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有美さまと大喧嘩するの巻(後編)

 私は走りながら主を呼びます。

「ヴァレフォール様、私に力をっ!」

 融合すると私の速度が一気に増しました。ヴァレフォール様の力を借りれたということで私は確信しました。魔女が主の力を降ろせるのは悪魔自身が作り出した空間のみ。しかし例外が一つ、それは天使が作り出したエンジェルズガーデン内、私はいつの間にか奴らのテリトリーに侵入していたって事です。

 動きを止めていた集団に追いつきました。すでに少女を取り囲んでいます。

「だぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 私は不意打ち一撃、後方にいた使途の一人の頭部目掛けて回し蹴りを打ち付けました。吹き飛ぶ男、私はそのまま男達を飛び越えへたり込む少女の前に降りました。

 仮面の男達の視線が一斉に私へと突き刺さります。

「あぁん?」

 そう言ったのは、先頭にいたあの別格だと思った片割れ。私の突然の乱入に多少動揺していた他の者達とは違い、この二人だけは隙を見せずに手に持つ得物を私に向け戦闘態勢を取っていました。

「なんだ、お前? 魔女か?」

 猫背で銀の短刀を二本持ち、目元だけ仮面で隠す男と、その男より大柄で大剣を持つフルフェイス型の仮面男、改めて向かい合ってわかる。後ろの雑兵とはやはり格が違う。

「・・・・・・貴方、ランクは?」

 私は小声で後ろの少女に声をかけます。

「あ、え? あ、あの」

 そうとう怯えているのかうまく声に出せない様子、私はもう一度聞き直しました。

「ランクです、貴方魔女でしょ」

「え、えと、百二十八位・・・・・・です」

 今度はなんとか答えてくれました。でも私が期待したものとは異なります。

「・・・・・・ここは私がなんとかしますからお逃げなさい」

 せめて二桁なら共闘できたかもしれません、しかしさすがに三桁が相手するには荷が重い連中です。

「早くっ!」

「は、はいっ!」

 少女は私の強い口調に慌てて走り去ります。

「兄貴~、逃がしていいのかぁ?」

「・・・・・・雑魚はいい、それよりこっちだ」

 使徒達の興味はすでに私に移っており、あの少女は見逃してくれたようです。私はひとまずその事だけで少し安堵しました。

「で、お前も魔女だな、それも相当上位・・・・・・」

「ひゃはひゃ、こりゃ、滅っしがいがあるぜぇっ! なんも抵抗しねぇ獲物なんてつまんね~からなぁっ!」

 猫背の男は二本の短刀をすり合わせ甲高い金属音を響かせます。

「おい、魔女ってランクあんだろ? お前何位だ、あぁ?」

「・・・・・・・・・・・・」

 私は無視しつつ、この後の戦闘を組み立てていきます。猫背の男は俊敏そうですし、大柄な男は魔女でいうところの攻撃タイプでしょう。私は二人を魔女に見立てて対策を模索していきます。高ランク魔女の攻撃タイプとスピードタイプを同時に相手にするイメージ。考えれば考えるほど勝算が薄くなっていきますが致し方有りません。

