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有美さま、ランキング最下位と対戦す、の巻(前編)

 私は有美さまの部屋で一人、少女の帰りを待っていました。

 有美さまは数秒前にヴァルプルギスゲームをするためここから別空間へと移動されました。

 ゲーム時間は現実時間とは時間軸が異なるので短かろうが、長かろうがここに戻ってくるのは一瞬です。

「ただいま~」

「おかえりなさいませ」

 少女の姿が露わになり、いつものように即時に戻られました。その顔は相変わらず不満げです。

「今日はいかがでした?」

 返事はいつも決まってますが一応聞いておきます。

「同じ、つまんなかった」

「・・・・・・そうですか」

 まぁ、そうでしょう、有美さまはとにかくお強いので相手になるのは同じ七席魔女だけです。その他の魔女では勝負も一瞬で決まってしまうのです。

「あぁ・・・・・・でも」

「ん?」

 ゲームが終わると対戦相手どころかゲームをした事自体、綺麗さっぱり忘れてしまう有美さまが珍しく二の後を口にしました。

「今日の対戦相手、弱いのは弱いんだけど、なんだろう、やる前のあの目、なんかやる気があったっていうか、自信があったっていうか、他の魔女とはちょっと違う感じがした」

「ほう?」

 それは少し興味があります。魔女達には有美さまの圧倒的な力は知れ渡っているはず。だから大抵の魔女は、勝ち目のない最初からポイントを稼ぐだけの手段と割り切っているはず。なのにやる気を見せたというのは一体どういう事でしょう、七席の実力を知らない新参者か、はたまた自分を過大評価していたのでしょうか。

「・・・・・・今日の有美さまの相手は、たしか・・・・・・」

 私は有美さまの代わりにゲームの段取りをしていますし、現役魔女の詳細は頭に入っております。ゆえに頭にはすぐに今日の有美さまの対戦相手が浮かびました。

「大公爵ムルムル様の魔女パンフェレエでしたね、しかも今日が誕生日でした」

 ランキングは二桁の五十四位。それなりの実力者ではありますが七席を相手にするには正直力不足でしょう。それは例え誕生日で能力面でボーナス補正がかかっていても同じ事です。

「で、ゲーム自体はどうだったんです、パンフェレエはもしかして少し食い下がったんですか?」

 私の質問に有美さまは首を振って否定しました。

「全然、指を鳴らしただけで頭が吹っ飛んだよ。ちょっと期待したんだけどね、結局他の魔女達と結果は同じだった」

「ふむぅ」

 そうだとしてもやはり私は腑に落ちません。主を降ろした有美さまを前にしてそんな目ができるなんて。ランキング内の魔女なら例え一桁でも萎縮してしまうというのに。

「じゃあ、黒江、私はおやつ食べてくるねぇ~、用意してあるでしょ?」

「あ、はい、食堂に有名パティシエが作った有美さま大好物のミルクレープを用意しておきましたので、どうぞ」

「わ~い、ミルクレ~プ♪ ミルクレ~プ♪」

 有美さまは有頂天で部屋を出て行かれました。私も後をついて行こうかと思いましたが、先ほどの話がなぜか頭に残ります。

 少し調べてみましょうかね。私はそう思いスマホで魔女ネットに接続、パンフェレエについて観覧することにしました。

「パンフェレエは誕生日って事で今日はいつもより対戦してますね・・・・・・」

 勝てばポイントが倍増するバースディ特典、負けてもポイントがもらえるこの日は魔女にとって稼ぎ時です。

「パンフェレエが有美さまの前に対戦した魔女は二人。・・・・・・これは」

 そのうちの一人、直前で対戦したであろう魔女、名前にあまり聞き覚えがないその魔女名が私の目に入りました。

「魔女イレアナ・・・・・・。私の記憶にないって事は、最近魔女になりたてって事でしょうか。契約悪魔は・・・・・・」     

 私はその悪魔名をみて驚愕しました。

「ア、アスモデウス様!? てことはこの魔女、七席ですか!」

 ここで私のひっかかっていた事にとっかかりができました。すぐにパンフェレエとイレアナの対戦動画を視聴、そしてはっきりしました。

「・・・・・・なるほど、七席相手にこの戦いなら自信がついてもおかしくないですね」

 激戦でした。このイレアナ、手を抜いているのか、ランキング五十四位程度に結構必死に闘っているように見えます。レジェンドスキルも使ってますし正直全力のようにも。いや、七席といえば有美さまと同じ土台に立つ最上魔女です。そんな訳はあるはずもないでしょう。自ら制約をかけているのか、どちらにしろこの魔女の事は詳しく調べておく必要がありますね。同じ魔女ならいつかは私や有美さまとも闘う時が来るでしょうから。



