7【では、お悩みください】
7【では、お悩みください】
怒号が響いたそのとき、それが現れた。
セラフィスに命じられたケルベクら五人の前に、蒼い髪の少女が――
「……子供?」
と、疑問を持ったのは一瞬、
危機感を覚えたのは刹那――
だが、少女が動いたのは、『無瞬』
「誰? お兄様を殺した人は?」
ツインテールが軌道を描いた尾を引き、彼女が動いたことを教えた。
もっとも、頚椎が握りつぶされており、ケルベク自身は気づけなかったのだが。
「け、ケルベク」
その蒼い少女は、大柄な男を片手でつかみ上げ、放り投げると――
「コレじゃない。兄様を殺した化け物は」
狭い廊下での遭遇ゆえに、ケルベクの体は窓を破り外へ打ち捨てられ、
「どこ? 兄様を殺した、糞ガキはッッッ!」
「うっさいわね――」
号泣を遮る――静謐な、眠そうな声。
初めて、アズリエルが感情を出したような気がした。
……気の、せい?
「別に人が死ぬのは初めてじゃないでしょう。貴方にも何体か、恨みがましい気配が漂ってるし」
「……黙れ」
「いいえ黙らない。この世界に勝者と敗者の二択しかないなら、貴方は間違いなく後者。私が前者。そうでしょう?」
「ならば、今この場で殺してくれよう!」
残った左腕がアズリエルをくびり殺そうと伸びるが、彼女の方が上手い。
その腕を軸に滑り込んで、王の背中を軽く蹴るだけで、王はあっさりと前につんのめり――
アズリエルは、王妃の亡骸を――自分が作り出した、人の形した魔族を見据え――
僕の勘が正しければ、アズリエルは、
嫌な顔をしてたんじゃないかな?
「……ったく、わっかんないわねぇ」
アズリエルは、右手に王の切り離した腕を――
「人間の、どこがいいんだか」
王妃の胸元に、ポンと放る。
同時に――人の形が壊れ、王妃の、本来の【闇】が広がる。
広がった闇は、そして一瞬にして、血色の魔方陣を描き上げ――
「な、何をしたぁぁぁ!」
『動くな!
姉さま を傷つける なぁぁぁ!』
王はまるで、壊れた人形のように前のめりに倒れた。
「……レメラ、私以外に喋りはしないんじゃ?」
「姉さんこそ――何をやっているんです?」
「感傷のままに行動しただけ」
黒衣の姉妹は二人だけで言葉を交し合うと――
妹のほうが嘆息を零す。
「姉さま――いずれ殺されちゃいますよ」
「それも一興――」
二人は何事もなかったように、玄関へ向かい――
魔物の群れと遭遇した。
「待たれよ」
「このまま逃がすと」
『邪魔――消え』
「消したら駄目」
『じゃあ、寝てなさい!』
魔物の群れが、いっせいに崩れ落ちた。
「さ、さきほどの馬頭鬼とケットを落とした技ですか」
射程圏外――と思しき場所にいた、チキン――王の側近は、しかし膝を折り――
『…貴方だけ、残しました。さっきのゾンビーに皆さん食べられたら、後味が悪いでしょう?』
レメラは再び筆談に戻ると――アズリエルの腕の中に逃げ――
「これ以上、妹を傷つけるなら、全員ゾンビの餌にしてやる」
それだけ言い放つと、玄関を蹴り壊して――
そして、物語から、一時退出する。
――――――――
……夢、を見たんだと思う。
だって、あれだけいた魔物たちが、ほぼ昏倒――
あの、アズリエルって女が背後に立つだけでも恐怖だったのに、一緒にいた――あのレメラって娘だって、何者かには違いなかった。
……でも、いまだに何者なんだ?
