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3【それでは、しばしの間、ご堪能下さいませ】

3【それでは、しばしの間、ご堪能下さいませ】

 

 ガチリッ――

 それは……

「ちぃ、お約束どおりに扉が閉まりやがった!」

 すなわちそれは……

「この館、まだ生きてる(・・・・)ってことかよ!」

 

 …………

 まぁ、その通り。

 彼らが居ないところの変化で言うなら、門前のガーゴイル像が、壊れたまま機能し、門を閉め――グワッシャン!

 

 ……

 

 まぁ、門番なんかは本筋と違うから放っておいて。

 さて、状況を語ってもらうのは――彼にしよう。

 

 ――クリス――

 

 アリスの手を引いた後は、最悪が最悪に最悪した。

 白い騎士団は扉の開閉を諦め、魔獣と人間のチームは勇猛にゾンビどもを蹴散らす。

 

 ゾンビは奥から、二階から――このメインホールに寄って集って。キリがない。

 若干、勢いが弱まったと思ったら、連中――砕かれた頭以外の部分を、他の死体から補強しあっていやがる。

 なんだこいつらッ!


「知性のあるゾンビなんて、聞いた事ある?」

「ない。恐らく、改良ゾンビー」

 白い一団の、年若い少年が大柄の男に訊ね――

「邪教団、居ると思う?」

「十中八九」

 

 ……とんでもない話になってきたな。

 だいたい、何で今になって(・・・・・)現れやがったんだ。

 

 不意に――

「では、全部食べちゃいます」

 

 ……イタダキマス?

 

 そして、闇が広がった。

 

 全部、真っ暗だ。何も見え……る。

 ただ、室内だけが、黒く、真っ黒に、漆黒に塗りつぶされて――

 

「……ゲップゥ」

 黒い女性のはしたない声とともに、決着が付いたことを理解した。

 黒が晴れる。あの女の人も、魔族――なんだろう。

 

「ご苦労、エンキドゥ」

「失礼あそばせました。陛下――いらぬ世話でございましたでしょうか?」

「否、我も片腕にコレをな――抱えていたしな」

 と、レメラを片手で宙吊りに――エンキドゥと呼ばれた魔族の女性が、何か言おうとして――

 

「……助けてよ、姉さま」

 

「ん、登場遅れてすまんな」

 

 ……今、どこから声がした?

 

 全員が、玲瓏なその声を耳にし、そして戦慄する。

 

 メリィッッッ――

 先ほどから乱暴に扱われていた扉が、その怒りに触れた音――なんかじゃ、ない。

 

 

 爆炎ッッッ?――熱ッ!

 

 アリスを庇って前に出て、その衝撃を受け――蝶?

 僕の横をするりとぬけ――白い騎士団たちが一斉に、彼女を見やり――

 

 僕は――絶望を知った。

 僕の背後で――何かが立っている。

 それだけなのに――何か、違う、死ぬ? 生きる? 違う、違う違う違う――

 

 ―――あ、アリスッッッッッ!

 

「姉さま! 遅いッッッ」

「しょうがないだろう。ややこしい買い物を選んだのはレミィ、お前のはずだろう」

 

 ……僕は、唖然となった。

 

 皆、唖然となってた。

 

 だって、そこに居るのは。

 エプロンドレス、漆黒の髪、両腕には買い物籠――

 どこから見たって、単なる村娘――

 

 でも、違う。

 

 旅人な僕ら――

 冒険者である勇者連中――

 白い騎士団の彼ら――

 

 そのどちらにも属さぬ、全身黒の塊たる娘が――僕の背中に立っていて――

「あ、小僧――動けば殺すな。

 こう見えて、ちょっと焦ってるんだ。

 いやな、実の妹がああいう扱いされるとさ、ちょっと、いやかなりブチ切れると思わない? 思うよね?

 その余波で死んじゃったら洒落にならないでしょ? だからさ、少し大人しくね」

 

 そう言って、離れた。

 何だ、あの……威圧感。

 

「でだ、おっさん――言うだけ言ってみるけど、ウチの妹を離しなさい」

「ほぉ、我に向かって、おっさんと――初めて言われたな」

「やっぱり、話の聞かない相手か」

 

 僕は、注視し――何が起こったか理解した。

 

 裸の王様が、吹き飛ばされ――片腕に吊るされたレメラは、今、彼女の右腕(・・・・・)に吊るされて――

「ね、姉さまぁ〜!」

 レメラ、扱いに怒った。

「喋っていいのか? 私には通じないから別にいいけど」

「……ケチブス」

 拳骨が飛んだ。良い音鳴ったな。

 

 ――――ッ?

