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3人『Stand By OK』

 『粛清者』―【Sutand by 】―

 

「父上、報告書を持って参りました」

 僕は扉を叩いてから、部屋に入る。

 肉があった……父さん、また太ったな。


「よぉ(ぼぉ〜)……マイサン」

 肉が、動いた――

 運動したら? 何て台詞ももう数えられない、くらいに――


 横幅三人すわりの椅子を、たった一人で占領できるほどの……質量。

 脂ぎった輝き、皮膚――ちなみに横幅を占領しているのは、腹肉ではない。太股だ。

 身長と横幅がほぼ一致――全身これ肉まみれ、にしてなお、人間の形を最低限とどめている、……だけ。


「ボツボツはかどっとるようヤン。マイサン」

 ちなみに、読解は難しい。喉も肉によって圧迫されて、発音にするなら

「ぼふぼふはかどっどるぼぉ〜やん。マイサン」

 マイサンだけが、微妙に明瞭。あとは無茶苦茶。


 そして、もう一つ――

 散らかっている。白く、白く。鮮明に記載された黒い羅列。だが父の周りにはいくつか赤いしるしが付けられる。

 聖典帝国、司祭長にして教皇補佐官――我が養父、デューク・セクサリス。

 この肉の塊は、もう十年近く部屋に篭りきった結果である。

 なぜなら、この部屋の書類はすべて――10年前の戦争の負債が記され、そして父はそれを全て背負っていた。

 魔王男爵デューク。 

 

 人ながらにして『魔王』の称号を持つ、聖典を掲げる教会の異端にして、最高権力者の一人。

 

「あら、セラフィスじゃない」

 と、顔を本当に肉のそばからひょこっと顔を出したのは――義母(かあ)さんだった。

 レイルード・セクサリス。

 

 世の中は不思議だ。なぜ肉達磨にこんなすらりとした美人がお嫁に行くんだろう。

 誰もが『金と権力だって』と、陰口(かげぐち)るが――

 

 

 恋愛結婚だってさ――

 

 

 

 世の中って変だ。実に大変だ

 

「ロクでもねぇこと考えてンだろう、テメェ」

 と、肉声で父さん。鋭いなぁ――

 

「父さん、本当に恋愛結婚なんだよね」

「フッフ、まぁ、確かに今のこのブヨンブヨンじゃねぇ〜」

 と、秘書風バリバリの雰囲気を放ったまま、童女のように笑みを浮かべて、どこかの肉をポヨポヨ叩く。

 義母さんが、こんな風に笑うのは、父さんの前だけだ。

 ……なんてわかりやすい夫婦なんだ。

 

「昔は格好よかったのよ。翼生やして天使の真似事して――勇者君と組んで世直ししてたし」

「その人気がたたって、今じゃ五年の引き篭もりよぉ〜。なぁ、今日は晴れか?」

「今日は雨です――父さん」

「そぅかい……悲しいことでもあったんかいなぁ〜 御天とさん……」

 

 そういいながら、父は一枚の報告書に眼を通す。

 

「不死者か……ご苦労さん」

「父さん、僕は生身の人間なんですよ」

「生身の魔術師がへ〜こら弱音吐くな」

 

 そう、僕はなんてことない――

 正体は、単なる魔術師だ。

 体力に至っては、成人男子の平均か以下――

 いや、それなりに鍛えてはいるから、平均以上といっておかないと、

 他の騎士たちに悪いか。

 

「じゃ、張り切って二人目いくか」

「まてよ、糞親父」

 

 あ、裏僕登場。

 ……きゃっは♪

 

「何回言えば聞きやがるんだよ。僕は生身で、普通で、

 純粋無垢な生粋のお人間ちゃんなんですよ?」


魔力異常飽和オーバー・キャパシティ

 未来予知(ブルー・アイズ)

 武器生成:大鎌(フル・ブルーム)

 未成熟体質(アンアダルト)

 加えて飛翔体質(フライング)

 ……なぁ、お前、自分が通常人類だって胸張っていえるか?」

「言えます」

 

 親父にだけは言われたくないな。人類十倍。体積が(親父の陰口その2。


 

「魔力異常飽和に至っては、戦災孤児に見られる、基本的疾患です。

主に戦死者、死亡者の残留思念、いえ残留魔力を吸収してしまった結果」

 無論、僕のことだ。


「未来予知だって大げさな。

実戦経験と体術の予備動作で相手の行動なんてだいたいわかるでしょう。

周りの瑣末な異変、異常を敏感に察知するだけで、

いつ何が起こるか――わからなくても身構えるくらいはできます。」

 そして、部隊を率いる上では、こういった周囲への気配りはやはり必須だ。

 

