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St.EVE  作者: 久世ひろみ
1章
4/16

天使と悪魔 3


「おれのこと、なんて、放っておいて、くれ」


 息も荒くそういうと、彼は地面に腕を立てて起き上がろうと動き出す。血の匂いが一層濃くなり、わき腹を押さえる手があっという間に血で真っ赤に染まった。

 それを見ていたイヴは、ぎゅっと眉根を寄せた。

「放っておくなんて出来ません。血が出ているのです、動かないで」

 そう鋭く告げると、彼はちょっと驚いたように黙り込んだ。


 立てるか問えば頷いたので、手を貸してゆっくりと起き上がる。肩を貸すにはイヴの身体は小さかったけれど、火事場のバカ力とでもいうのだろうか、イヴは彼の身体をしっかりと支えることが出来た。

 よろよろとした足取りで教会の中に入る。ドアを開け、室内に入ったは良いけれどどの部屋に運べばいいだろうと、イヴは一瞬立ち止まった。

 私の部屋? そう思って、でもそれは却下した。自室は二階にあって、彼をそこへ運ぶのはムリだ。同じ理由で、神父さまの部屋も。空き部屋はいくつかあるけれど、どうしたら。そこまで考えて、急に体のバランスが崩れ、横倒しに転んでしまった。

「っ……大丈夫ですか」

 転んだ拍子に彼の体を離してしまい、二人そろって板張りの床に倒れこむ。イヴは焦って彼を見るが、彼から返事は返ってこなかった。

 どうやらバランスを崩したのは、彼の体から力が抜けたせいらしい。だらりと投げ出された四肢に力はなく、出血のためか顔色はひどく蒼い。触れた指先が怖いほど冷たくて、イヴは血の気が引いていくのを感じた。


(どうしよう。まず――そうだ、血を止めなくちゃ)

 ぐったりとする彼に、イヴはすっくと立ち上がった。一階の物置には救急箱や使っていないリネンがあったはずだ、と走り出す。

 たどり着いた物置で、救急箱とリネンをいくつか引っつかみ、彼の元へと戻る。殆ど走ったことのないイヴの足は遅くて、気持ちばかりが焦った。


 そのときだった。

「ただいま、イヴ。玄関のところに血が――どうしたんだい!?」

 がちゃり、と音を立てて入ってきた姿に、イヴは目を見開いた。


 黒い常服をまとった神父が、そこにいた。目をまんまるに見開いて、ドアを開いた姿で固まった彼に、イヴは焦っていた気持ちが少しだけ落ち着いたのを感じた。

「外で撃たれたんです。神父さま、彼を助けたいのです」

 言いながら、イヴは彼の傍らにひざを付いて、血まみれの腹部に手を当てた。彼はびくりと体をこわばらせ、小さくうめく。その声に現実に返ってきた神父は、ドアを閉めるとイヴの正面にしゃがみこみ、傷の具合を改めた。

 腕とわき腹には撃たれたあとがあり、わき腹は出血も多かった。幸いなことに弾はかすっただけのようで、出血は多いが内臓を傷付けた様子もない。神父は小さく息を吐いた。


 神父の手際は驚くほど手早く、的確だった。

 傷の様子を見た神父は、イヴにお湯を沸かすように指示すると彼の体をひょいと抱き上げた。沸いたお湯を一階の空き部屋に運べば、彼はベッドの上に寝かされていて、治療のために服を脱がされているところだった。

 イヴは言われるままに動く。器具を取ったり、傷をガーゼで押さえたり、とにかく必死になって働いた。こんなに必死になったことが、いままであっただろうかというほどだった。



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