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有美さま、猛勉強するの巻

 いやはや、参りました。最近の私は有美さまの退屈しのぎを考えるので頭がいっぱいでした。だからです、私はそれはもうこれでもかと旦那様や奥様、そして私の父からお叱りを受けることになってしまいました。

「黒江っ、これは一体どういう事だっ!?」

 応接間に呼び出された私の前には、ソファに座る旦那様と奥様、その後ろには私の父が立っておりました。

 テーブルに差し出されたのは何枚かの紙でした。

「こ、これは・・・・・・」

 記載されていたのは有美さまの名前、そしてほぼ×がついた各教科の答案用紙でした。

「・・・・・・ひどい」

 国語、算数、理科、社会、全てが一桁ナンバーです。

「お前がついていながらなんだこの点数はっ! 有美はこの有栖川家を継ぐべき後継者、それがこんな有様とは・・・・・・」

 頭を抱える旦那様、奥様は涙を浮かべ、父は怒りに震えています。

「も、申し訳ありません、今日から、今すぐにでも勉強を開始、挽回いたしますのでっ!」

 私は頭を下げると同時に、有美さまの勉強メニューを思考します。そういえば最近勉強をしている有美さまの姿を見たことがありませんでした。まさかここまで落ちていたとは。

「いいだろう、次にある定期テストまでに結果を出せ、すぐに一番を取れとはいわん、だがせめて上位には入ってもらわないと困る、黒江、できるな?」

 旦那様は私にそう命じました。それは信頼の証でもあります、このどん底状態から上位に食い込ませるのは至難の業です。ただでさえ有美さまの通う学園は格式、学力、運動面でも優れた一流どこです。周りも名家のお嬢様ばかり、その者達を出し抜いて上に行けというのです。

でも旦那さまは私ならそれができると信じてくれているわけです。実際私は有美さまと同じ学園の高等部でつねに一番を取り続けていますし、有美さま自身もやればできる子です。私がつきっきりで勉強を教えれば決して実現不可能ではありません。

