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9【そろそろお休みですか?】

 9【そろそろお休みですか?】

 

「……正直な話、少々慣れてしまいました」

「不憫だな。いや、豪胆――なのかも知れんな」

 唐突だが、少女と片腕の男の会話の冒頭である。

 

 廊下――片腕のおじさまでは抱えられないので、私と協力しながら、彼女を連れて廊下に。

 さすがに死臭ただようあの部屋には、居たくない。と言うか、いられない。

 

 途中、「おう? 蒼いお嬢ちゃんじゃんか? アンタら、殺したん?」

 と、みょうにラジカルなおじさん……訂正、青年が現れて、おじ様が警戒したが、

「んなわけねぇか――手当てかい? この部屋ぜんぜん、鍵かかってて開かねぇだろう?」

 

 ガッゴン――と、近くの部屋を蹴飛ばして、中に侵入する。

 青年が最初に入り、中を覗けば――かなり広い部屋であるのがわかる。

 誰かの私室らしく、簡素なベッドと本棚――わけのわからない巨大なガラス容器などが並んだ部屋。

 

 そして、私がベッドにそそくさと彼女を寝かせ、手当たりしだいのタオルと、簡単な止血を施して、冒頭の台詞に入る。

「ただ単に、クリスが喧嘩っ子だっただけです。自然と覚えたんです」

「そ、そうか――」

 おじさんは、何を勘違いしたのだろうか……

 

 でも、酷い――

 あのゾンビさんたちにやられたのだろうか。引っ掻き傷やら切り傷はわかるけど、打撲や打ち身まで――まるで、無数の攻撃を一斉に食らったような……

 

「あ、忘れてた。おじさん、ありがとうございます」

 あ、間違えた。

「いいよ、おじさんで。何……その娘っ子は知り合いでね。

うちの上司の娘っ子でさ――さっき来てた白い教会のお兄さんたちがいただろう?」

 

 あの白いお兄さんに、実の兄を殺された妹さんさ。

 

「……あ」

 

 …

 ……

 ………

 いくつも情景が、閃いては沈んでいった。

 

「……まて、貴様」

「おっと、おっさんおっさん。殺すんだったら、さっさとそのお嬢ちゃん人質にして殺してるって。

 お察しのとおり、俺はここ根城にしてる邪教団とか言われてる連中の雇われ人だ。

ハッ――俺も堕ちる所まで堕ちた暗殺者ってわけだ」

 

 おじさまの視線が鋭くなり、何やら不穏な気配が漂った刹那――

 爪――

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」

 女の子が飛び起きて、私の首を締め上げ――ようとして、暗殺者のお兄さんが近くの椅子で、少女をたたき飛ばした。

 

「落ち着けって、ライラ――吸血鬼に堕ちたアンタが、何を恐れる」

「がっ――はぁぁぁっっ!」

 

 優雅なツインテールが床にしなだれ、少女は体をちぢ込ませたまま――目を見開いて、何かに怯えている。


「なぁ、ライラ。教えてくれ? 俺は、どうしても、どうしてもど〜〜〜しても、知りたいんだ。なぁ?」

 そして、暗殺者の青年の笑顔が、凶悪に――そして、邪悪に歪み、ようやく私は、コノ人が【悪い人】だと気がついた。


 

 

「なぁ、あの【超人】の化け物を(くび)り殺したのって、誰だ?」

 

 

 

 ------

 

「て、撤収ですって!」

 二十名いた神殿騎士が、いまや十名……詮索に発ったローランたちが帰ってきて、ようやく十五名。だが、未だ安否は不明。

 

 調査して半数が行方不明となっては、撤収も余儀なくされる。

 

「うん、本来(・・)なら、部隊長である僕は――詮索を断念し、ローランたちには悪いけど、この旨を教会へ報告へ行くべきだと、そう思っている……」

「いや、隊長? アクセントルビ標準装備を強調してる時点で、考えわかるから」

 

 と、年若い隊員が手をひらひらさせ、

「ローランさんには俺も隊長も、だいぶ世話になってますからね」

「とにかく、ローランさんに指示を」

「おいおい、隊長をないがしろにするなよ。さぁ、ローラン隊長を早く探しに」

「いやぁ、息ピッタリですねぇ」

 と、何故か魔物組のはずのチキンこと、コカトリ執事まで会話に参加してくる。

 

 玄関先の居間は、閑散と静まり返っている。

 魔物と人間のならず者混成チームは、リーダーである筈のギルガメッシュ王が、王妃の亡骸の前で沈黙しており、実質無力。

 いや、チームの中核であったチキンや、夢魔と呼ばれる道化の少女や、ダンサーなる謎の赤い娘が、指揮をとってはいるが、実際は王の絶対的カリスマによって統制されていたチームであり、やはり無力化は否めない。

 

「……あのねぇ、皆。ちょっと怒るよ」

『はい』

 どうも深刻な面持ちで震えるセラフィス(一応、本隊長)に、冗談は通じぬと、隊員一同、一斉に整列し――

「僕の考えは単純。当たり前だけど、僕は残る。ローランたちもだけど、一般人まで巻き込んだんだ。

 ケジメは付けたい。さぁ、後は誰が残る?」

 

「よし、ここは俺に任せて、先に行け! 隊長!」

「それ死亡フラグだって!」

「俺、コノ任務終ワッタラ結婚スルンダ♪」

「お前もう結婚してるだろうが!」

「いや、二人目」

「なんで世の中、こんなブ男が! 納得いかん!」

「所詮、世の中、金の力なのだよ」

「給料おんなじだ!」

「使い方が違うのだよ!」

「全部、嫁に取られてるだろうが貴様」

「俺は、重婚は犯罪だと突っ込みたかったんだが」

「デューク公は100人の花嫁がいると仰っていたぞ」

「それはうちのオカンに告げ口しておくから、お前ら黙れ」

 

