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触らぬ神に祟りなし

(あれ……?何この状況?)


疑念が頭を駆け巡り、事態の収拾を図ろうとした仁に人々の視線が集まり行く中―――。

コツ―――コツ―――。


と、一際大きな足音を立てて、その群衆の中を掻き分けてくる者がいた。

全員は自然とその足音が耳に入り、視線を向ける集団が割れていく。


その左右に分かれた集団達全員がその足音に釘付けになった。

そして、その足音が仁の前まで来ると、騒がしかったはずの人だかりが一斉に割れ始め、シンっと辺りが急に静まり返った。


騒がしかった人々の急な静まり。

その様子に違和感を感じた仁が一斉に向いている視線の方向に顔を向ける。


すると、視線の先―――

そこにいたのは綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、片眼にレンズの入った丸眼鏡を耳にかけ、大きく見開いた目が特徴的な女性がいた。


華奢な体を持っており、女性的な風貌のテンプレートを遥かに超えた美貌を兼ね備えたまさに男性全てを虜にさせてしまうほどの美しい女性が仁の元に歩み寄る。


そして、一言―――。


「お待ちしておりました勇者様」


一際凛とした透き通る声が辺りに響き渡った。

その声ですら聞き惚れてしまうほどに耳に優しい。


突然目の前に現れた美しい女性に仁は問いかける。


「あなたは……?」

「私のことは案内人さんとお呼び下さい」

「案内人さん?」

「早速ですが、こちらに来ていただけませんか?」


そう言われて、仁は呆けた。

素敵な女性に見惚れていたわけではない。


かといって展開に付いていけていない訳でもない。

では、何故か?


それは、決して他の人には分からないだろう。

この角度だからこそ分かるが、案内人さんは俺を冷ややかな目で見ている気がする。


確かな感触はないが、それでも向けられる視線に違和感を覚える。

しかし、行動に移す他にない。


「はぁ……分かりました」


若干戸惑いながら付いて行く。

しばらく歩いてみる。


その道中で、街の風景を眺める。

中に入って見れば、忘れていた記憶を呼び起こす。


煌びやかな街並み。

レンガの素材で作られた頑丈そうな家が仕切りなしに建ち並んでいる。


ここに来てようやく自分が住んでいた世界とは異質であることを悟る。


「あの、案内人さん。すみません。一つ聞いてもいいっすか?」


仁は辺りをキョロキョロしながら案内人さんに問いかけた。


「何でしょうか?」

「ここは……その、どういったところなんですかね?」

「?」


いまいち仁の言いたいことが分からなかった案内人さんは頭にハテナマークを浮かべていた。

戸惑いつつ話しを進める。


「いや、その初めて来たんで……勝手が分からないと言いますか………………………」


途中で言葉が切れ、下を俯いた仁に対して彼女はちらりと見る。


「そうですか。では、着くまでの間、簡単な説明を致しましょうか」


そう言って、案内人さんは溜息を混じりながら言った。


「この街は所謂いわゆる休憩所と言われる旅人達にとっては憩いの場とも呼ぶべき存在です」

「休憩所?」

「はい。文字通りの意味です。旅をして疲れ果てた方々に癒されて頂くべく作られた街となっています。名をリカバリープライスといいます」

「リカバリープライス……」

「集会所とも呼ばれ、沢山の職業の方が訪れる街でもあります」

「へぇ……」


説明を聞いていた仁は独りでに考える。

なるほど。


そんな街にこれから行こうとしているわけか……。

感慨深いものがあるな。


思えば先の世界では外の景色がどうなっているかなんて気にも留めなかった。

内の景色からでしか物事を見極めることしか出来ず、出る勇気すら湧いてこないように。


降り掛かった粉を払いのけるように。

と、次第に暗い顔になる。


あの頃のように深く暗い闇を思い起こしてしまう―――

そして、物思いに更けていると、


「着きましたよ」


その声でハッと我に返った仁が案内人さんの方を見た。

案内人さんに連れられてやってきたのは、何やら手続きとか行いそうな如何にもな雰囲気の場所。


茶色く大きな建物が目の前に現れた。

初めて見たのにも関わらず、それは何度も見たような光景にも思えた。


目の前に聳える大きな扉が悠然と構える。

その扉を案内人さんが開ける。


彼女の後ろに続いて中に入ると、その中は話し声で賑わっていた。

ガヤガヤガヤ―――


聞こえてくる賑やかな声が仁に恐怖心を与える。

びくびく怯えながら案内人さんの後ろを懸命に着いて行く。


ある程度進んだところで、


「ここで少々お待ち下さい」


振り返った案内人さんに手で制されてその場で待機をする。

立ち位置を確認すれば、ちょうど集会所の真ん中に位置していた。


何とも居心地の悪い位置でもある。


ふと、辺りを見渡してみれば、新参者の勇者が来たことなんて誰も気にも止めていないといった体で沢山の笑い声が聞こえてくる。


なんて言うか……。

非常にアウェー感が漂って仕方ない。


誰も話しかけてこない……。

居心地の悪さが更に痛感出来る。


それにしてもいきなり案内人さんとか言う奴が出て来てどうなるかと思った。

まぁ、多少なり案内が雑だが……。


それにしても美しかったな。

あれほどの美女を見たのは久しぶりだったかもしれない。


それまでも見てきたことはあったが、やはり近くで見るのでは格段に違う。

案内人さんの顔を思い返し、そのまま時間が過ぎていくのを待っていると―――

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