 初夏に入ろうとしていたある日の事、私達のいる有栖川邸に一人の少女が尋ねてきたのです。

 他のメイド達が私達の元へそれを伝えにきました。有美さま専属メイドの彼女達は全員魔女です。だからです、尋ねてきた少女が魔女であるとわかり、すぐに私に知らせてくれました。

「一体、魔女がなに用でしょう・・・・・・」

 私は少し警戒します。対戦要請ならネットを介せば済む話。それをわざわざ家まで押しかけるとはどのような意図があっての事でしょう。

「いいよ、黒江、私に会いたいっていうなら会ってみようよ」

「しかし・・・・・・」

 私が考えあぐねていると、有美さまが玄関へと向かって歩きだしてしまいました。引き留める間もなくぐんぐん先に進んで行く有美さま。私も慌てて後に続きます。

 メイド達がいうにはその魔女は動画でも顔を見たことがないというので七席や一桁のような有名な魔女ではなさそうです、そして相手は一人です、とりあえず気は抜かないように様子を見ることにしました。

 有美さまが両開きのドアを開けると、一人の少女が立っていました。

「お、お、お、うおぉぉぉぉっ! 聖女さまっ! 本物だぁべぇ!」

 その少女は有美さまを見るなり大声で叫びながら身を寄せてきました。

「あ、ちょっとっ!」

 私の制止も間に合わず、少女は有美さまに抱きついておりました。

「あ~、動画で見るよりめんこいべ~、お人形さんみたいだぁ~」

「ん~、ん~、なに、このお姉ちゃん、苦しいんだけど・・・・・・」

 少女は有美さまの頭に顔をすり寄せながらくねくねさせていました。有美さまは嫌がってはいますがされるがままです。

「あ、あの、失礼ですが、どちら様でしょうか?」

 私が堪りかねず相手を有美さまから引き離しながら名前を尋ねました。少なくとも敵意はなさそうです、もし悪意があって近づいたのなら今頃この少女は有美さまの防衛本能の前に体はバラバラにされていたことでしょう。 

   

「あ、どうも、ども、初めまして、あだし、ニスロク様が魔女イザベルこと、橋本文恵っていいます~」

「はぁ・・・・・・」

 私はいきなり魔女名だけではなく本名(偽名の可能性もありますが)まで名乗ってきたこの少女に面食らってしまいました。歳は私よりはちょっと下、中学生くらいでしょうか、長い髪を一つに纏め、化粧はしてないのかそばかすが目立つ眼鏡の少女。大きなリュックを背負っています。言葉も少々訛りが混じっているので地元の人間ではなさそうですが。

「で、その橋本様は本日どのようなご用件でここへ?」

「あ~、はい、実はですね、あの、私なんかがっては思うんですが、え~と、あの、そこの聖女様とですね、ぜひ対戦したいって・・・・・・その思いまして・・・・・・」

 少女はどもりながら顎を引き目線だけを上げてこちらの反応を待っていました。

「有美さまと対戦ですか? ならわざわざお越しにならずともネットで受け付けましたが。そもそもどうやってこの場所がわかったのでしょうか?」

 一見無害に見えますが、彼女も魔女です。おいそれと信用するわけにもいきません。それに口にしたような疑問もいくつかあります。

「あ、それはですね、恥ずかしい話なんですが、わだし、ネットとか良くわかんねくて動画だけはなんとか見れてはいたんですが、その、対戦要請ってのいまいぢわがんねくて」

 橋本様はそういいますが、私にはちょっと理解できません。普通に相手を指定してメールを送るだけなのですが。

「で、この場所はどうやって?」

 私にしてはこちらの方が重大です。有美さまのご自宅がどこからか流出しているとしたら由々しき事態です。

「それはですね、自分でいうのもなんだげんじょも、人を見る目があるっつーか、聖女様には高貴さがあって、他の七席のみなざんもじっくり動画みたんだげんちょもそこで断トツでいい人だと思ったのが聖夜の魔女ベファーナ様で、断トツで可愛いのが聖女様って事で、どっちにするか迷ったんだげど、やっぱ可愛すぎる魔女がいいかなと思って、最強と言われてるメディア様とかもいいんだげど、あの人はなんかこう怖いイメージがあったんで、あ、これは駄目だぁって事で、わだしとしては一年に一回のチャンスだがら・・・・・・」

「ちょっと、すいません。もう何言ってるかわからないんで要点だけ纏めてお願いします」

 無駄が多すぎる。私はそう思い、まだまだ続きそうなこの会話をばっさり両断しました。

「あ、つまり、聖女様を見たとき勝手にこの子絶対お嬢様だと思って、動画に制服っぽい姿の時あったんでそれ調べたらこの近辺の学校のやつで、じゃあ、この辺りで一番でっかい家に住んでると思ったがら、タクシーのおんちゃんにそういったらここさ来たって訳です」

「・・・・・・なるほど」

 有美さまから滲み出る気品から割り出したって事ですか。自分では気づいてないようですが内面を見透かす能力を持っているのかもしれませんね。じゃなきゃ、普段の有美さまからは高潔さなど微塵もありませんから。

