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まぢだぞー、まぢやってやるんだからー!の巻

 私達は悪魔達の作り出した空間に場所を移しました。

 今回団体戦のために用意されたステージは、ローマのコロッセオでした。

 内部は地下部分が剥き出しのため、今は参加者全員宙に浮いている状態です。

「ルールはなんでしょう? そちらが好きに決めてもらっていいのですよ」

 モルガンが私達にそう聞いてきました。色々なルールで戦えるこのヴァルプルギスゲーム、挑まれたこちらに決定権があります。ルール次第では不利にも有利にもなります、私は少しでもこちらに分があるようなルールをいくつか模索してまいりました。はてさてどれにいたしましょう、やはりここは・・・・・・。

「正当でいいよ。純粋に殺し合おう」

「そうですか、まぁ、その方が話が早いですね。ではそのように」

 速攻で決まってしまいました。勿論、私は散々思い悩んだ時間を返せっなどとは微塵にも思いません。主である有美さまが決めたことなら私は素直に従うまでです。く~。

「じゃあ、行きますよ」

 モルガンはそう言うと、息を大きく吸い込みました。

「マモン様、私にお力をお与え下さいっ!」

 モルガンが主を呼び込みます。それに答えるようにモルガンの体から輝きが起こります。途轍もない翠色の魔力を放出し、私達に目を向けました。そう、これが、七席魔女。見られただけで、心臓の鼓動が急加速、呼吸が乱れ、私でさえ押しつぶされそうになるのを必死で堪えている状態です、正直後ろにいる他のメイド達は耐えられないでしょう。早くこちらも悪魔を降ろさなければなりません。

 モルガンに続くようにあちらは順々に主を降ろしていきます。有美さまも動きました。

「レヴィヤタン、出番だよ」

 有美さまが主を呼びます。途端、有美さまから果てしなく広がる海のような青い魔力が爆発しました。圧されていた相手側の魔力を一気に押し返します。私も急いで主を呼びました。

「ヴァレフォール様、私に力を・・・・・・」

 纏い付くよう私の体にヴァレフォール様の力が宿ります。これにより相手からの圧力がなくなり楽になりました。他のメイド達もそれぞれの主から力をお借りしていきます。

 その場にいる魔女全員に主が宿りました。

 臨戦態勢。

 いよいよ、開戦です。


「黒江、一気に行くよ・・・・・・」

「え?」

 有美さまが口を開きました。そして私は驚愕することになります。

「ワンミニッツ・オーバードライブ・・・・・・」

「なっ!?」

 唱えたのは有美さまの固有スキル名。固有スキルとは選ばれた魔女しか持ち得ない独自のスキル。私の紅茶を美味しく入れられるというロイヤルティータイムとは違って、有美さまの固有スキルは一分間だけ自身の全能力を二倍にできるという反則なまでに強力なもの。しかし、リスクも大きく時間を過ぎると全能力が通常の半分になってしまう諸刃の剣。

 それを開始早々発動されますか。正直私では考えられません。

 こうなると有美さまが一分以内でモルガンを倒さないと私達の敗北は決定です。

 唱えたとたん、有美さまのただでさえ圧倒的なオーラがインフレーションを起こし突風をまき散らします。私はなんとか目を開けているので精一杯。

「死んで」

 迸る魔力の総量を瞬間的に膨張させた有美さまが相手側に向かって目を見開きました。その、瞬間、モルガンとワシリータを除く五人の頭部が破裂、頭を失った体はゆっくりと地面に落ちていきます。

「な、なんですっ?!」

 これにはさすがのモルガンも驚きました、完全に不意打ちです。有実さまはその溢れんばかりの魔力を相手七人に瞳を介して無理矢理送り込んだのです。器の小さな凡庸魔女なら総量を軽くオーバーして内側から破壊するほどの魔力でした。

「あれ・・・・・・雑魚なのに一人残った。あのお姉ちゃんもそこそこ強いね・・・・・・」

 モルガンには全く効いてません。隣のワシリータも顔は苦痛で歪んでいましたがなんとか堪えた様子、有美さまはそんなワシリータを見て感嘆の声を上げました。それはそうです、ワシリータはランキング三位の高ランク魔女です。ぶっちゃけ私より強いのではないでしょうか。

「ワシリータは雑魚ではありません、ランキング三位の高ランク魔女です」

「ふ~ん、じゃあ、あの一桁、黒江に任せるよ、他のメイドは下がらせて巻き込んじゃう」

「かしこまりました」

 私はハンドサインですぐに他のメイド達を後方へ下がらせました。有美さまはその時にはもうモルガン目掛けて飛び込んでいたのです。

「レジェ一種、エクスカリバー・・・・・・これで切り裂いてあ・げ・る・ねっ!」

 有美さまのスキルによって、手に武器が収まります。攻撃系レジェンドスキル、エクスカリバー、眩く光る刀身を眼前まで迫っていたモルガンに向けて振り下ろします。

 二人が接触したことにより耳を劈く爆音と共にステージが真っ白に染まりました。

 私はもしかしたら今のでモルガンを倒せたかも、などとそんな楽観的な事を思ってしまいました。しかし、そんなはずはありません、モルガンは瞬時にスキルを詠唱し有美さまの攻撃を凌いでおりました。