「武器生成――だって、僕はこれしかできないんですから。

植物霊(ドライアド)たちを精錬して、鎌モドキ(・・・・)を形成する……」

「よく葉っぱで人体切断できるなぁ」

「植物繊維の威力万歳」

 ありがとう、僕の観葉植物たち――

 

 のあとは、僕は散々親父と義母さんに愚痴愚痴いいながら、書類を持って退出していた。

 アレ? ……なんだかんだで仕事請けちゃったし。

 

 ……いつの間に丸め込まれたんだか。

 畜生、まぁいっか――

 

 

 

 

「あいつ、生まれる時代、絶対ぇ間違ったな」

「かと言って、少し前に生まれてたら、本当の地獄よ」

「嗚呼、戦争の後だからこそ、か。皮肉な力だなぁ――」

「また留守番だから、お花に水入れてあげないとね」 

「また怒られっぞ? こないだ肥料多くあげたらえらく叱られたぜ」

「ふっふ、でも、あの子。本当、花を生けるのが上手いのね」

「自分の人生を失敗しちまったと思い込んでいるんだ。その分、他人に酷く優しすぎる。それが弱点だ」

「……そうねぇ」

 

 

「で、あの子――次は何処へ送ったの?」

「ゾンビが頻繁に出るって話の森と、その館」

「……あそこ、確か――」

「んなん?」

「……アズリエルの目撃情報がなかったかしら」

「ぶっぼっほぉ!!!」

 

 

 


 『薄幸の少女』―【Sutand by 】―

 

 

 さて、私たちアリスと愉快な仲間たちは一路――

 大自然に囲まれた緑溢れる世界にやってきました。

 

 ぶっちゃけ言っちゃえば、森の中。

 えっと――ここ、どこ?

 

 

 以下、回想シーンの始まり始まり〜

 

 

「もう少しで広がった場所に出ると思う」

 とは、元復讐者のおじさまの言葉。

「迷子になるんじゃねぇぞ」

 とはクリスだ。生意気だぞ?

「で、ここはどこです?」

 私の言葉に、二人――

 

『……さぁ?』

 

 この二人ッ! 駄目すぎる!?

 

「だって、ここ一本道だろう」

「戦時の記憶だが、この先に大きな洋館がある。

かつてこの森を統治していた領主の館だったのだが……我が軍が滅ぼした」

 おじさま、実はすんごい人だった?


「その領主は、ガルフォニアの貴族であったのだが、邪教と繋がっていて――

 結局、教会の威光で我が軍が動かされたのだ」

 我が国がだいたいどのような国か、ご理解いただけたかな、と、おじさま。

 

「邪教繋がりか――危ねぇ森じゃねえだろうな」

「粗方片付けた記憶はあるが、あんがいキマイラがいるかもな」

 おじさま、意地悪……

 

 GRYYYYYYYYYYYYYYYYYYY……

 

 

 ……い た し ……

 

 

 〜〜で、現在〜〜

 

 今日の夕飯はお肉になりました。

 おじさまが剣でバッタバッタ薙ぎ払っちゃうし、

 クリスもおじ様仕込の喧嘩術と短剣術で私を助けながら、おじさまの邪魔にならないように。

 私は後ろでキャ〜キャ〜喚いて……クスン

 

「……おうちに、帰りたいよぉ」

「お前、よく家出してきたな」

「私は迷子になったんだって……」

 お父さんを探しに――

 

 幸い、現れたのは魔物のキマイラじゃなくって、単なる野犬だったらしく、

クリスが火をつけた松明を作ったら、あっさり退けられた。

 

「……ふん、明かりか」

 不意におじさま。

 言われてみると、奥のほうでほのかな明かりが。

 

 よくみると、木々の奥に覗く、白亜の影――

 

 大きなお屋敷の屋根が――――

 

 

 

 

 『勇者王』―【Sutand by 】―


「我は『勇者(はだか)』であるッ……」

 

 ……

 

「おい、チキン。今、ボソリと何か言わんかったか?」

「いいえ、国王陛下。断じて はだか などと、公衆の面前を(はばか)りなく豪語するような台詞、断じて」

「誰か? おい、猫――鶏と遊ばんか?」

「失礼致しました国王陛下。今、はだか と断じて言いました」

「うむ、死刑。猫、Go!」

「……や、やさしく食べてくだぎゃぁぁぁぁぁ!」

 あまりにも可哀想なので、描写するのは省こう。

 

 あの奇天烈な町での大騒動の後は――

 このようになった。

 

「おい、筋肉――」

「……うが?」

「我の肩を揉め」

「うがぁ」

 あの山賊だったゴーグ君がもみます。

「エンキ、今日の伽は寝かさぬぞ」

「まぁ、ギルガメッシュ陛下ったらぁん!」

 バッコ〜〜〜ン……

 

 カオス拳骨。パンチにあらず、影が一個の拳になって陛下を彼方にぶっとば――

 

「そこの雑魚一」

 帰還早ッ!