 

「……我が、飛んだ?」

 と、王様。仰臥した地面を背筋で蹴り、立ち上がり――

「ふん、今、何をした、娘――」

「……聞くけど、あんた何歳?」

 彼女は質問を質問で返した。

「お、我の問いに答えろ!」

「嫌よ。最初に話聞かなかったのはそっちでしょ? これでお相子よ」

 

 僕の直感だが、彼女――良い性格してるな。

 

「ふ、ふざけおって……女、ただで済むと思うな」

「ただで済まないってことは、イヤ〜ンなことでもするの? それともHぃこと?」

 

 場、唖然――

 

「ね、姉さま――Hぃことって、何?」

「まだ貴女には早いわ。まぁ、今は話術戦(わじゅつせん)だから、合の手入れないで」

 僕にだけ聞えた、こっそり話。

 なんだ、この人……

 

「……されたいのか? されたいのか? ん」

 エロい顔してます。男って本当最低……

 

「 陛 下 ? 」

 おっと、ここで黒い女性が陛下の腕を捻り上げ――うわぁ……(これ以上の表現は以下略

 

「……と、とにかく! 我に手を上げたと言うことは、即ち、王に逆らう――」

「やれやれ……眠いってのに」

「こら貴様! 人の話は聞けと、母親に習わなかったか」

 

「私たちに、母はいない」

 不意に、彼女の声が凍った――

 

 刹那――


「では、我がパパンになってやろう。彼女がママだ」

「となると、私はプリンセスか――似合わんな」

「あ、私もお姫、お姫〜」

「レミィはちびこ過ぎる。だいたい白馬の王子様がアレでは、私は硝子の靴を捨てて逃げるぞ」

 

 ……えぇ〜、これは、なんて漫画ですか?

 

「……えっと、お互い落ち着いたなら、話し合えませんか」

 と、二人の間にわって、灰銀髪(アッシュ)の少年が割り込む。

 あの騎士団の隊長らしき、いや恐らく隊長の少年が――ようやく話をまとめようとして。

 

『話し合えるかッ!』

 

 きっぱり否定された!

 

「えぇぇぇ! ちょっと、二人ほのぼの和んでませんでした?」

 狼狽する少年隊長に――

「ほのぼの? ふざけるな――この筋肉マッチョボーイにほのぼの出来る要素があると? あるのは露出狂と変態臭だけだ」

「何を言う、そこの真っ黒クロ子! 貴様こそダブル買い物籠で、エプロン姿なのに、カチューシャはどうした! メイドの分際で」

「私はメイドではない。あと、メイドは私の中で世界で大嫌いベスト1にランキングする最低劣種の存在だ。

 そんな下等生物と、私を一緒に並べるな」


『待ったぁぁぁぁぁ! メイド嫌いには意義があるぅぅぅ!!!』

 なんか上(センテンス)、白騎士やサーカス一団、ついでにアリス! キミまで! 一致団結して叫んでいるんだけど! 

 

 全員が全員、「メイドは宝だ」「メイドの癒しをしれ!」「家に帰ったときの『旦那様、お帰りなさいませ』に癒されろ!」とか崇高だの神だの、的外れた意見が次々――なんだこの空間……

 

 か、帰りてぇ……

 

「……貴様、メイドのありがたみを、否定すると言うのか」

 さすが王様、メイドを嗜んでらっしゃいますか。後ろの黒い人がすごい睨んでますよ?

 

「私には、ヒトと触れ合う機会がないだけだ。

 在るとしたら、いつも戦場の――敵、敵、敵、敵ばかり――」

 

 彼女は――僕とアリスの方にレメラを寄越す。……へ?

 

『あ〜ぁ、知らない』

 と、空を描く文字――

 

 レメラは、笑っていた。

 

 残酷に――

 

『……死んじゃえ、肉達磨』

 

 書きかけて、消えた。

 

 

 

「我は勇者王――ギルガメッシュ! 覚悟せよ、娘ッ!」

「――ルルダ。ちまたの戦士にはこう呼ばれた――」

 

 Asriel――生死を分かつ天使。

 

「――では、絶殺を開始する――」

 

 ……なんでこんなことになったんだか。

 わからなくもないが。

 あの手の連中は、【戦い狂い(バーサーカー)】と言うか、荒事で何でも片付けるのが大好きな類だ。

 レメラの言った、『凶悪』と言う意味がわかったが――

 

 僕はまだ、彼女の一部を、いやただ断片しか見ていないと言うことに、気付いていなかった。


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