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まだまだ模索中です

「ただ……」


不意に放たれた言葉。

書類を書く手が止まる。


「ただ……?」

「勇者が魔王を倒しに行くにはパーティーメンバーが必要でして……」

「パーティーメンバー?何じゃそれ?」

「簡単に言えば、一緒に戦う仲間達が必要になるんですよ」

「ほうほう」


パーティーメンバーか。

確かに必要ではあるな。


強い敵を倒すには心強い味方は多くいた方が問題はないだろう。

入った時に感じたが、ここには頼りになりそうな仲間が沢山いた。


彼らを引き入れることが出来れば、文句なしに有意義なるものになるだろう。

そう。


コミュ症の俺にとってはさして問題のないーーー

……。


…………。

…………………………。


「すみません、聞き間違いじゃなきゃ、パーティーメンバーを集めろと言いませんでした?」

「聞き間違いではありませんよ決して」

「ははっ……またまた。俺、人と話すの苦手なんですよ?」

「えぇ。ですから克服していただこうかなと」


数秒固まる。

いや、時が止まったかのような静けさが個室に広がる。


ニコニコした表情で見守る案内人さんと神妙な顔つきで黙っている仁の視線が交錯する。


(パーティーメンバーが必要だとッ⁉︎冗談じゃない‼︎)


見ず知らずの人に話すなんて俺には出来るわけがない‼︎

何しろ数年間篭っていたのだから‼


案内人さんやまともじゃない奴なら露知らず。

取り敢えず適当に断ろうと思っていたのだが―――


「因みに……」


次に放たれた言葉は耳を疑った。


「一週間以内に仲間が出来なかった場合、強制的に違反となりこの世からの断絶―――つまり死亡します」

「なんでッ⁉︎何の違反⁉」

「コミュ症と判断されて不思議な力で殺されます」

「え?この世界コミュ症ってだけで殺されるのッ⁉︎不平等すぎるだろ‼︎不思議な力ってなんだよ‼人権はどこに行った‼︎訴えてやる‼︎」

「そういうのはお控えください。迷惑罪で処罰されますよ」

「誰にですか⁉」

「名もない者にですよ」

「すみません……。調子乗りました……」


誰に処罰されるかも分からなかったが、取り合えず面倒事は避けるために謝っておくことにした。

仁の謝りを聞いた案内人さんは笑っていた。


「それでは次に進みます」


目的が決まったところで案内人さんが次のステップに行くために話を進める。


「勇者様。名前を決めましょうか」

「名前ですか?」


唐突な話に仁はついていけない。

だが、そんな彼を置いて話は進んでいく。


「ええ、ここでは登録名を決めることが出来るんですよ。名前は自由に決めるのがしきたりでもあります」

「ほほう……」


名前か。

仁は考えた。


確かに向こうの世界でもゲームをやるときは決まって本名は使わない人が殆どだっただろう。


自分オリジナルの名前を使うものもいれば、本名を入りもじった使い方をする者もいただろう。


「そう言えば、立ち会ってからここまで名前を聞いておりませんでしたね。本名は何というのですか?」

「俺ですか?そうですね。数字の六にもんへんに日を書いて間、後はにんべんに漢数字の二で仁、合わせて六間仁ろくまじんです」


丁寧に教え確実に案内人さんに伝わるように紙切れに書いていく。

仁の名前を聞いて、案内人さんが考える仕草を取った。


真剣な瞳に仁は唾を呑んだ。

しばらく黙っていること数秒―――。


何か考え付いたのか。

案内人さんが閃いた様子で手を叩くと、真正面を見つめて言った。


「では、ロク魔人さんと登録致しましょうか」


手をパンと鳴らして満足そうな顔をする案内人さんに、仁は頬を引き攣らせて言った。


「すみません、その言い方だと……ろくでなしの魔人みたいに聞こえるんですけど?」

「問題ないですよ。そのまんまではないですか」


凄くいい笑顔でなんてことを言うんだろうか。

この女性は―――本当に恐ろしい。


平気で人の心を撃ち砕いてくる。

丈夫な精神がなければ、今頃ノックアウトしていただろう。


そうして案内人さんの辛辣な言葉に嘆いていると、


「というわけで、パーティーメンバー作り、頑張ってくださいね勇者様―――もといロク魔人さん」


忘れていた現実が再び蘇ってくるかのような感覚に襲われた。


「はい……」


弱弱しい声が個室に響いた。



★☆★



その後、説明を受け終わった仁は、応接間のような個室を出て最初の目的でもあるパーティーメンバー集めへと足を進めていた。


個室を抜けた先にある人々の集まるラウンジのような場所を壁の柱からこっそりと見つめる。

まるで辺りを猛獣で囲まれた野原に解き放たれたような小動物の気分になった。


生まれてこの方人とあまり喋ったことのない自分にとって、知らない人に話しかけるというのは極めて至難の技だった。


むしろこのまま一人で敵を相手に果敢に挑みたいくらいなのに……。

その方が全然マシだ……。


いや、絶対マシだ。

知らない人とのパーティーなど死んでもごめんだというのに。


何が起こるか分からないぶん不安しかない。

トラブルなどめっぽう免疫がない。


何も起こらないとも限らないし。

と不安を心に抱え、思いながら歩いていると―――あることに気が付いた。


(待てよ……?)


それは疑念だった。

明確な疑念。


(ここで可愛い女の子をパーティーメンバーに入れられれば、自分専用のハーレムを作れるのではないのかッ⁉︎)


それは突然閃いた案だった。

生まれてこの方モテたことのない俺ですら、運さえよければハーレム的展開になること間違いなしだ。


この世界はきっと受け入れてくれるはずだ‼︎

そうと決まれば、早速実行に移さなければならない……。


周りに目を配らせて神経を集中させた。

早速実行に移すべく行動する。


辺りにワイワイ騒いでいる奴らがちょうどいいところにいた。

慎重に人を見つめる。


視線がバレないようにじっくりと舐め回すように見つめる。

仲間集めが大切なことを痛感する。


一つ間違えれば、むさ苦しい野郎軍団が出来上がってしまう。

そんなことになれば、死んだ方がマシだ。


視線を張り巡らせて自分好みの女性を探す。


「こっちの女性もいいな……特に腰回りが絶妙にいい。あっちのグラマラスな女性も捨てがたい。おぉ‼︎あそこの豊満な女性も―――」


ブツブツと独り言を呟く仁に、次第にその存在に気がついた者達が彼を避け始めた。


『おい……あれなんだよ』

『さぁ、気色わりぃな』

『近寄らない方がいいわね。きっと変質者よ』


変質者という野次が辺りから飛び交う中、ようやく仁は話しかける決心がついた。


「へい‼︎そこの可愛い女の子‼︎僕と一緒にパーティー組まない‼︎」


がっつき+チャラさでアピール。

これならどんな女もイチコロで付いてくるはず……。

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