組織と人質
「それ……どういう事だよ!?」
「そのままの意味だよ」
言わなくてもわかるでしょ? 秋は言葉にせず、直接脳にーー精神感応だーーを使ってきた。
魔術師が相手に、強く主張をする際に用いられる魔術だ。
別名:びっくり魔術。
「お、おい。今このタイミングで使わなくてもいいだろ? クラクラするぞ」
慣れているならいいが、この魔術は脳に直接言葉を伝達させるので、普段使わない人は目が回ったりする。
「このタイミングで保護魔術を解いたのは明らかにわざとだよ?
けど、本部が国内に、それも一大企業が絡んでいたのは想定外の事。……手の施しようがないよ」
「本部に東堂が連絡をしたんだよな? だったら本部の連中が動くはず……」
「それも多分ないと思う」
「え?」
「そりゃ、犯罪組織の拠点が見つかったっていうのはラッキーだよ。けどここで下手に動いたら、ここにいる民間人に危害が加わるかもだよ」
それってつまり……
「最初っから人質をとられてるんだよ」
「ならどうしろって言うんだ? それじゃあいつまで経っても奴らを叩けないぞ?」
そうだ。支部が本部も動かないんじゃどうしようもない。
「私もこの判断は異常だと思うよ。……けどさ」
秋はここで言葉を一端区切り、ニヤリと笑った。
悪いことを考え付いた時はだいたいこの表情をする。
「『十家』の権力を使えばどうってことないよね?」