ただ喋るだけで相手を無力化する――
だから筆談……なんだろうけど。
「……あ、クリス? 玄関」
……あっ? そうだった。
ぼ〜っとしてしまったけど、アズリエルたちがぶっ壊してくれた玄関のお陰で――脱出はできるんだ。
こんな場所、さっさとおさらばしてしまおう。
「アリス、おじさん」
「そうだな――ここは危険だ」
「そうですね。そちら方は脱出を――もし、帝国領に行かれるのでしたら」
「目的地はそちらと同じだ。教会に言伝いたそう」
「感謝します……将軍」
灰銀髪の彼が、片腕のおじさんをそう呼ぶと――おじさんは少し驚いた後、僕とアリスを促し――
落とし穴にはまった。
「な、なんでここでベタな!」
灰銀髪の彼が、泣きそうな声で、僕の隣で叫んだ――
僕は、一瞬だけ――床の隙間に気づき――足踏みして助かった。が――
「おっさん! アリスッッッ!」
ま、不味い不味い不味い不味い不味い――
暗くてよく見えないが、悪くて下はゾンビーの群れ――
「飛び降ります。隊長――許可を!」
「三……いや五人一組で彼らを保護! ジョン、ユーイ、カインとジューディはメティが続いて!」
『了解ッ!』
「……あとは、俺たち五人だけですか」
「ローランたちが戻るまでの辛抱さ……? ……」
俺は――とことん阿呆だな……
気がついたら、騎士団が動く前に飛び降りようとして――
「ローランって、コレ?」
……あん?
目の前に転がった――生首。
だが、それがどうした。
「け、ケルベクッ!」
ツインテールを靡かせた小娘に、俺は殴りかかっていた。
――――――――
あいたたたた……
「……くぅ、それほど――深くは落ちてない筈だが」
お、おじ様が下敷きになってくれたお陰で――なんとか。
暗くて良く判らないけど――
……ピチャリ。
頭に何かがこぼれて来た。
なぜだか判らないけど、血だってわかった――
――――――――
「……あッ」
「どうした、レミィ」
「アリスちゃんたち忘れてきちゃった!」
「アリス? ……先ほどの小娘たちか?」
「うん、友達になったの――」
廃墟の庭園――並び歩く黒衣の姉妹は廃屋を立ち去ろうとして、
「阿呆。二人は感情に流され安すぎる」
「姉さん――」
「でも、ルル姉は感情をなくすととことん、残虐になるから嫌」
「肯定。ルルはもう少し、自己を確立すればいいと思う」
三人目の黒衣と合流した。
同じ漆黒だが、こちらは旅装束の、襤褸いローブをまとった妙齢の女性。
アズリエル…ルルダは黒衣を脱ぎ払うと、いつものエプロンドレスに戻り――
「はい姉さん。頼まれていた買い物」
「感謝。あと、なぜメイド服に戻る」
「これは家事専用作業着です。なんでもメイドメイドと呼ぶのは感心できません。社会の風潮に流されすぎです」
「嘆息。私が聞きたいのはメイド云々ではなく、あの館に戻らないのかと。戦う気はないのか?」
「私、喧嘩と殺し合いは好きじゃないんです。一方的な虐殺ほど、反吐がでるものはありません」
「然様。それは知っている。だが現に――お前に並ぶ実力者が、あの館におったのだぞ?」
黒衣の姉君が、黒髪を風に靡かせ――告げる。
「あの洋館の中で、もっとも血臭の多い人間――お前に匹敵する【最強】であったぞえ?」
(……姉さんが、二文字、四文字、の枕詞を使わなかったわ)
三女のレメラが、物珍しげに長女の顔を覗き込む。
とても楽しそうな笑みを、久々に拝んでしまった。
すいません、だいぶ更新滞りまして…
単に、仕事と遊び(マテ と仕事とスランプ(痛切 と初音ミク(ぁ と色々やらかしたら、収集つかなくなってしまったしだいです、はいOTL
ボツボツ更新していくつもりが、前回のようにズダ〜っと一気に書いちゃったり、こんな風にズタボロ長く…今回は酷かったなOTL
うん、とりあえず、再開! だが、文字数少ない…
……ずだぁ〜っと行くか−−




