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ケンジ

 大丈夫だ。何も心配はない。昼休みのチャイムが鳴ってから10分。人の移動がなくなるのを待って、俺は行動を開始した。

 簡単だ。昼休みの中頃、1人で下駄箱のある玄関に向かう。昼休みには外で遊ぶやつと教室に残るやつがいるけど、外で遊ぶやつは休み時間が始まったらすぐに出て行くから、そいつらがみんな出て行ったあと行けばいい。教室を出て行くところを目撃されても怪しまれる恐れは全くないし、校庭で遊んでいるやつらはいちいち玄関に誰がいるかを見たりしない。あいつらはただボールを投げたいだけだ。

 万が一下駄箱の前にいるところを誰かに目撃されても、そこにいるというだけでまさか女子の上履きを取ろうとしているなんて思う訳がない。女子の下駄箱と男子の下駄箱は隣り合っているから、立つ位置が多少ずれるだけで、遠目から見れば全く不自然なところはない。もし誰かに見られても、何事もないふりをして自分の外履きに履き替えて校庭に走って行けばいいだけの話だ。

 幸いにして教室は一階だから、目的の上履きさえ取ってしまえば、あとは事前に決めた隠し場所に素早く置き去りにすれば良い。ここが唯一リスクが大きいステップだけど、所要時間は十数秒。見られる確率は十分小さい。それに、もし誰かに見られても、口止めする手段はいくらでもある。

 完璧だった。何もかもがうまく行った。誰にも見られることなく、俺はヒロミの上履きを、玄関を挟んで教室の反対側に置いてある熱帯魚の水槽に、入れた。

「ポチャン」という音がして、水が跳ね返った。シャツに水滴がかかったが、この程度なら目立つことはない。

 昼休み終了のチャイムが鳴って、ヒロミが校庭から戻って来れば、彼女は自分の上履きがないことに気がつくだろう。

 このまま教室に戻ってもいいが、万が一ということもある。ドッヂボールをしているタカヒロたちに合流しよう。一緒にドッヂボールをしていたという記憶さえあれば、それで十分アリバイになる。人は誰と一緒に遊んだかは覚えていても、誰がいつ来たかということは簡単に忘れてしまう。俺が途中から来たことなんて、誰も気に留めることなく忘れてしまうだろう。

 いつものように外履きに履き替えて、タカヒロたちのいるところへ走って行った。



 放課後。先生がまたいつも通り、言うはずだ。

「遠藤さんの上履きがなくなりました」

 計画通り。あまりにも思い通りにいきすぎて、笑いがこみ上げてくる。

「じゃあみんな伏せて」

 助かった。笑いを堪えるのに必死だったんだ。伏せていれば、笑いを隠す必要はない。

「心当たりのある人は静かに手を挙げなさい」

 心当たりのある奴なんている訳がない。俺は誰にも見られていない。俺を疑う奴なんて誰もいない。

「残念ながら、名乗り出てくれる人はいませんでした。前にも言いましたが、悪いことをしたら、隠していると一生後悔します。でも、それでも名乗り出ないということは、仕方がないのでまたみんなで探します。見つかるまで、家には帰れません」

 いよいよだ。ただ、ここで真っ先に水槽に向かったらダメだ。あまりにも迷いなく見つけると、最初から知っていたんだと疑われるかもしれない。まずは誰でも思いつきそうな場所を『探す』。男子トイレに入って、個室を順番にチェックする。洋式トイレが詰まっている以外、おかしなところは何もない。

 男子トイレから出て、いかにも「どこだろう」とでもいうように辺りを見回す。これ以上もたもたしていると他の奴が偶然見つけてしまうかもしれないから、カモフラージュはこのくらいでいいだろう。

「先生!あった!」



「遠藤さんの上履きが見つかりました。水槽の中に入っていたそうです。園田君が見つけてくれました」

 ヒロミのほうにちらと目をやってみたけど、こっちをみてはいないようだ。まあいい、俺が彼女の上履きを見つけたということさえわかってもらえれば……

「全部あいつが隠したんじゃねえの?」

 耳を疑った。

「そうだよな、3回とも見つけられるなんておかしいよな」

「自分で隠したから、見つけられるんだ」

「私知ってる!そういうの、ジサクジエンっていうんだって、ママが言ってた」

 違う、俺は……。

「俺が隠したんじゃない」

「じゃあなんで毎回お前が見つけるんだよ。超能力でもあるっていうのか?」

「違うって言ってるだろ!」

 恐怖で気が狂いそうだった。



「ケンジ、朝ごはんできてるわよ」

 俺は自室のベッドの上にいた。土曜日の午前10時20分だった。

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