いっくぞ~、やってやるぞ~の巻
あちらの窓口役と話を進め、翌日には対戦の準備は整いました。
こちらは、私を含むメイド魔女隊六名に有美さまを加えた計七名。団体戦の対戦人数は双方合わせる必要があるため、最大規模のジュエルウォーカーも七人で調整されました。
七対七。しかし実際には有美さまと七席モルガンの一騎打ちになるでしょう。私達メイド魔女隊ではあちらの七席魔女を相手にはできません、されどそれはあちらも同じ。私達の役目はいかに自分達のリーダーをサポートし、妨害から守ることです。
私達はリムジンに揺られ世螺夢町に向かっております。世螺夢町は相手側のホームでもあり、魔女の聖地とされている場所です。伝説の魔女、今は引退していますがエンプレスアラディア様が住む町というのが大きな理由です。アラディア様がいるというだけで魔女と敵対する者達や闇に蠢く他の勢力が手を出してきません。魔女達が選ぶ、住みたい町十六年連続一位という記録はまだまだ続きそうです。
「有美さま、そろそろ到着しますよ」
「やっとだねっ!」
指定した時間は午後二時、私達は十五分前に目的地につきました。移動中ずっと足をばたばたさせ、落ち着きのないご様子だった有美さま。まるで遠足前日の小学生のように興奮を抑えきれないといった感じです。飛ばせ、飛ばせ、追い抜け、追い越せ、と運転手を煽りまくるのを私が止めに入るほどでした。
団体戦は多くの魔女が一堂に会します。なるべく人目の少ない場所が好ましい。そこで私達が指定したのは遊園地です。一見矛盾しているように思えますが、勿論今日一日借り切りました。なのでここにいるのは私達と・・・・・・。
「お嬢様、到着です」
メイドの一人が後部座席のドアを開けます。私が先に降り、有美さまに手を差しのばしました。全員が車から出ると、対戦相手はすでにお待ちくださっておりました。
紅いドレスの有美さまを囲むように、メイド服を纏った私達は相手と対峙します。
「ごきげんよう、本日は私達の要請を快く受けて頂き光栄ですわ」
そう開口一番声をかけてきた人物を私はよく知っています。実際会うのは初めてですが、動画をよく拝見させていただき存じておりました。
全員、有名なお嬢様学校の制服を着ておりますが、明らかに一人別次元の方がおられます、お嬢様特有の気品が漂い、耳より上でツーサイドアップに纏めたその髪型は彼女の可憐さをさらに引き立てておりました。そう、彼女こと、最大派閥ジュエルウォーカーのトップで、現七席魔女の一人、モルガンその人です。
「黒江~、わかる、わかるよ・・・・・・。あいつだね、その強い魔女って・・・・・・」
有美さまが前に出られました。モルガンと互いに目を合わせながら距離を詰めていきます。 両方の取り巻きに一瞬緊張が走りました。
「ふふ、初めましてお嬢さん、大変可愛らしく聖女の二つ名は伊達ではありませんね。噂はかねがね聞いてますよ。天才魔女キルケー、今日はお互い存分に楽しみましょう」
「うん、お姉ちゃんなら私を楽しませてくれそうだね、小さいからって舐めちゃ駄目だよ?」
モルガンはにっこり微笑みだけで答えると、後ろの仲間に手を向けました。
「今回七対七という事で、我がジュエルウォーカーの精鋭を連れてきました。右からランキング三位の・・・・・・」
「あ~別にいい。すぐ死んじゃうやつはどうせ覚えられない。お姉ちゃんだけ名前聞いとくよ」
仲間の紹介に入ろうとしたモルガンを、有美さまは即座に遮ります。モルガンは有美さまの失礼な態度に対し僅かに眉を潜めましたが、すぐに柔らかな表情に戻しました。
「そうですか・・・・・・。どうも早く戦いたくてしょうがないご様子ですね。わかりました、すぐに始めましょう。私、強欲のマモン様が魔女、七席モルガン、東城院雛乃と申します、お互い健闘し合いましょう」
「レヴィヤタンの魔女、キルケー、有栖川有美だよ。よろしくね、お姉ちゃん・・・・・・」
お二人の間に始まる前から凄まじい闘気が渦巻いております。高ランク魔女の私でさえ飲み込まれそうです。有美さまは無視されましたが、あちらにはランキング三位のワシリータも居られます。私よりランクが高く防御特化の六芒星タイプ、正直厄介な存在です。私の役目はワシリータをいかに押さえるかって所でしょうか。
「では、開始します、よろしいですね?」
「いいよ~、早くやろう、うずうずしすぎて体がどうにかなっちゃいそうだよ」
有美さまにとって初の団体戦、初の七席魔女との対戦、私達の体は現実からステージに飲み込まれるように消え、そしてゲームが開始されます。