「俺は御前の七天使が一人ハニエル様が騎士、グナー」

「・・・・・・同じく御前の七天使が一人サリエル様が騎士、フリッグだ、いい加減お前も口開けや、何位だって聞いてんだよ」

 頼んでもいないのに二人が名乗りました。しかし、強いとはおもいましたが御前の七天使ですか。四大天使の騎士よりは劣るとはいえ状況は最悪です。

「・・・・・・ランキング六位、ヴァレフォール様が魔女ソルビョルグです、できれば引いてもらえると助かるのですがね・・・・・・」

 このレベルの騎士相手ではいくらヴァレフォール様の名をだしてもはったりにはなりません。むしろ男達の口元はつり上がっていきます。

「ひょっ! 一桁っ! いいぞっ! いいぞっ!」

「はは、俺達が引くとでも? ましてやお前は高ランク魔女だ、こんな獲物逃がすわけなかろう」

 男達は私に刃を向けました。俄然やる気です。

「・・・・・・ですよねぇ」

 私は嘆息しながら、これは私が有実さまに暴言を吐いた罰なんだなと思う事にしました。それならばここで死んだとしてもしょうがないかななんて。

「まぁ、それでもただではやられませんよ。他の魔女のためにも貴方達どちらかは道連れにしますからっ!」

 私は言い捨てるなり後ろにステップ、距離を取りました。

 すると今私が居た場所に大剣が振り落とされます。轟音と共に大地が切りさかれ大きく溝を作りました。一瞬でも私の行動が遅れていれば体は二つに別れていたことでしょう。

「ス、充、回、テンペスト」

 即時詠唱、私は回避スキルを使用、すでに周りこんでいた二刀使いの男からの攻撃を地面すれすれまで体を沈め避けます。残像を残すほどに回避能力を高めた私は、その後高速で切りつけてくる二本の短刀を切っ先を見切っていきます。僅かなに生じる攻撃の合間の隙、そこで反撃しようとすると、間髪いれずにもう一人の男が大剣を振り下ろしてきます。

(これは参りましたね・・・・・・)

 先ほど会話からこの二人は兄弟なのでしょうか、お互い息が合い敵ながら素晴らしいコンビネーション。正直私では逃げるだけで精一杯です。

 スキルを重ねながらなんとかダメージだけはもらわないように立ち回ります。私は六芒星ですが知識タイプ、正直こういう力押しの戦いは苦手です。相手を観察し最適な選択肢をとりながら追い込んでいくスタイル。闘う度に勝率は上がりますが、その反面初見の相手ではたとえ自分よりランクが下でも苦戦してしまいます。まぁ、知識タイプには得意分野があることはあるんですがとても今は使えそうもありません。

 ここまでギリギリながら対応してきましたが、回避系のスキルがそろそろ切れそうです。それでもその後どうしたらいいか思いつきません。

 スキルが尽きた時、私の体はいくつにも切り裂かれバラバラにされるでしょう。いっそ自爆スキルでも購入しとけば良かったのかもです。そうはいっても威力はたかがしれてるのでこの者達には大して効かないでしょうけど。

「この、ちょこまかとっ!」

「問題ないっ! こんな動きいつまでもできん、スキルだ、その内切れるっ!」

 男達の動きは鈍りません、私への攻撃の手を休めることなく剣を振り続けます。私が空に飛ぼうが地面を大きく蹴ろうが間合いを変えません。少しでも離れようとしてもほぼ同時に反応して距離を縮めてきます。

 最後の回避系スキルの効果時間、それがもうすぐ切れます。

(最後にもう一度だけ・・・・・・有実さまに会いたかった)

 なんで喧嘩なんかしてしまったのだろう、最後のスキルを使用し、死を覚悟したその時から脳裏にあの顔が浮かんで離れない、こんなに大好きだというのに、どうして。

 

 そしてついにその時が来てしまいました、私の回避能力が失われる瞬間です。

 

