8【謎々はまだまだ続きます】
8【謎々はまだまだ続きます】
それは、たしかに【邪教団】と呼ばれるには、間違いなかった。
【不老不死】。それは人間の叶わぬ望みのひとつではないか?
【絶対たる力】。それは決して叶わない、すべてを意のままに操る、【絶対】。
どちらも漠然として、具体的なソレ、とは指し示すことは不可能だが――
それを目指すことは、可能だ。
彼らにとっては、ただそれだけだった。
そして、少女の【兄】はその、漠然としたその中の一点、ただ一点だけを望んでいた。
【永遠】――これもまた、然り。
叶わぬ願い、叶わない思い、叶えてはならない不自然。
だが――【人】は【不自然】を叶えてしまう。
歪んだ代価を伴って――
「……くふぅ、また――壊しちゃった」
歪んだ代価を伴って――
そのツインテールの少女は、独特な蒼い髪をなびかせた、傍目清楚な娘である。
今しがたまで生きていた、人や魔物の鮮血さえ帯びていなければ――
「でも、まだ壊していない」
邪魔した魔物やならず者――そしてあの少年がいなければ、灰銀髪の青年を殺せたのに。
--地下大聖堂--
「……問題は?」
「あるまいて――あの蒼き娘が始末してくれよう」
闇に浮かぶほの赤い灯火に浮かぶ、六対の黒き姿。
どの人物も年相応の年代を重ねた人物であることは、声音で容易に想像つく。
が――伸ばされた手は年若く、張りと艶を灯火が示す。
「問題は、あの王と」
「アズリエル。まさかこの用な場にて出会えようとは」
「王の戦意は喪失しておる。捕らえるなら、今このときを置いて」
「ならば、【蒼の娘】では足りぬ――【超人】をはなつか」
「完成度は?」
「十中八九――勝算は高い」
「ならば、放て――アズリエルは?」
「それは、上からの意向で――【可能な限り、捕縛】しろと」
「……んな無茶な」
……最後になんか、年若い声が混じっていた。
「あの姉やん、王様より化け物だったんジャン。それをどう捕まえろってんだ」
「言葉に気をつけろ――」
「へいへい――だが、楽観気味だが大丈夫なのかい?
その【超人】だとか――あんた等結局、ただの研究者だろうがに――
今のこの場は、完全な殺戮領域だぜ。
舐めてかかったら、首掻かれるのはこっちだぜ」
黒衣に混じった、ぼろい帽子の青年がさも面白そうに物語る。
「【死にたがり】が――まぁいい。お前好みの戦場なのだろう。
お前も、【蒼の娘】の補佐――いや、どうせならアズリエルに喧嘩を売ってくればいい」
「うへぇ〜……それ、死にたがりじゃなくて、自殺志願じゃねえか。勘弁してくれよ」
へらへらした対応だが――男は、地下を後にする。
「ついでに地下に落ちてきた、ゴミを排除しろ」
「俺は清掃業者じゃねえっつうの!」
扉の閉まる音――
「では、ただちに【超人】を起動しましょう」
そして、封印は解かれ――――
--地下一階:研究施設--
それが、目覚めた刹那――鼓動は停止した。
それが停止した直後、【蒼の娘】と呼ばれた――人造吸血鬼、は息絶え絶えに、研究施設までやってきて、戦慄する。
「あ、あの――化け物がぁぁ……あ、」
ツインテールが尾を描き、床に落ちる。
その前には、【超人】と呼ばれた、 巨躯の化け物が、五体不満足の状態で――首だけ机の上に鎮座している状態となった。
--メインホール--
「な、何が――どうなっているんだ――」
なぞの少女が乱入し、少年が取り乱して殴りかかった後――
一斉に現れた、ゾンビ――今度は、武装までしており、セラフィスは即刻、撤退を命じた。
部下が二人、魔族の群れを何人かたたき起こし――そして、犠牲となった。
魔物も、人間も、何人もが――ゾンビに食われ――、セラフィスたちは、玄関から飛び出し、鍵を封じた。これ以上、被害を増やしてはならないと、苦肉の決断。
飛び掛る、少年を残し――
そして、数刻後――扉を開けば……
地獄が広がっていた。
魔物、ゾンビ、人間――そのどれもが、区別なく。
真っ赤に沈んでいた。
唯一――理解できたのは、ホールの奥で、比較的見覚えるのある衣装を血に染めた、
少年の遺体だけ。
なぜなら、その遺体以外がすべて――
まるで、巨大な力で引きちぎられたかのように、五体不満足にされていたからである。
セラフィスは、少年の遺体に近づく。
五体満足とはいえ、もはや人の原型は留めていないに等しい。
……あの少女の、悲しいでは済まない、悲劇の様相に――セラフィスは下唇をかみ締める。
――何も、できなかった――
--王--
セラフィスに連れられた、力を失った王は――少年の遺体にではなく、その傍に鎮座する。
墓標――王妃の亡骸、とも言えぬ魔方陣と、中央に突き立つ自分の腕。
まるで、墓所を守るように鎮座する遺体に――
王は、感慨すらわかなかった。
王の魂は、すでに死んでいた。
--少年、最後の記憶--
真っ赤に染まった――
ただ、それだけだった。
多分、俺は子供だったんだろう。その自覚はある。
だから、自棄になった。
もっと早く、何かできたはずだと、俺は急いたんだ。
気がつけば――俺は――真っ赤、に、染まった――
ああ、また間違っブチュリ――
--屋根の上--
「必然。動き出した」
とは、姉の弁。
「……うそ」
とは、アズリエルの弁。
「信じられない」
とは、妹の弁。
珍しく口を開けて硬直するアズリエルこと、ルルダに、
「愉快。人とはまさに何を起こすかが計り知れぬからこそ、愉快、そして痛快」
「愉快じゃないですよ、姉さん。……こんな、酷い――」
「残酷。」
「レミィ――ちょっと落ち着いて。姉さんこれ、【彼女】の力っていうの」
「肯定。いや、別に力ではないさ――最初に述べたと思う」
そう、必然――
--地下:落とし穴先--
穴に落ちた、片腕の男と少女は――救助をあきらめて、捜索に動いていた。
入り組んだ廊下を進めばいくつかの部屋に当たるが、当然鍵がかかっており、何があるか検討はつかない。
だが、ある部屋に入り、少女アリスは、小さな悲鳴を上げる。
五体をバラバラにされた、巨大な化け物の首が、机の上に転がっており――
その元に、ツインテールの娘が、瀕死の状態で倒れていた。