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幕間-1

1/31、2~8話に大幅改稿行いました。既読して頂いている方には申し訳ありません。活動報告を見て頂ければ幸いです。

 真暗な空を稲光が斜めに走る。突然の豪雨に、目を開けている事すら難しく、鞭打つ愛馬も何度も山道の泥濘に足をとられそうになるのを必死で堪えてくれている。ここで馬が足を折りでもすればお終いだ……エールディヒの顔には無数の雨粒に混じって焦りの汗が滲む。

 出立する時は曇天だったのに、何故山道に入った途端に急な嵐が? 女神ラムゼラは自分を阻もうとでもいうのか。それとも、自分の行為は無駄ということなのか。戻って、最期のときまで彼女の傍についていてやるように、との御意志か。それとも、無理と判っていても、彼女を牢から攫って逃げるように、とでも? 

 ――否。如何に剣の腕に他者の追随を許さぬ実績があろうとも、あの牢から脱出出来た囚人は建国以来一人もいない。脱獄の動きを少しでも見せようものなら、直ぐに数百の兵に取り囲まれてしまうだろう。しかも、魔女への憎悪を吹き込まれた死兵たちだ。厄災から国を救う為、魔女を殺せるならば死んでもいいと……むしろ魔女を殺す事で、例え自らは死しても救国の英雄となれると信じ込んだ兵たちだ。かれの配下の騎士たちすら、そうだろう。騎士団長は魔女に誑かされたのだと考えるだろう。忠誠篤い部下たちとは解っているが、無条件に自分を信じてくれる者がいるとしたら、それは幼い頃から片時も離れずにいたグレンだけだ。行き先さえ聞かず、ただ自分がきちんと成すべき事を成して戻って来ると信じている。彼の明るく前向きな思考に今までどれ程支えられてきた事か。

普通の者は気づかないが、殺気への感覚を研ぎ抜いてきた自分は、あの牢の中には蜘蛛の巣のようにびっしりと監視の目があるのをひしひしと感じた。だから、過敏になり過ぎてしまった……今更悔いても詮無いが、マーリアの泣き濡れ、怯えた顔を思い出すだけで刺されたように胸が痛む。

 だが今は、振り返っている時ではない。とにかく、脱獄は彼女の死を早める結果にしかならないと見えているからには、生かす手段だけを考え、微かな光明に縋るしか道はない……如何に険しい道でも。


「たぁっ!」


 かれは愛馬にもうひと鞭をくれた。ここで速度を上げるのは殆ど自殺行為に近いと言えるかも知れない。しかしかれには時間がなかった。もし帰りに先の巫女姫を伴うならば、こんな無茶は出来ない。だから、いま全力で進むしかない。愛馬が辛うじて速度を上げると、向かい風がかれのフードを跳ね上げ、銀の髪は乱れて飛んだ木の葉が絡まった。


「女神よ、どうか無実の者をお救い下さい」


 かれは声に出して叫んだ。だが、応えるのは吹き荒ぶ風の音ばかり。しかし、この峠を越えさえすれば、そのうち街道が見えてくる筈だ。


 ――だがその時。かれは気配を感じ取った。敵意を、殺意を、魔の気配を。


「……やはりか。やはり阻むは女神ではなく……」


 刹那にかれは腰の大剣を騎馬のまま引き抜き、豪雨も切り裂かんばかりにそれを薙ぐ。


「キィィィィーーーーッッ!!」


 どす黒い血が飛沫くも、すぐにそれは雨に流される。どこからともなく忽然と姿を現し、襲い掛かってきた五匹の魔物は、断末魔の叫びと共にぬかるんだ地面に小さな死体となって転がった。


「やはり魔女の差し金か。心の目さえ閉じねば誰にでも見えるこの事実。きっと、セシリアさまはご理解下さるだろう……」


 呟き、剣を収めるとかれは再び先を急ぐ。魔女の名を……かれは、思ってもまだ、口にはしなかった。なにかの間違いだと信じたがったマーリアの為に。



――――――――――――――――――――――――――


「ふふっ、やっぱりあの程度ではダメね。わたくしが出向かなくっちゃ」


 水鏡を眺めながら、魔女は楽しげに嗤う。


「それに、もっと、もーっと、あの二人には、苦しんで貰わなきゃ、ね?」


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