表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

三人目 『勇者王』

――我は(おう)である!――



――我は(ちつじょ)である!!――

――我は(ぜったい)である!!!――

――我は(ほう)である!!!!――

――我は(くに)である!!!!!――

――我は(せんじん)である!!!!!!――

――我は(ゆうしゃ)である!!!!!!!――

――我は(さいきょう)である!!!!!!!!――




――我は(にんげんのおう)である――




「ぬわぁ〜〜〜っはっはっはっはっは!

長かった、ついに長かったぜ! が〜っはっはっはっはっは! がぁ〜っはっはっはっは!!」

国王陛下(・・・・)。恥ずかしいから止めやがれ、なのです」

「ん? 何か言ったか? (チキン)?」

「いいえ別に」

「恥ずかしいから止めやがれ、なのです、と言わなかったか?」

「聞えてるじゃないですか! この変態暴くぐぼっはぁぁ!?」

 初っ端から間抜け漫才をしでかす、執事の青年と――――

 

 

 裸がいた。

 

 

 素っ裸、下一枚、しかも腰蓑とか、石器時代でしょうか?

「黙れ、下賎な家畜よ! 我は王である」

「知ってますよ。国王陛下――でも、最低限あるでしょう、国王のマナー」

「タワケがぁぁぁ! 我は王である、王である我が即ち法、秩序、先陣を駆るべき勇者!

その勇者が、何あって、華美な衣装! 頑強たる鎧! 庶民としての軽装?

そんな馬鹿げた衣装など、着なければならぬのだ!」

 

 裸が叫んだ。

 

 が――誰も突っ込まない。

 

 その裸は、

 華美な衣装よりも華美で、

 頑強たる鋼より鋼で、

 庶民的軽装より、

 さらに軽装であった。

 熟練の達人でも惚れ惚れするような鍛え抜かれた、超鋼鉄の筋肉、

 それが無駄なく全身に掘れ込まれたような、整いすぎた筋肉――

 さらにそれを惜しみなく晒す、……腰蓑。

 身長はさらに恐ろしく、でかい。

 執事の青年は、このメンバーの中で王を除けば最長だというのに、王の胸板までしか届かない。

 そして、美形――娘たちを誑かす甘いマスクなどではなく、精悍に掘り込まれ、獰猛な野獣性を秘めながら、

 丸い蒼眼が愛嬌を垣間見せる――

 

 巨大な少年、それがこの旅行王の第一印象である。

 

 そんな目立つ彼らは今――――

 

 

 

 山賊に襲われている街、という修羅場にいた。

 

 

「……な、なんだ? この変態どもは」

 道理である。

 超馬鹿でかい野郎+執事。

 に続くは喪服のような衣装を纏った女性、さらにはピエロが二人に仮面の怪しい人、

 続くは禿頭の青年に、思い思いの衣装の男女数名――

 

 ぶっちゃけ、サーカスに見える。

 

「愚民が! 王を前にして変態とは……我の姿を見れるだけでも恐れ多いものだというのに

 ――貴様は、即刻いね」

 

 

 

「……はぁ?」

 

 ……ゲラゲラゲラ

 …………ゲラゲラゲラゲラゲラ――

 

 哄笑の渦が生まれた。

 

 場をお伝えしよう。

 国の入り口に王の一団、

 そこから伸びる街道の中央広場に、町民たちが集められ、

 鉈や斧を持った山賊一団があちこちに――

 

 お決まりのパターンである。

 では、お決まりに添って、退治していただきましょう。

 

「……国王陛下、私、ちょっと大臣から足洗っていいですか?」

「……チキンよ、我は今、いねと、申したよな?」

「左様で」

「……なぜ彼奴らは自害せぬ(・・・・)?」

 

『……あ?』

 

 なんかすごいこと言い出しちゃってます。

「我のような高貴な身分に命ぜられたならば、

 消えろと言われたなら

 その得物をもってして速やかに自害する(・・・・・・・・)のが礼であろう?

