美女と落書き
久々に投稿です。
のんびりいくので気長に待っていてください。
「で、見せたい物ってのはなんだ?」
秋に連れられてやって来たのは、選手村から二百メートルほど離れたオフィス街だった。
平日だからかここでも人はごった返していて、お祭り会場とはまた違ったベクトルの賑やかさがある。
「これ、見て」
彼女が指差したのは、オフィス街に林立するビル群の一角、“アテナネットワーク”という会社の本社。そのビルの壁面だ。
「? 何もないけど?」
が、そこには悪戯書き一つない、綺麗に磨かれた壁しかない。
この会社の社長の天王寺龍屋は、『業績を上げるためには身の回りを常に清潔に保つべき』と、週刊誌で語っていた。
なるほどその言葉は本当のようで、社の周りには埃一つ落ちていないほどの徹底ぶりだ。
「普通はそう思うよね。でも……」
そう言って秋はおもむろに両手を前に出して、「解析」と短く呟いた。
直後に、両手から青白い光が発生し、何も無かったはずの壁面から不気味なマークとともに異国の言葉が綴られていた。
「これって」
「ちょっと、あなたたち」
もっと近くで見ようとした途端、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには、二十代前半と思われる若い女性がそこにはいた。
明らかに日本人離れしているブロンドの髪と、知性的な瞳。そして全体的には細いが出るところは出ている一流女優顔負けの美女が仁王立ちしている。
「あなたたちうちの会社に何か用でも?」
俺と秋を爪先から頭のてっぺんまで、果物の選別をするかのように見ている。
「あ、いえすみません。ちょっとこいつが落し物をしたみたいなので探してたんです」
うまい言い訳が思いつかず、咄嗟に秋を引き合いに出してしまった。
「そう、けれども邪魔だからさっさと消えてくれる?」
……このねーちゃん、顔は綺麗だが性格はすごい汚いな。
「はい、すみません。すぐどきます」
そう言って、俺たちはもと来た道を引き返すのだった。