 それでも一つ問題があるとすれば・・・・・・。


 私はすぐに行動を開始しました。有美さまの部屋に行くと、ベットに座りうたた寝していた有美さまの首を捻ると無理矢理起こしました。

「いたっ~っ! ちょっとなにするのさ、黒江っ!」

「はい、いいから今から勉強しますよ、寝てる暇はありません」

「え、勉強? なに言ってるの黒江・・・・・・」

「お黙りなさい、四の五の言わずに机に座って下さい。一秒も無駄にできませんよ」

「ちょ、ちょっと黒江どうしたの、頭おかしいの?」

「おかしいのは有美さまです、テストの点数見ましたよ、なんですかあれ、江戸時代の人でももう少しましな点とれますよ。いいから総合問題集出してください」

「無茶苦茶だっ! 黒江は意地悪だっ! 私は今からゲームするんだからっ! 勉強してる暇なんてないんだからっ!」

 私はごちゃごちゃ五月蠅い有美さまの首を両手で掴むともう一度斜めに捻りました。

「うぎゃっ! 痛いっ! く、黒江ぇぇぇぇぇっ」

「これは旦那様のご命令です。素直に聞かないと、外出、テレビ、ゲーム、その他全てが禁止されてしまいますよ。いいんですか?」

「ぐっ」

 涙目の有美さまが静かになりました。旦那様の影響は絶大です。普段はこれでもかと有美さまを甘やかしますが、怒るときはきちんと怒る、立派な父君です。

「はい、まずは算数から、小数と小数の割り算から行きますよ」

「待って黒江」

「なんですか?」

「私は一つ言いたい、私は将来この有栖川家を継ぐ後継者だよ?」

「何を今更、だからこそこうやって勉強しなきゃでしょう」

「つまりだよ、私は器が大きいんだよ。だから小数点なんて細かい事は気にしたくないんだよ。普通の計算ができてればそれでいいじゃない」

「いいわけあるかぁっ! ごちゃごちゃ言ってないで、早く解きなさいっ!」

「ふえぇ・・・・・・今日の黒江はなんか違うぅ・・・・・・」

 そしてすぐに集中力を切らす有美さま相手に一時間びっちり範囲内の問題を詰め込みます。

 そうなんです、問題というのは、とうの有美さまにやる気が全くないと言うことです。やれば出来る子なんですけどねぇ、やらないんですよねぇ。


「はい、じゃあ次は国語です」

「え~、まだやるのぉ、そろそろアニメ始まるんだけど・・・・・・」

「全教科やりますよ。アニメは録画してるんでご心配なく」

「いや、リアタイで見ないと、話に・・・・・・」

「キッ!」

 私が睨み付けると、有美さまはわなわな震えて口を閉ざしました。今日の私は一味違います、なんたって旦那様や奥様、父の期待を一身に背負ってるわけです。勉強が出来ることが全てではないのは分かっています。その私だって有美さまには最低限の学力はつけてもらいたいわけです。

「はい、じゃあこの文を尊敬語・謙譲語に直してください」

 私は、テキストを指刺します。

 お客様がお土産をくれた。

 先生が教科書を読んだ。

 来賓が学校に来た。

 この最後を直せばいいのです。小学生の問題以前にこれは有美さまのような上流階級のお嬢様にはぜひとも身につけてもらいたい常識です。

「えっと・・・・・・」

 有美さまが考えながらペンを走らせます。

「できた。どう、黒江・・・・・・」

「どれどれ」

 私はテキストに目を通します。

 お客様がお土産をくれてやった。

 先生が教科書を読んでやった。

 来賓が学校に来やがった。

「なにこれ・・・・・・」

「ま、間違ってる?」

 有美さまはそわそわと私の言葉を待っていましたが、絶句してた私からは声はでませんでした。

 一時間、日本語というものを有美さまにたたき込みました。

   

「・・・・・・理科行きます」 

「・・・・・・はい」

 私達の疲労はこの頃にはかなり蓄積されていました。お互いストレスでどうにかないそうでした。

「メダカの雄と雌の見分け方はなんですか?」

「えっと、雄が強そうで、雌が繊細そう」

「はい、馬鹿。次、植物の発芽の条件は、水、空気、後一つはなんでしょう?」

「んと・・・・・・やる気?」

「はい、馬鹿。次、水などを正しく計る容器は?」

「あ、それわかる、メスブタヤロウダーだ」

「はい、惜しい。いや、惜しくない。次、決まった量の水に溶ける食塩の量は?」

「アンリミットっ!」

「はい、かっこよく言ったけど、リミットはあります。はぁ、もう全然駄目ですねぇ」

 やればやるほど自信がなくなってきました。

 次の定期試験まで一ヶ月ほど。とにかくやるしかありません。

 私はこのままただ問題集を解いていくだけでは無意味と思い、少し方向性を変えてみることにしました。


「有美さま、勉強を勉強と思うから駄目なんです。問題一門解いてそれが正解なら経験値をもらえてレベルが上がるようなゲーム方式でやっていきましょう」

「ん、なにそれ、面白そう」

「私が問題を作成します、最終的に魔王を倒すようなRPG風にしてみましょう、これなら有美さまも楽しんで勉強できるはずです」

「それならやるやるっ! イベントとかもちゃんと用意してね!」

「はい、ストーリーもちゃんと考えましょう」

 こうして私は徹夜で問題からシナリオ、マップ、キャラクターまで考え、一冊の問題集に纏めました。


 一ヶ月後、裏ダンジョンまで制覇した有美さまにもはや敵はおられませんでした。

「黒江~、全教科満点だったよっ!」

「やりましたねっ! 最終的に凝りに凝って広大なファンタジーになってしまいましたが、作ったかいがありました」

 伝説の武器もを手に入れる試練を超え、敵となった親友との和解、共闘などを経て、さらわれた幼なじみも助けました。

 有美さまはやはりやれば出来る子なのです。

 ただ普段、やらないだけなのです、この方法もすぐに飽きられるかと思いますので次はまた違う形で勉強をさせなくてはなりません。

 ともあれ一先ずはミッションクリアです。

 結局今回のテストは学年一番になれたので旦那様達もさぞお喜びになるでしょう。

 有美さまには有栖川の当主に相応しい素晴らしい人物になってもらわなければなりません。


 さて私も自分の勉学に励まなければなりませんね。

 その素晴らしい当主へと育った有美さまの横にいられるのが私であるためにも。

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