『隊長がオカンって言ったぁぁぁ!』

 

 隊員、何が嬉しいのか指差して大笑い。

「お前ら、ゾンビに頭から齧られてしまえぇぇぇぇぇ!」

 

 そして、当たり前だが、こんな馬鹿な連中である。残らないわけがなかった。

 

「賑やかなのもいいけど、さっきのあの吸血女」

 と、赤い娘――ダンサーが会話に入り込む。

 

「吸血女? ケルベクを殺した女の子」

「ああ、あの身体能力の上昇具合は、吸血化のアレに近い。アレが現れたら、今度は私に相手をさせろ」

「ダンサーは単体戦闘においてはウチの花形なんで、信用は置けると思います」

 さらに割ってはいるチキン執事。

「王、ギルガメッシュ陛下から、格闘術に関しては叩き込まれている」

「むしろ、お願いいたします。僕は――僕らは、地下に囚われた二人と、残った隊員の救助を――」

 

「その取引は必要ない」

 奥へ続く両扉から――

 

 彼らは知らないが、ライラと呼ばれた、蒼い髪をツインテールに靡かす少女と――

 

「あ、あの……わ、私たちは、その、ぶ、無事です。え、えとえぇっと……」

 先ほど落とし穴に落ちてしまった、アリスと片腕の元騎士が、少女の背後に連れて現れる。

 

「簡単な取引だ。チビガキ……お前の命と引き換えだよ」

 蒼い髪の娘が両腕の伸ばし、鋭利な爪が一枚一枚、セラフィスを映す。

 

 ------

 

 邪教団‐地下大聖堂

 

「誰だ……誰が【超人】を――」

「あれは、我らが【死霊術】を駆使して生み出した、超再生能力と暴欲にのみ動き出す、生命体」

「死者の寄せ集めを、生命体と呼ぶのはいかがかと……」

 暗闇に蝋燭。

 密談にはうってつけというか、暗黙の了解の場所で――

 

 ありえない影が動いた。

 

「誰だッ!」

 

 それは、今までの常識や、暗黙のルールとか、そういったものを、覆す。

 

「…………」

 ピチャリ、ピチャリ……

 

 

 さて、お気づき願いたい。

 彼が何者か、ではなく。

 一体何が起こっているか――でもなく。

 

 

 この館について。

 かつて、この地の周りは戦場であった。

 

 無数の人間が死んだのだ。

 それを根城に、幻想世界の定番、【死霊術】を駆使して、死体をリサイクルしてきたのだ。

 

 人知れず、人知らされず。

 

 邪教団は狡猾であった。

 普通の旅人は、襲わない。襲う意味がない。

 死体なら、いくらでもある。

 

 外の教団員に言伝れば、外界にも影響を及ぼせる。

 そもそも、あの蒼の娘だって――その伝で、餌を垂らせて呼び寄せたのだ。

 

 その餌が、今回食いついてきたのは、教団でも意外であった。

 単なる護衛――帝国の聖教団への牽制が、こうも見事に功を成したと思ったつもりであった。

 

 だが、何故? ならば、セラフィス、クリス一行、そしてギルガメッシュ王を、襲ったのか。

 

 違うのだ。

 ギルガメッシュ旅団は有名そのもの。襲えばこの地が知れ渡る。

 セラフィスたちに至れば、天敵の網にかかるも当然。

 クリスたちは不幸な犠牲者で済むだろうが、それでも行方不明者が出てしまう。

 

 彼らは、【アズリエル】を狙ったのだ。

 黒衣の三姉妹。

 

 

 ただの人間でありながら、脅威の身体能力と技能、加えて――女。

 女と言う生き物は、それだけで利用される。

 あまり公言できる内容ではないが、その子供と言うだけで、その才能を受け継ぐこともあり得る。

 男ではこうはいかない。子供とは、主に母親に影響されるものだから――

 

 ピチャリ――ピチャリ――

 

 現実に、世界を戻そう。

 そう、アズリエルは【化け物】と呼ばれながらも、人であり――そして【化け物】の由縁継がれる伝説でもある。

 一個師団を壊滅させたとか、戦場に現れて両軍を全滅させたとか――

 

 ゆえに【無数のゾンビ】軍団である。

 

 ピチャリ――ピチャリ――

 

 生半可な、一兵士――雇われ暗殺者や、改造吸血鬼では潰された際の対処がない。

 【超人】とて、彼らにしてみれば気休めでしかない。いや、彼らは期待はしていた。彼らの最高傑作には違いなかったのだが。

 

 ピチャリ――ピチャリ――

 ピチャリ――ピチャリ――

 ピチャリ――ピチャリ――

 

 だが、彼らはひとつ――いや、もうこの物語の時点で、始まった時点で、彼らは気づいていなかった。

 

 彼は――否、この大聖堂に現れた【彼女】は――

 アズリエルではない。

 

 煌めく――無数の刃物、牙、爪――?

 暗闇で見えぬ、映せぬ筈なのに、穿つ視線――

 

 

 お気づき願いたい。

 

 地下の、彼らの心臓部というべき場所に、なぜ「ゾンビ兵士」が配置されていないのか。

 いや、いた。

 本来はいた筈なのだ。

 

 ただ、すべて――壊されてしまったのだと。

 

 だれがって――

 

 

 大聖堂で、絶叫が木霊した。

 こう言うシーンだけは、常識にそって描写をさけても大丈夫だろう。

 

 生々しい思いがしたいなら、ご想像あれ――

 

 

 

 ――実際は、もっと凄惨だ。

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