「まるで火の玉・・・・・・。いままで圧倒的な力でごり押ししてきたのね。でも私を他の魔女達と一緒にしてもらっては困るわ」

 並の魔女なら髪の毛一本も残らないような凄まじい有美さまの攻撃を、モルガンは盾によるスキルで防ぎます。

「レジェ一種、イージスの盾。いくらレジェンドスキルとはいえ・・・・・・ぎゃぁあぁぁっ!!!?」

 有美さまは悠長に語るモルガンの右手を掴むと力を込め思いっきり引き抜きました。鮮血をまき散らしながら片手が空に放られます。

「真面目にやってよねっ! 時間ないんだからさっ!」

「このぉぉぉぉ、お子様ぁぁあぁっ!」

 モルガンの目の色が変わりました。有美さまの髪を掴むと、大きく手を振り、自分の膝に顔面を叩き付けます。有美さまは鈍い音と共に鼻の骨が折られそこから血がドクドクと流れ出しました。

「・・・・・・痛い・・・・・・ふふふ、痛いよぉぉぉ、初めて感じた。やればできるじゃない、七席ぃぃぃっ!」

 後はもう無茶苦茶でした。お互いスキルも使わずまるで一般女性同士の喧嘩のように醜態をさらしていました。互いの衣服を破りながら、耳に噛みつき引きちぎる有美さま、眼球に指を差し込み抉るモルガン、そんな光景を私とワシリータは一歩も動かず見ていることしかできません。醜くも、七席二人の戦いは美しかったのです。


 二人が交差するだけで大気が震えました。

 どちらも回復している余裕がないので、体はズタズタです。

 接戦しているように見えますが、やはり全能力二倍になっている有美さまの方が優勢です。

 有効打を積み重ね、確実にダメージを与えていきます。

 有美さまがモルガンの顔を殴りつけ空中から地面に叩きつけます。貴重な建築物の地下は飛来物が墜落したような有様で破壊されます。爆発による砂煙を吹き飛ばしながら、有美さまはすぐに追いかけモルガンの元に飛び込んでいきました。そのまま地面にめり込んでいたモルガンに馬乗りになります。有美さまの固有スキル、その限界時間まで残り十秒を切ったあたりでした。

「ぐちゃくちゃにしてあげるぅぅぅっ!」

 有美さまが拳を振り上げ、モルガンの美しい顔に全力でそれを打ち付けました。何度も何度も何度も何度も。   

「壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろ、壊れろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 他の魔女なら触れただけで粉砕するほどの一撃。それをがむしゃらにモルガンの顔へ落としていきます。モルガンの顔が血で真っ赤に染まっているので良く形が見えません、ですがもはや原型を留めてはいないでしょう。それでも、スキルリミット残り二秒と言うところでモルガンの口元が僅かに動きました。

「これで、お終いっ!」

「・・・・・・デスワール・・・・・・」

 有美さまの渾身を篭めた最後の一撃、それが決まったその刹那でした。有美さまの頭部がギュルリと後ろにねじ曲がります。

「え・・・・・・」

 視界が急に百八十度変わり空が見え、そしてその後は真っ暗になった事でしょう。青い瞳は上瞼に吸い込まれ、跨がっていた小さな体はモルガンの上半身からゆっくり崩れ落ちます。モルガンが最後の最後でなにか使用したのです、推測でしかありませんがそれこそ彼女の固有スキルではないでしょうか。有美さまの固有スキルが切れたその時まで耐え抜いて発動されたものと思われます。そのモルガンも全く動きません。有美さまの攻撃を全て受け息絶えたようです。


 しばらく呆然としていた私ははっとしワシリータに視線を移します。

 時間巻き戻し系のスキルを使われたら厄介です。

 私は瞬時にハンドサイン、後方に待機させていたメイド達を私の元へ集結させます。

「さて、お互いリーダーは失いましたが、いかがなさいます? 続けますか?」

 私達は残ったワシリータを、身構えながら対峙します。

 ワシリータはフっと息を吐くと、両手を挙げました。

「やめとく。ただの魔女六人相手ならやってもいいけど、貴方もいたんじゃ勝算は薄い。うちのリーダーは仲間が傷つくのを悲しむ優しい人なのよ。だから、無駄な戦いはしない」

「そうですか、この場合、引き分けでもいいのですが、団体戦とはいえ有美さまの全勝記録を止めたくはありません。なので甘えさせてもらいますね」

 実際、私達はなにもしていない。ランキング一桁の私達でさえ、あの二人の間には入っていけなかった。仕える主が強力なのは誇らしい、だが反面力になれない寂しさもある。

 有美さまは納得しないでしょうが、この日の団体戦、私達の勝利です。

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