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タカヒロ

「上履き隠しなんてさ、何が楽しいんだろうな」

 金曜日の学校帰り、いつものようにケンジと駅の側道を歩いていると、彼は突然そう言った。

「さあ。ゲームのつもりなんじゃない?」

 アヤネの上履きが隠されたのは昨日のことだ。よせばいいのに、先生は大げさに「名乗り出ないと後悔します」とか言って、犯人が名乗り出るのを待とうとする。自分から言うわけないのに。

「ゲームねえ」

 ピンと来ていないようだ。ケンジは頭が良くて、なんでもよく考えるけど、ときどき考えすぎる癖があった。今だって、僕たちが小学3年生の男子だと言うことを忘れて、バレた場合のリスクを考えると割に合わないだとか、家に早く帰れれば他にもっと楽しいゲームはあるとか、考えているに違いなかった。

「なあ、今日ウチきてさ、チョコボレーシングやろうぜ」

 ケンジの家は僕の家と違って広くて、大きなテレビとゲーム機が揃っていたから、僕たちはよくそこで『チョコボ』を遊んでいた。おばさんのジンジャー・ミルクティが美味しくて、高級そうなケーキも出してくれるのだった。

「ごめん、今日はピアノのレッスンがあるんだ」

「は? ピアノは水曜日だろ?」

「風邪ひいててさ、今日に振り替えてもらったんだよ」

 おばさんのジンジャー・ミルクティとケーキが恋しかったけど、「友達の家に遊びに行くからレッスンを休みます」だなんて言えるわけがない。

「じゃあ、土曜日は?」

「土曜日は卓球じゃん」

「卓球は2時からなんだから、その前」

「嫌だよ、そんな忙しいの」

「お前、ほんと朝弱いよな」

「しょうがないじゃん」

「じゃあ、日曜日」

「その日は塾の体験授業があるんだ」

「あ、本当に行くんだ」

「ケンジはいかないの? 頭いいんだから、行けばいいじゃん」

「俺、よくわかんないんだ。中学受験とかさ、必要あるのか?」

 次の春から4年生になると言う時期になって、僕たちのクラスでは、中学受験を見越して塾に行くと言い出すやつが多かった。ケンジは頭が良いから、受験すれば絶対良い学校に行けるのに、こいつの考えすぎる悪い癖が出て、優柔不断になっているんだと、僕は思っていた。

「ユウヤもするって言ってたよ」

「は? あいつ馬鹿じゃん」

「でも、アヤネの上履き見つけたのあいつだよ?」

「たまたまだろ、そんなの」

 ユウヤはケンジと違って、なんでもよく考える方ではない。でもユウヤはユウヤで、『鋭い』ところがあった。アヤネの上履きを見つけただけじゃない。授業で使うビデオデッキの調子が悪くなった時に、設定をあれこれいじろうとする先生に、再起動すれば良いとアドバイスしたのはユウヤだったし、男子トイレの幽霊騒ぎの正体がハクビシンだと突き止めたのもユウヤだった。

「でもいいよなあ、あいつ」

 ケンジが言った。

「だって、ヒーローだぜ?」

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