たくないと下を向いたその時―――。
「ちょっとそこの貴方‼︎聞いてたわよ‼︎パーティーメンバーに困っているそうね‼︎そんな貴方に朗報よ‼︎実は私も困っていたのよ。中々いい勇者に会えなくてね‼︎そこで貴方に相談なんだけど、お互い困ってるみたいだし、ここは協力していきましょう‼︎てなわけで、私なんかどうッ⁉︎」
がっついてくる女性が仁に向かって声を掛けてきた。
ハッとして上を向いた。
視線の先にいたのは―――長い赤髪が特徴的で。
頭に帽子を被ったわがままボディを存分に強調した美しい女性だ。
顔も綺麗に整っていて女性としては問題ない。
体型も許容範囲内で申し分ない。
自分好みだ。
だが、何故だろう。
この女性に対して全く魅力を感じない。
こんなにも近くに好みの女性がいるのに。
ときめく気持ちもなく、全く何とも思わなかったので、きっとこの人は運命の人ではないと判断して軽く無視して歩を進めた。
次に行かなければならない。
立ち止まっている暇があったら、一人でも多くの者に声を掛けるべきだ。
「って、ちょっと無視ってひどくないッ⁉︎」
彼女も仁の対応に驚いているが、対して気にもならないので、そのまま素通りしていくことにした。
だが―――
「お願い話だけでも聞いて‼︎」
女性は体裁なんてものも気にせず、徐に仁の足にしがみ付いてきた。
泣きついてくる女性を上から見下ろして仁が言った。