なぁに、貴様らの遺骸の処理など、王の権限で特別に清掃してやろうとまで(はか)らっていたのだが」


「国王陛下、そこまで無駄なお考え、いえ――咎人たちへの深い配慮……さすがぼがぁ!」

「無駄といったな。後で貴様には拷問だ」

「は!? ひ、ひぇぇぇぇぇ」

「たっぷりと『猫』に愛でて貰うがよかろう」

「そ、そそそそそそれだけはご勘弁をぉぉぉぉぉ!」

 (チキン)だけに、猫のような肉食類は苦手のようです。


「国王陛下?」

 と、先ほどから後ろで清楚なほほえみを湛えていた、黒い喪服の娘が前に出て、

「なんだ? 我が妻よ」

 と国王陛下は抜かしやがりました。

 これにはさすがに山賊さんたち、ぶち切れました。

 かなりの美女です。

 喪服なのに胸から腰にかけて、ふわっ、しゅる、ポヨン

 ……ボッ、キュッ、ボンとはまた違った、柔らかくしなやかな体の持ち主です。

 顔だって王に負けず、色白ながらも整った美しい娘です。

「彼らは咎人(とがびと)、咎人は王と言う秩序に反する(やから)と存じ上げます。

 即ち、彼らは王の技量――度量を推し量りたいのでしょう。

 これすなわち、国王陛下への試練とも考えられます。如何でしょうか」

「ふんっ、我が妻ながら、我より裁量が深い――ならば、問おう。我はいかにすべきか?」

 この唯我独尊は珍しく思慮を乞うのは、無論、妻である彼女だけっぽいです。

「デコピンで退治してみては如何でしょう?」

 そして、彼女も馬鹿っぽかった。

 

 で、馬鹿馬鹿しい事態が発生。

 

「そうか、デコピンか。アレは確かに楽しいぞ」

 鉄球が出てきた。

 大人の頭、三つの穴――どこぞの現実世界で言うなら、ボーリングとか言われそうな、そんな鉄球が、突如あらわれて。

「次々と人が倒れていく様は、見ていて中々滑稽であろう? 妻よ」

「然様でございます。国王陛下、我が君……」

 あらあら、顔赤らめちゃってますよ奥さん。どこのバカップルだよ、おい。

 

 そして、投擲――否、本当にデコピンでぶっ飛ばす、馬鹿力王。

 そして飛来する鉄球は、ありえない軌道で山賊たちに襲い掛かる。

 緩やかなカーブを描いていたと思えば、スピードが徐々に上がっていき――

 

「って、お、おぱぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「こ、これ――鉄球じゃねぇッ!」

 

「ご名答です。それ、【重力弾(グラビディ)】です」

 にこり、と笑う国王のお嫁さん。要するに女王陛下ですね。

(わたくし)、魔族ですので、闇魔法を少々」

 と、両手にポンポンと黒い鉄球を次々生み出しては、

「そして、勇者王ことこの我――最高のパートナー同士ではないか!」


 いまいちパターン化しつつある、人と魔族のコンビの模様。山賊さんたち、最悪です。

 

「ごるわぁぁぁぁぁ!」

 巨漢の山賊登場。重力弾を自前の筋肉と大斧で粉砕ッッ!

 

「おぉ〜! ゴーグッ!」

「やっちまえ怪力馬鹿!」

「出番だぜ、ウチの筋肉担当!」

 仲間の声援付きで、人気も高いようです。

 

「ほぉ、愚民の中にも中々やるの」

 と、ずいと前に現れる国王――なんと、怪力山賊(ゴーグ君、推定30歳)よりも図体がデカイ。

 

「よかろう、我が直々に遊んで……やりたいのだが」

 国王陛下、唇を尖らせて――

「実は、餌の時間でもあるのだ。おいで――聖剣エクスカリバー」

 

 定番の名前が出てきた。

 

『出番おせえんだよ! 勇者王なめんなボケ王子ぃぃぃぃぃ!』

 聖剣――飛来。

  

「ちっちゃぁぁぁ!?」

 ショートソードが出てきた。

 

 違う、確かに伝説や伝承に伝わる装飾華美で、魔力パッツンパッツンの超強力魔剣、いや聖剣なのだが、

 使い手が規格外なくらいに、デカイ!