「それでは、あれですか。誕生日の指定相手に有美さまを選ばれるのですね。誕生日での指定は強制ですのでこちらはお断りすることはできませんので快くお受けはします。しかしながら橋本様もおっしゃる通り一年に一回のチャンスです。他の七席魔女ではなくうちの有美さまで本当によろしいのですね?」

 普段相手にされない七席魔女でも、誕生日では対戦できます。他の魔女も同様に誕生日では七席魔女との対戦を望むでしょう。七席魔女によってはサービス精神で少し手を抜いて遊んでくれたりアドバイスなどをおくってくれる者もいます。しかし、うちの有美さまは問答無用に瞬殺しますのであまりおすすめしたくないのですが。

「いいんだぁ。なんたって、聖女様めんけぇもん。うちさ持って帰りてぇくれえです。もう聖女様と戦えるって思うと夜も眠れねぇがったし。高尚で美少女でおまけにつえぇし、神様に愛されて生まれきたとしか思えねぇ、完全無欠の存在だべ」

 橋本様は目を輝かせてうっとり有美さまを見つめています。私にしてはちょっと違うかなと思いますが、美少女でお強いというのは事実です。

「黒江、黒江」

 有美さまが私に近づき小声で耳打ちをしてきました。

「あの、お姉ちゃん、ちょっと変だけどいい人かも」

「・・・・・・そうですね。少なくとも悪い人ではないみたいです」

 有美さまもべた褒めされてまんざらでもないご様子です。少し照れていました。

「それで、橋本様の誕生日はいつなのでしょうか?」

 もし今日というなら少し調整しなくてはなりません。

「わだしの誕生日は一週間後です。それまではホテルにでもとまっかと思って」

「それはまた余裕を持って来られたですね。で、予約とかはとってるのですか?」

「うんにゃ、適当に探すがなって。諭吉さまも一枚もってきてるからどこでもいけるんじゃないですがね」

「諭吉って、一万円ですか? いくらなんでもそれでは一週間の滞在は無理ですよ! 食費とかもあるでしょうし」

 私がそう指摘すると、橋本様はびっくりした顔で口をポカンと開けました。

「え、だって一万円ですよ? うんまい棒1000本買えますよ? まぢですが~、こりゃ参ったなぁ。ここまで来んのに二枚もなぐかったのにぃ」

「・・・・・・う~ん、困りましたね」

 可哀想だとは思いますが、ここは対戦要請のやり方を説明してお引き取りいただくのが得策でしょうか。

「黒江、黒江、それなら家に泊めてあげようよ」

 そんな事を考えていたら有美さまがとんでもないこと言い出しました。

「いや、それは・・・・・・」

 今日あったばかりの魔女を一週間も同じ屋根の下に置くというのはさすがに頷くわけにはいけません。悪意は感じず無害だとは思いますが、おいそれと全面的に信用するのもあれです。

「あの~、すんません、ちなみに貴方様も魔女ですか??」

 橋本様は私にそう尋ねてきました。そういえば名乗ってませんでしたね。

「あ、これは失礼。まだ名乗っていませんでしたね。私は、ヴァレフォール様が魔女ソルビョルグ、音羽黒江と申します。この有栖川家でメイド長として働いております」

 私が名を告げると同時に橋本様の目が大きく見開きました。

「え、え、え、ソルビョルグって言えば、ランキング六位の大魔女様でないですがっ!? まさか七席魔女の他にも一桁ナンバーの魔女様にも会えるなんでなんて最高な日だべっ! あぁ、あの賢哲の魔女、ソルビョルグ様がこんな綺麗な人だったなんで感激だぁ。一桁ナンバーなのに動画に出てねぇがったがら知らながったぁ、いやぁ、聖女様の侍女だけあってなんかもう頭いいし、端麗だし、スタイルもいいし、いうごとねえなぁ」

 橋本様は私の手を取り目をキラキラさせておりました。

「こほん、私の戦闘は地味ですからね。動画にはでないのですよ。それはそうと、橋本様、有美さまが対戦当日までここに留まったらどうかとおっしゃっております。如何でしょう? 橋本様さえよろしければお持て成しさせて頂きますが・・・・・・」

「ほ、本当ですがぁ?」

「ええ、わざわざお越し下さったのにこのまま帰すのもなんです。せっかくなんで観光などされてはいかがでしょう、私達が案内いたしますので」

「わぁ~、なにからなにまでありがとうございますぅっ!」

「ふふふ、いいのですよ、ね、有美さまもいいですよね?」

「うんっ! いっぱい私と遊んでもらうからっ!」

 この子は正直で良い子のようです。有美さまも気に入ったようですし、嘘をつけない子に悪い人はいません。これから一週間存分に私達の町を堪能してもらうことにしました。

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