少年の名 2
ブクマありがとうございます。
今回はちょっと短め。
「……ノックス。今日から、そう呼んでもいいですか?」
だからそう問う。わずかに目を細めて聞けば、隣にいた神父がそっとイヴの頭をなでた。
「ノックス。古典ラテン語で『闇』、『夜』という意味だね」
「闇色の、きれいな黒がぴったりだと思って……ダメ、ですか?」
なにも言わない少年に、イヴは恐々と聞いてみた。気に入らなかったのかな。そう思うと不安で、そんなイヴの肩に神父はそっと手を置いた。
「ダメなんかじゃ……その、おれ人からなにか貰ったことなくて、なんて言っていいか……」
そわそわするイヴに、負けず劣らずオロオロする少年。何だかほほえましくなって、神父はこっそりと微笑んだ。
イヴは、その言葉を聞くと少しだけ目をぱちくりさせて、それからふわりと笑った。見つめるまなざしは慈愛そのもので、まっさらな翼も相成ってまるで聖母のようだと神父は思う。
そんな笑みを真っ直ぐに向けられた少年は、自分でも気付かないうちに微笑んでいた。
「……ありがとう」
言葉が自然と口からでた。
穏やかな目でイヴを見上げ、そうしてこぼした声音は小さかったけれど優しくて、イヴは何も考えずに手を伸ばした。
両手を広げて、少年の体を優しく抱きこむ。背中にそっと手を回して、そうやって抱く姿は親鳥が小鳥を自らの羽で包んで守る、そんな姿にさえ見えた。
抱きしめられて少年は目を剥いた。けれど、不思議と抵抗する気も起きず、むしろ暖かさが心地よくて、そろりとイヴの肩に頭を摺り寄せた。
愛したい、と思った。
人だからではない。彼だから。イヴは彼を愛したい、と、そう思ったのだ。
身を寄せ合うように抱きしめあう二人に、神父はそっと部屋を出た。
閉じた扉の向こうで、神父は祈る。
どうか。どうかふたりに幸せを。
神よ、どうか。
祈りは言葉にならなかったけれど、神父は届けばいいと思う。
辛い思いをしてきた二人だから、どうか。そう願わずにはいられなかった。