 腕の太さが女性の腰周り(痩せ型女性)級で、身長だって大の大人を三回りは軽く超える。

 

『しかも、餌の時間って何だ! 餌ってのは! 俺は兄筋の魔剣、グラムとは違うわぃ!』

「我の力を食らうのだ。変わらんだろうに」

(たわ)けぇぇぇ! そりゃ単にお前が剣を使えない(・・・・・・・・・)だけだろうがぁぁぁ! いちいち振り回すだけで、疲れた、ってそりゃ飽きたっつうだけだっつうの!』 

 

 ロクでもない話が出てきた。

 そう、この国王、聖剣が規格外に小さい(・・・)ので、もっぱら素手で戦う乱暴極まりない勇者様だった。

 騎士の誰もが憧れる、伝説のあの聖剣を、この馬鹿王は持て余していた。

 いや、聖剣のほうが、主を持て余しているのだ。

 

「世は聖剣の力などではない。愛だよ、愛こそが力なのだよ!」

「きゃん♪」

『単にエンキドゥと乳繰り合って説得しただけじゃねぇか! そこ嫁! 年考えてキャンとか言え!』

「なっ! 聖剣といえど、我が妻を侮辱するか! 即刻圧し折ってくれよう!」

『やってみろ、変態思春期馬鹿王子!』

「我は王だ!」

『俺からしてみりゃ、ひよっこ王子よ! 剣もロクに扱えぬ阿呆王子!』

 

 

 

 そして――惨劇が始まった。

 

 聖剣から放たれるビーム、ビーム、ビーム!

 

 例『聖鋼練磨界戟!』『陀羅尼盆ッ』『煉獄改光澪』『奥義 聖成剣乃運命』

 

 そして筋肉王から放たれる、しなやかかつ鋭く、美しくも肉体迸る、拳と拳!

 

 例『右フック!』『左フック!』『波動戟』『地砕』『必殺 愛 羅武 縁軌道!』

 

 

 それを涼やかに見守っていたのは、妻だけのもよう。

 っつか、国王引率の国民たちは速やかに非難。山賊やら町の人たちを促して、物陰に非難――

 

 どうして人と剣の喧嘩で、大爆発とか起こるんでしょうね?

 

 

「な、ななななな何なんだよ! あの人間規格外の化け物はぁ!」

「あの人は、我が国の国王陛下にして、立派な勇者王でございますのよ」

 と、戦意喪失の山賊さんに、奥さんのエンキドゥが微笑みます。


「もともと勇者の家系でして。聖剣やら魔法剣と対等に渡り合え、

魔族や魔王、魔神と命がけで渡り合える者たちが、【勇者】と呼ばれます。

彼もその一人だったんですが――」

「優しすぎたんですね。我が馬鹿王子は」

 とは、執事、(チキン)君。


「初めて勇者として戦った、エンキドゥ王妃を、一目惚れかつ、

暴走を生身で引き受けて――一夜にしてそれを収めた――」


「そう、勇者たる証――人が持ちうる最終兵器、【聖剣】や【魔剣】を持たず――生身で(・・・)!」

 と身を震わす魔族の奥さん。

「嗚呼、あなた方に私の感動がご理解できて? 一人ぼっちで、何も知らず孤独だった私が、初めて――初めて」

「はいはい、その話は百と七十三回おぼわぁ!」

「鶏ぃ! 我が妻を虐めるなぁぁぁぁぁ!」

 王様は地獄耳もお持ちのようです。

 

「うぐぅ……、国王は常々悩んでおられました。何故人と魔族は手を取り合えないのか。

なぜ争い続けるのか。そして出た結論がアレです」 

 ……アレ……

 聖剣と大喧嘩すること?

 

「いえいえ、世直しの旅ですよ」

 世荒らしの旅の間違いですね。

怒環(ドワ)っ波ぁぁぁぁぁ! 何だ、誰だ! 我らの覇道にイチャモンをつけるのは!」

 真上に向かって、真空波を放つ! ってか、どれだけ規格外なんですか、この勇者王ッ!

 

「我々は、正直、あのば……じゃなくって王子……でもなくって、国王陛下が、大好きなんですよね」

「そうそう、暴れん坊でハタ迷惑極まりないけどさぁ」

 とはピエロの少女。

「結構純粋な所ありますし。何より――」

 と紅いドレスの娘――

 

 何だか、気配が一段、変化。

 

 山賊たちの周りには、サーカスの面々(大間違)が集っており、住民たちは被害の少ない家屋へ押し込められ、

 家屋から抜け出した子供たちが、その姿を見つけます。

 

魔族(われわれ)を受け入れてくれる、数少ない優しい人間ですから』

 