「名も無いキャラは適当っすね。こないだの山賊、最初にぶっ飛ばされたのが自分ッす」

 どうでもいい紹介だった。作者も忘れているぞ、絶対。

「うるさいぞ雑魚B。そうか、我直々に拷問をもらいたのだな? だが、我も多忙だ。

 代わりにおい、ライオン」

「俺、スフィンクスですって――国王陛下」

「えぇい! どいつもこいつも! 我が間違いを犯しているというのか! ならば言うてみろ!」

『存在そのもの』 

 

 一同、合唱。


「よし、たまには勇者らしく、魔獣成敗+おまけとしゃれ込もう。全員、我直々にお仕置きしてしんぜよう! 来い、エクカリ!」

「エクスカリバーさまは現在、聖剣ブリュンビルデさまとおデートだそうで」

「ば、馬鹿なッ! 剣の分際でデートだと! チキン、ならば代わりに貴様が我の剣と成れ!」

「な、ちょっ! おま……」

「今、お前と言おうとしたな? あとで猫餌だ。あと、魔剣コッカトライスと言うのも洒落ておらぬか? 相手を次々に石化させるのだから」

 石化の部分、洒落になってないぞ。

「あら、大丈夫ですよ? 石化解呪は乙女の嗜みです」

「ねぇ〜」

 平和な女性陣、エンキドゥ妃に陽気なナイトメア、優雅に微笑む赤い髪のダンサー……

 

「ふっふ、本当に平和ねぇ〜」

 何故か眼から石化ビームを出す、魔剣コッカトライス 執事服装備を、片手で振り回す巨大なガキ。

 

 魔獣と人と、そして勇者の混戦パーティ。なのだが――

 

 実際は違う。

 

 魔獣たちは危険動物であり、人間パーティには山賊だけに留まらず、元海賊やらならず者達が大勢いる。

 

 そう、彼ら勇者組みは、俗に言う『お尋ね者』。

 前述の村の壊滅は、明らかにどっかの馬鹿王と「誰だ! 我の悪口を叩いておるのはぁ! 覇ッ波ァァァ!」

 ……失礼、人間規格外の王と、不良聖剣エクスカリバー(彼女持ち)の喧嘩によるもの。

 

 怪我した山賊や魔獣たちが総勢で修繕できる箇所は治したが、

 ……魔獣たちをあっさりと受け入れてもらえたかと言うと、そう言うわけにもいかない。

 

 ホッと一息ついたエンキドゥ妃に浮んだのは、子供たちの眩しい瞳だった。

 絶対の混沌、唯一無二の黒――殺神種にして災害指定、そんな彼女にも等しく降り注がれた、憧憬の光。

 

 子供たちほど、無邪気な光は無い。

 彼らには区別が無い、区分が無い――平等に、浴びせられた、彼女への輝き。

 

 触れただけで石化する、と揶揄されるチキン、いえいえコッカトライスにも「兄ちゃん大変だな」と同情を浴びせるませた子供とて、

コッカトライスには新鮮な情景(かがやき)ではないだろうか。

 

 人は、(よわ)い。

 人は、(もろ)い。

 人は、(ずる)い。

 人は、(かしこ)い。

 人は、(あさまし)い。

 人は、(ふてぶてし)い。

 

 人間は――弱者だ。

 

 ――違う。

 

 初めて、魔獣たちを否定したのは。

 

 子供の勇者だった。

 子供な勇者だった。

 

「泣きたいんだったら泣けよ! 苦しいんだったら叫べよ! 助けて欲しいなら言えよ! 俺が飛んでいく!

 どこへだって、どこだって、俺は王様になるんだ! いや、今、王に成る!

 決めた、王になってやる、お前の、お前たちの、世界の王になって救ってやる!

 人も、魔物も、人外も、誰でもだ!」

 

 ……本当に子供だなぁ。

 

 石化した従者たちを足蹴にしている王を見据え、

「陛下、石になったのを壊しちゃったら、元に戻りませんから気をつけあそばせ……」

 遅かった。

 ガッシャン――

 

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