 男の短剣が私の両腕を奪うはずでした。男の大剣が私の体を引き裂くはずでした。

 しかし、とうにスキル効果は切れていたはずなのに、その後の追撃がきません。

 男達はあろう事か私から目は離し、後方へと頭を振り向いていました。

「あ・・・・・・」

 男達の間から、私の瞳に飛び込んで来たのは、どうしても会いたかったあの方の姿。

 私はあまりの会いたいという想いに錯覚を見ているのでしょうか。

 遠目なため、いつもよりさらに小さく見える少女。

 それでも、その金の髪が、その碧眼が、それが誰なのか私にははっきり分かりました。

「あ、有実さま・・・・・・」

 思わず名を呼んでいました。

 瞬間、有実さまの姿が忽然と消えます。

 そして、十数人の使徒達を通り抜け、一瞬で私の目の前へ。

 後ろを見ていた御前の七大天使の二人、慌てて振り向いていた首を元に戻し少女の背中に視線を合わせます。    

「く、黒江・・・・・・あの・・・・・・その、破れた紙ね・・・・・・見たんだよ・・・・・・でね・・・・・・」

 少女は俯きながら体をもじらせ口ごもっております。

「いや、有実さま・・・・・・」

 有実さまの目には最初から私しか入っていないのでしょう、この場にいる男達を完全に無視して私に話しかけています。

 少女は意を決したのか、息を深く吸い込むと言葉を出すと同時に頭を下げました。

「く、黒江、ごめんなさいっ! あんなのまだ大切に持っててくれたんだね・・・・・・それなのに私・・・・・・」

 これには私もこの状況の中でも驚いてしまいました。有実さまから謝るなんて事、この十一年で三回しかありません。それはそれでとんでもない出来事なのですが。

「・・・・・・いや、それはいいのですが・・・・・・今、それどころでは・・・・・・」

 そうです、今の私は使途達との戦闘中なのです。それも今まさに殺されかけていた所でした。 あっけにとられていた男達が動きます。

「なんだ、この餓鬼っ!?」

「こいつも、魔女だっ! 子供とはいえ容赦するなっ!」

 有実さまを魔女だと確信すると、それまで止まっていた男達が再び剣を振り上げます。

「有実さまっっ!!」

 無防備の有実さまに使途達は無慈悲に剣を振り下ろしました。

「・・・・・・ん、許してくれるの・・・・・・?」

 相変わらず私の存在しか認めていないのか、少女は恐る恐る顔を上げました。

 その時です。

「あがやぁぁあぁぁっぁぁっ・・・・・・手がっ、俺の手がぁぁぁぁっ!!!」

 突如わき上がった男の叫び声。猫背の男の両手がジグザグに折れ曲がっておりました。もう一つの男の大剣は有実さまの二本の指で挟まれピタリと停止しています。

「あ、有実さま・・・・・・」

 少女にとっては無意識の行動だったのでしょう。元々持ち得た防衛本能。さらに驚くべきはこの時点で有実さまはまだ主の力を借りていません。それなのに。

「有実さま、実は私、今、戦闘中でして、できれば後ほどゆっくり話を・・・・・・」

「え?」

 ここで初めて有実さまが周囲に目を配りました。やっとこの場の使途達が有実さまに認識された瞬間です。

「・・・・・・なに、こいつら?」

「はぁ、やっと気づかれました。この者達は魔女狩り部隊です。ベナンダンティ、魔女達・・・・・・私達の敵です」

 有実さまは顎を引き上げ左右に首を向けます。

「ふ~ん、敵なんだぁ」

 そう声にしたと思ったら、有実さまは一差しと中指で挟めていた大剣、そしてそれを持つ使途グナーごと持ち上げました。それも重力を帯びていないかのようにそれは軽々しく。

「レビィヤタン、敵だって・・・・・・さっ!」

 有実さまは、主を呼ぶと同時に大剣を振り子にグナーを地面に叩き付けました。大きく陥没する大地、有実さまから放たれる蒼い波動。

「あ、兄貴ぃぃぃっ! こ、このクソ餓鬼がぁぁぁぁぁっ!」

 大天使サリエルが騎士フリッグは、使い物にならない両腕の一つから短剣を口に移し、咥えたまま有実さまに襲いかかりました。

「有実さまっ、これはゲームではありませんっ! 殺しちゃ駄目ですよっ!」

 レビィヤタン様をおろした有実さまがこのまま本気を出せば、ここは以前山賊達を殲滅した時のような状況になります。いかんせん、ここは天使達の創りだしたエンジェルズガーデンです。私達が行うゲームでは終了時ダメージは元に戻りますが、ここではその法則は当てはまりません。いくら魔女とはいえ現実世界で人を殺める事はなりません。私はとっさに有実さまに釘を刺しました。

