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マモン様が魔女、七席モルガンが喧嘩売ってきましたよの巻

 

 ある日の昼下がり。

 私はそれはもう、はしたなくメイド服のスカートを両手で摘まみながら広く長い有栖川邸の廊下を走りました。

 有美さまのお部屋の前まで来ますと、普段欠かすことのないノックを忘れ、勢いよくドアを開け放ちます。

「あ、有美さま! 大変です、大変なのですっ!」

 私が部屋に入りますと、有美さまは天蓋付きの大きなベットの上で座ったまま寝息を立てておられました。

「か、可愛いぃっ! ・・・・・・じゃない有美さまっ! 起きて下さいっ!」

 非常に残念ではあります、有美さまの天使のような寝顔を見ながら永遠の時を過ごしたものですが、今はそれどころではありません。

「有美さまっ! 有美さまっ!」

 私は近づき有美さまを優しく揺すりながら現実へと誘います。

 しかし、とうの有美さまはなかなか目を覚ましません。ときより鼻ちょうちんを膨らませます。美少女なのに鼻ちょうちんっ!

「有美さまーーっ!」

 私はめげずにユサユサと有美さまの体を揺さぶります。

「・・・・・・んん、むにゃむにゃ・・・・・・ん~黒江、大丈夫、大丈夫だよ、戦いの火蓋は切って落とされたよ、むにゃりむにゃり」

「なんですか、どんな夢を見ておられるのですかっ! 夢の中でも戦ってるのですかっ!」

 いやはや起きません、こうなればあれです。あれをやります。

「えいっ!」

 私は指で有美さまの鼻ちょうちんをつついて破裂させます。普通の方なら割ったくらいじゃ起きません、てか鼻ちょうちんすらできません。しかし、そこは絶世の美少女であらせられる有美さまです、パンと砕けてビクリと目を覚まされました。

「あれ、んん? あれれれ、私、たしか第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊との戦闘に突入したはず・・・・・・ここは??」

 なるほど、有美さまはデルタフォースと戦闘中でしたか。それはさぞ楽しい夢だったでしょうに、少し申し訳なく思います。しかし、現実でも有美さまが歓喜するような事が起こっていたのです。

「おはようございます、お休みのところ大変恐縮でしたが、一大事ゆえ無理に起こさせていだたきました」

「むー、せっかくいい夢みてたのにぃ。それにしてもさすがデルタだね、スキル無しとはいえこの私をあそこまで追い込むなんて・・・・・・」

「特殊部隊相手に女の子が何言ってるのですか。それはそうと大変なのですよっ!」

 まだ半分寝ているのでしょう、ふわふわしている有美さまの眼前に私はスマートフォンの画面をつきつけました。

「ご覧下さいっ! 対戦要請ですっ! しかも団体戦の申し込みですよっ!」

 興奮する私とは裏腹に有美さまは特に興味を示しません。

「ふ~ん、で、なに~、その団体戦て?」

 有美さまは最高峰の魔女でありながらも、契約からまだ一年足らず。しかもゲームにおけるルールなども覚えようとしません。初めての事は私が一から説明しなくてはなりません。

「ゲームは基本1対1ですよね? しかし、派閥同士の多数対多数といった対戦も可能なのです。対戦人数を合わせる必要はありますが、勝利すると参加した魔女のポイントを一気に得る事ができます」

「へぇ~、派閥なんてあるんだ~、全員ライバルだってのに変なの~」

「そうですね、魔女とはいえ三百六十六人もいますからね、私達みたいな主従関係や友人関係の方々もおられるのでしょう」

「じゃあさ~、どんなのがあって、どこが強いのぉ?」

 関心薄げながらも聞いてきました。

「ナインシスターズなど数々の派閥がありますが、まず一番はあのメディアとベファーナ要するスターラヴァー、四人という少数ながら七席二人にマリンカ、オルトルートといった高ランク魔女で構成された最強コミュニティーです、そしてこちらも七席グローア率いるマーダーウィッチーズ、ここは三人とさらに少なく派閥というより部活の仲良し先輩後輩らしいです。そして、今回私達に対戦要請をしてきた、ジュエルウォーカー。人数でいえば最大規模、トップはあの七席モルガン、人数はこちらに合わせるそうです、いかがなさいますか?」

 有美さまは未だ七席魔女とは対戦していません、ここで有美さまが了承すれば変則ルールとはいえ初の七席魔女とぶつかる事になります、私も固唾を飲んで有美さまの判断を仰ぎます。

「え、なに? ごめん、聞いてなかった」

 有美さまは口を開けて上の空でした。私は卒倒しそうになるのをなんとか堪えます。自分で聞いといてこれです、さすが有美さまと言わざるを得ません。

「もう、どこの難聴主人公ですか。いいですか、有美さま。これを受けると初の七席魔女との戦いになるのですよ? わかります? 七席ですよ、七席!」

「いや、わかんないけど・・・・・・」

 自分も七席の一人だというのに、このお嬢様ときたら。やれやれです。まぁそんな所もまたお嬢さまの器の大きさといいましょうか、私にとっては魅力なのですが。

「もの凄く簡単にいいますね。七席っていうのはランキングから外れた七人の超強い魔女達のことです。この者達と戦うというのは、そうですね・・・・・・有美さまがご自分と戦うと思ってください。今までゲームでは相手を瞬殺されてきましたけど今回はそうはいきませんよ」

 私の説明がうまく伝わったのか、有美さまが顔を上げ目を細めた。

「へぇ~・・・・・・」

 完全に興味を示されました。私は改めて伺います。

「で、いかがなさいます?」

 有美さまはベットから腰を上げ立ち上がりました。

「やるよ・・・・・・黒江の言うとおりなら、今度は簡単に死なないよね・・・・・・」

「・・・・・・かしこまりました。人数、日時、場所、全てこちらが指定してよいとの事、後は私にお任せください」  

 有美さまの小さな体が小刻みに震えています。

 心が歓喜で渦巻いておられるのでしょう。 

これは私も早急に段取りを進めなくてはなりませんね。

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