ファミレスと厄介事
「で、あれは結局なんだったんだ?」
「“フェンリル”のエンブレムだよ」
アテナネットワークから追い出された後、ひとまず席に着こうという話になりファミリーレストランに来た。
お祭りの影響でか満席で、店の外に人が溢れ返るほどだったが、PMCの腕章を見た瞬間最優先で席に通された。
こういうところでもPMCの影響が出るのだから侮れない。……まあ、秋はこういう特権的なものを毛嫌いしていて、最後まで座るのを渋っていたが。
「アテナネットワークとフェンリルには繋がりがあると見て間違いはないんだな?」
アテナネットワークは、日本のインターネット回線の管理をしている大企業だ。
元々は家庭用ゲームソフトを開発する子会社だったが、十五年ほど前に日本向けの超高速検索エンジンを開発してから一気にネット業界に進出した、日本が世界に誇る一大企業となった。
そのため、ある程度は機密情報も持っている。壁に魔術で落書きされるような緩い警備をするはずがない。
「うん、ほぼ確定してるよ」
メロンソーダを飲みながら秋はスマホを弄っている。
東堂に連絡をしているのだろう。
「そうなると厄介だな……相手はあのフェンリルだろ?」
フェンリルとは国際的な犯罪組織の名称で、構成員は全員魔術師。
魔術至上主義を唱え、非魔術師の徹底的な排斥を目論んでいる。
奴らのトレードマークは、人の手を喰い千切る狼。
フェンリルはもともと、北欧神話に出てくる狼を語源としている。
ぱっと見だが、確かにあの気味の悪いエンブレムに似ていた気がする。
ピロンと、秋のスマホが軽快な電子音を奏でる。東堂からもう返信がきたのか。
「東堂はなんて?」
「1度本部に連絡するって。1支部だけで動くのは危険すぎるって。……あ、当然私たちは警備任務続行だよ」
フェンリルがテロ行為に及んだら、小国程度なら半日で壊滅しかねないといわれている。当然の判断だな。
「けど、何で急にエンブレムが見つかったんだ?」
二ノ宮家の固有魔術、"衛星"は、有効範囲内なら全てを見渡すことのできる個人情報駄々漏れの魔術だ。
コンタクトレンズすら容易く見つけられ、魔術を発動したあとに残る、"術跡"と呼ばれるものも見える。
壁に付着していたあのと異国の文字も魔術の類いだろう。
が、フェンリルはあのマークを、同胞以外には見られないよう特殊な魔術を被せてある。いくら衛星とは言え、見つかる可能性は皆無だ。
「だから多分、挑発しているんだよ」
「え?」
「いい? フェンリルにとっては、殺人なんてどうってことないだろうし、彼らは国家機密も握っているんだよ?」
「っ!!」
となると……
「PMCは、今回の事件に関しては動かないよ」