「・・・・・・じゃあ足でいいや」

「ふがぁあぁっぁぁぁかはあっっっぁぁぁぁあ!!!!!」

 再び男の口からこの世のものとは思えないほどの叫喚が、今度は男の両足が幾重にも折られ形が変わりました。もはや自力では動けず地ベタに這いずる男。大剣の男は有実さまの初撃ですでに意識は失われておりました。

「後は・・・・・・」

 有実さまは振り返ると、全く動けずにいた雑兵達に対象を移しました。

「いけませんっ!」

 私は瞬時にスキルを発動、残りすべての使途目がめて魔眼を発動させました。

 知識タイプがもっとも得意とする魔眼スキル、この能力により全員の体が石と化し膠着しました。その場に即席で作られた銅像はさながらこの公園のオブジェのようです。

 私がこうしたのは、有実さまがいくら手加減したつもりでもこの程度の使途達では死んでします可能性が高かったからです。あちらはすでに戦意は無かったでしょうがこれはむしろ騎士側に配慮した結果です。

「な、なんなんだよぉ、その餓鬼の、強さ・・・・・・。お前でランキング六位なんだろ? じゃあその餓鬼は一体何位なんだ・・・・・・」

 四肢は無茶苦茶とはいえ唯一この場で意識を保っていたフリッグが声を振るわせながら絞り出します。勿論、答える義務はありませんが、丁度いいです、こちら側の戦力を思い知ってもらいましょう。

「有実さまにランキングなどありませんよ。有実さまはランキングを外れた七人の最上魔女、そのお一人です。つまり、有実さまのような魔女が後六人いると思ってください、貴方達が魔女を敵視するのは勝手ですが、七席魔女とやるならせめて四大天使の一人でも連れてこないと返り討ちですね」

 できるだけ冷たく、見下ろしながら私はそう告げました。

「まじかよぉ・・・・・・こんなのが後六人も・・・・・・」

 効果は覿面です。ベナンダンティ、現時点でどれだけ戦力が戻っているかは知りませんが、少なくともこの場にいた者達には七席魔女の実力が充分伝わったでしょう。

「しばらくしたら私のスキルの効果も切れ石化も解けます。今回は見逃してあげますから引きなさい。しかし、この町は有実さまの縄張りです。今度見かけたら容赦しませんからね」

「・・・・・・・・・・・・」

 男は無言で顔を伏せました。自分でいっておいてなんですが、ここは有実さまを全面的に押し上げます。いや、私も一応一桁ナンバーですから、御前の七大天使とはいえ一対一なら勝負になるんです、今回はあれです、多勢に無勢だっただけです。同じ一桁ナンバーの、そうですね、ワシリータやオルトルート辺りが一緒だったなら余裕で勝てた事でしょう、本当です、マヂなんです。

「黒江っ!」

「わっ!」

 一段落したと判断したのでしょう。有実さまが私に飛び込んで来ました。顔をぐりぐり私の胸に押しつけます。

「ごめんね。・・・・・・許してくれる?」

 顔を上げ眉を下げて瞳を合わせてきました。その表情は私の心をキュンとさせるには充分すぎました。

「私に方こそ申し訳ありませんでした。有実さまにあんな口を・・・・・・」

「ううん、そんなのいい。だからね、だから黒江・・・・・・帰ってきて・・・・・・」

「・・・・・・有実さまがお許しくださるなら」

 有実さまはもう一度私の胸に顔を押し当てると小さく頷きました。


 

 私達は、来た道を引き返し屋敷へと戻ります。手を繋ぎながらゆっくり歩いて行きます。

「・・・・・・今日は黒江と寝る」

「あらあら、なんだか今日は甘えん坊ですね」

「・・・・・・駄目?」

「・・・・・・いいに決まってます。でも、寝る前にジュース飲むのは禁止ですよ。何回もトイレに起きられたら困りますからね」

「わかったっ!」

 有美さまが私の手を強く握りました。私も握り返す手に力を込めました。

 今日は色々ありました、一時はどうなるかと思いましたが累計六十三回目の喧嘩と六十三回目の仲直り。

 おおむねいつも通りです。 

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