表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
与えられた名は十二月《ゼケンヴリオス》 仕事は冒険者  作者: 故郷野夢路
第二章 束の間の訓練期間
13/26

第二話 不安な訓練は冷血教頭の元で

 転生二日目。

 修行期間初日。


 この日、修行を受けることになる前衛+狩人の生徒らは、まず最初に午前の組と、午後の組とに分けられた。


 ゼケンの振り分けは午前組。

 所属したパーティーはリーダー以外全員剣士。

 リーダーは魔術士のシーファー教頭だった。

 教頭が直接生徒を指導するというのだから、この学校は教員が少なすぎである。


 1パーティーは六人で編成された。

 パーティーの編成人数は重要だ。魔物を倒した際の経験値の入手量に影響を与える。


 基本は五人編成。

 Dランク程度の冒険者までは、もっとも理想的な編成人数と考えられている。

 多くて六人編成。

 Cランク以上の冒険者にとっては、この人数が普通になる。


 七人編成はまず取られない。


 魔物を殺した際に得られる経験値が、特別な場合を除き、まったくの“0”になってしまう為だ。


 ゼケンたちの六人編成は、最低限の経験値を得られ、かつもっとも安全な編成人数といえた。

 そんな話は、気休め程度にしかならないが。


 シーファー教頭のパーティーに属する事になり、少年“ペンプティ”はとても萎縮していた。

 ゼケンはこの少年と話したことがある。頭の中で“おとなしめ少年”と勝手にあだ名していた少年だ。

 少年は名をペンプティと言った。意味は“木曜日”。


「変な名前にされたと思うよ。――呼びにくいし、変なあだ名付けられたらどうしよう、ホント……」


 少年は今気にする必要のない事まで気にしている。

 とてもビビッていた。


 ゼケンの配属されたパーティーには知り合いがもう一人いた。


 ヤヌアリオス。

 “一月”という意味の名を持つ、雰囲気のある男だ。


 以前、カップルの会食に誘われる前に、一緒に料理屋へ行きそうになりかけ、結局行かなかった間柄。

 つまりほとんど話していない間柄だ。


 彼はほかの生徒とは一線を画した、“孤高”という言葉が似合う雰囲気があった。

 かなり無口なようで、かつ話しかけづらい。

 ゼケンは彼と目礼めいたものだけを交し合った。


 ゼケンたちは既に訓練場所へと到着している。

 ロランロラン東にある魔境化した森林地帯だ。


 “魔境化”というのは、平たく言えば“魔物”が出るようになった場所の事だ。

 “魔物”とは、特殊な能力や高いレベルを有し、人間と“魔族”ではない動植物の事だ。


 ゼケンたちの踏み込んだ森林地帯に、これと言った違和感はない。

 ただの森といって差し支えないだろう。

 問題は場所ではなく、人の側にあるのだ。


「だってあのシーファー教頭だよ? どんな訓練が待ってるか、わかったもんじゃないだろ?」


 ペンプティの怯えようは極悪拷問官の登場に怯える罪人のそれだ。


「まあなあ……」


 ゼケンたちが思い返すのは“剣士殺し(ナイトキラー)”エルダーの洗礼。

 人を人とも思わぬ所業。人を殺していたとはいえ、少年の腕を切り足を切り、彼は“残酷さ”など気にも留めていなかった。


 そしてシーファー教頭が、ゼケンたちに“試練”を齎すつもりなのは想像に難くない。昨日の演説で“努力”と“忍耐”込みでそれを強いると宣言していた。


 どれだけ“残酷”な“試練”であるのか?

 それがゼケンたちは気がかりだった。


「ファリアス先生のパーティーがよかった……」

「前向きに考えろよ。厳しい分得られる経験値はこっちが上だ」

「そんな風になんて考えられるもんか」

「俺は考えられる」


 ペンプティはゼケンに胡乱な目を向けてくる。言葉だけだとでも思ったのだろう。


 しかしゼケンは本気だ。この状況をそれほど悲観してはいない。


 強くなる必要があるのだ。

 多少の無茶をしようとも、なるべく早く。


 ペンプティはゼケンの顔に覚悟の差を見たのか、あせる顔になっている。


 ゼケンはレベル1で、校内最弱の男だ。

 しかしいつまでも校内最弱の男がゼケンのままとは、限らないのだ。

 少なくともペンプティは、ゼケンの顔付きにその危険性を見たらしい。


「やばいなあ。僕も頑張んないとまずいなあ……」

「頑張ったほうがいいぞ。じゃないと死ぬかもしれない」


 ペンプティは顔を覆った。


「ファリアス先生なら死ぬ事はなかったろうに……」

「縁起でもない事言うな。――まあ、シーファー教頭はハズレだったかもな?」


 とことん悲観的な少年に、ゼケンは共感だけでも寄せておいてやった。



「いや、お前がいるのがハズレだろ?」



 ずいぶん攻撃的な意見だった。

 ゼケンとペンプティは揃って声の主へ顔を向けた。


 ゼケンほども図体の大きい少年が、こちらへと挑発的な顔を向けている。

 エヴゾモス。“七番目”という意味の名を持つ少年だ。


「おい。レアアイテムも持ってねえレベル1。足引っ張んなよ?」


 少年は明らかにケンカを売っていた。

 自分の力を誇示したくて、うずうずしているのかもしれない。

 ゼケンは思った。こんな少年に始めから舐められているわけには行かない、と。


「お前こそ、レアアイテム持ってんのに足引っ張るなよ?」

「あ?」


 エヴゾモスはガンをつけながら近付いてくる。

 ゼケンは鬱陶しげな顔のままだ。今更この程度で動じるわけがない。

 むさくるしい男二人がにらみ合うと、更に横からそれをつついて来る声がした。

 アヴグストスという少年の声だ。


「お前ら、頭悪そうな会話するね。よく恥ずかしくないな?」


「待て。俺は恥ずかしいぞ? こんな奴相手にしたいもんか」

「んだとコラアア!?」


 エヴゾモスは怒号したが、〈ビシリ!〉という音がすると、凍り付いたように目をひんむいた顔のまま停止した。


 ゼケンたちのパーティーのリーダー。シーファー教頭の登場である。


 彼は昨日の物とは違う、戦闘用の杖を持っていた。

 その杖で脇に立っていた木を一打ちした姿勢のまま、こちらを無表情に見つめている。

 怒鳴らない。顔を怒らせるわけでもない。

 それでも彼が怒っているのだと、この場の全員が理解できていた。


「ゼケンヴリオス。エヴゾモス。もっとも惜しげのない君たちを、このパーティーの“ナビゲーター”に任命しよう」


 かくして、このパーティーのナビゲーターは決定された。

 唐突な抜擢に声を失くしている二人へと、シーファー教頭はとことん容赦ない。


「――聞こえなかったかね? 前に立ち、前進を始めよと言っているのだ」


 ゼケンとエヴゾモスが急いでパーティーの前へ移動する。

 アヴグストス。“八月”の少年が、愚かといわんばかりに首を振っていた。


 有無を言わさず、ゼケンたちは出発させられた。

 訓練が始まったのだ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