 鶏と呼ばれた青年は、石化の瞳を持つ魔鳥、コッカトライスに。

 ピエロの少女は、淫猥なサキュバスに。

 紅色ドレスの娘はヴァーヴァンシーと呼ばれる、悪意の精霊に。

 

「いえねぇ、国王の方針ですから――って言うのもありますけど」

 と、サーカスの裏方っぽい方々……の気配はまた違います。

 なんだか、人間っぽいです。

 

「意外と、気のいい奴らばっかりなんですよ。まぁ、国王陛下が一度、凹ましたって経緯もあるんっすけどね?」

 と、軽薄な青年が親指を立てて微笑む。

 

 その背後で国王陛下とエクスカリバーの放った光線で、瓦礫が飛んできて、青年は吹っ飛ぶ。

 コッカトライスはその青年を翼で受け止めて、

 

「っつか、そろそろどうにかしましょう! 女王陛下ぁぁぁ」

「はいはい――では」

 

 と、女王陛下は……漆黒の翼をお広げなさいました。

 彼女は何なんでしょうね?

 

「ギルガメッシュ陛下? 聖剣エクスカリバー? もうお止め下さい。でないと――」

 

 

 世界が、真っ黒に包まれた。

 

 

「食べちゃいますよ?」

 

 それは、影であった。

 ありとあらゆる影たちが、地面を支配し、飲み込み――実際、木々や建物が幾つか、沈んでいる。

 

「む、エンキドゥ……悪食ははしたないぞ」

「あら、陛下こそ。みだりに争っては王の威厳に関わります。

 もっともエクスカリバーさんにしたってそうですが、偉大なるお二人が、揃っていがみ合ってはどうでしょう。

 確かに、お互い諌めあって、各々を高めあうための戦いは必要でしょうが、この国の領民にまで被害が及んでしまえば、

王の資質に関わりますわ。

 どうか、お願いですからお止めくださいな」

 

 やんわりと、童女のように微笑む、伝説の魔獣――終端へ導く、神々を喰らう運命(さだめ)を架せられた、獣。

 

 殺神ラグナロク種 固体呼称名――『混沌(カオス)』。

 第一級、災害指定魔族、最上級中、最強最悪の魔物――無形の混沌。

 

「そうだな、我が妻よ――ふ、我もまだまだ未熟よの」

『そうそう、精進してさっさと俺を使いこなせ。変態』

「戯け。使いこなしてほしければ、刀身を十倍引き伸ばして出直してこい」

「二人ともぉ?」

 

 ずぶずぶ間抜けな一人と一本、沈み始めます。


「のわぁッ! エンキドゥ、怒っているのか! なんとしたことか……どうしよう、エクカリ!」

『知るか! 耳元で愛囁いてこい! それでお前、ねんごろになりやがったんだろう、エロ王子』

「エクスカリバーさん、イタダキマス」

 

 混沌の能力1 何でも吸収し、食べちゃう。

 

「やるがいい、我が妻よ!」

『でぇぇぇぇぇ!?』

「我が君? ハムハムハム」

「何! 王をハミハミするなどのぉぉぉ〜〜〜!

 や、やめんか、エンキドゥ!

 温厚な我でもちょっと怒る……だ、だめだ、やめろぉぉぉ! 我は着物を着ておらんのだぞ!」


 変態だから。

 

 変態、影から脱出!

「エンキドゥ! もう許さん――」

 華麗な跳躍だけで、影の坩堝から脱出し、

 ついでにエクスカリバーも助けるオマケつき。あ、捨てちゃった。「手前ぇ〜」

 

「こ、こ、く、くくく、こ、国王陛下ァァァァァ!」

 と、突然王妃の悲鳴。

 

 泣き叫ぶような悲鳴は、まぁ当然だった。

 

 影の捕縛を、力任せで脱出しちゃえばまぁ、当然だった。

 

 当然の結果だった。

 

 王子、前面部、ご開帳〜〜〜……

 

 やる気どころか、凶悪な魔族軍と、それを束ねる正真正銘の勇者王を前に、山賊たちはやる気どころか精力まで絞り取られ、

 最終的に、この序章は――

 この話らしく、最期の一音で終わらせよう。

 

 普通の恋人達らしい、辱めの張り手の音で――

 

 

 

 パチン

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「幻想魔蝶異端録」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