お説教と仕事の依頼
「で……仕事でもないのに無断で発砲したというわけかい?」
あのあと芙佳に、きっついお仕置きをされ、その後学園長の執務室へと連行された。
山崎は三ヶ月の謹慎処分を言い渡され、今日は帰っていった。
帰り際に、俺が唯一使える北欧の魔術、"ガンド"で呪ってやった。多分あいつは一週間は熱でうなされるだろう。ざまあみろ。
「す……すみません……」
冷静な判断ができず、挑発に乗ったのは紛れもない自分なので、言い訳のしようがない。
「まったく……事後処理はわたしの仕事だというのに、面倒な事を……」
目の前の初老の女性……この学園の三代目の長である東堂サヨは、細長い煙草に火をつける。
「あー、お前が撃ったのを目撃した生徒には記憶を消させるから、お前は暫く学園に来るんじゃないよ」
記憶操作系統……"忘却"は、対象の出来事を忘れさせる魔術だ。完璧にその事を忘れさせるためには、少なくとも二週間はその対象の物から遠ざける必要がある。ふとした瞬間に思い出すのを防ぐためにだ。
「でも、あんたに二週間近くもなにもさせないのは癪だしねえ……じゃあ、大会の警備でもやってもらおうか」
紫煙を吐き出しながら、とんでもない事をのたまった。
「は?」
「いや、は? じゃないよ。警備をしろと言っているんだ」
灰皿に煙草を押しつけて消しながら、面倒臭そうに言う。
「いやいや、魔術が使えない俺が何で警備にあたらなきゃいけないんすか」
大会開催中は、選手を狙った誘拐や傷害事件も多発する。その為、警備をする際には高度な魔術が使えることが要求される。
「嫌かね?」
「当たり前っすよ! 何であんな戦場みたいな所に行かなきゃならないんすか!」
「なら、上司として命令させてもらおうかね。一宮徹、貴方に一ヶ月間の警備任務を命令するよ」
新たな煙草に火をつけ、ふんぞり返った。
「あっ! きたねぇぞババァ! もうそれなら断れねえじゃねえか!」
「なんとでも言えガキが。ほれ、腕章はうちの会社の物だ」
木製のやたらとデカイ机の引出しから取り出されたのは、PMCと書かれたロゴの入った腕章だった。
「時給は?」
ちゃっかりと金の話に持ち込む辺り、自分の器の小ささが伺い知れるが気にしたら負けだ。
「そんなもんあるわけないだろう」
「いやいやいや、すごい危険な仕事ですよ? タダ働きと言うわけにはいかないでしょう」
「もとはと言えば、あんたが挑発に乗らなければ良かった話だろ? 自業自得だよ」
東堂の目は、タダで人が使えてラッキー、と語っている。が、今朝の事を言われると耳が痛い。
「……わかりました。けどせめて、弁当代くらいは支給して下さい」
これがせめてもの願いだ。情けないなあ……。
「いいだろう。そうと決まればさっさと行くんだね」
東堂は虫を払うような手つきで俺を追い出した。
「しっかりと覚醒してくれよ……」
部屋を出るときに聞こえた声は、怒りに任せて閉めた扉の音でかき消されて聞こえなかった。