表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Skill&Level ONLINE】  作者: 柊 紗那
第二章 現実世界への第一歩
7/115

閑話 ナビゲーターヒユリ

今回はおまけみたいなものなので、ステータス表示はありません。





「……………生き残るために、ですか……」


一人の女性がモニターに向かい、ポツリと零す。そこには一人のプレイヤーが映っていた。そのプレイヤーの名前はカナ。ログアウトボタンが消され、【Skill&Level ONLINE】の世界に閉じ込めたにも関わらず、異常な程に冷静で、現時点で一番レベルの高いトッププレイヤーだ。


「なんだ?珍しいじゃないか。緋百合(ひゆり)がプレイヤーのことを考えるなんて」


「ゲームマスター」


ゲームマスターと呼ばれた男は、緋百合と呼ばれた女性のみているモニターを見る。


「カナ、か」


「はい。少し、考える事がありまして」


緋百合が、ゲームマスターの呟きに答える。ゲームマスターは顎をさする。


「それで?その考える事ってのは?」


ゲームマスターの問いに、緋百合は少し沈黙して答える。


「…………あの年齢で、しかもこの状況であそこまで冷静になれるものでしょうか。なにか、他のプレイヤーとは違うような気がして」


「違う、か………例えば?」


「酷く冷めているような…………どこか、達観さえしているような気がするんです。大人でさえ今頃動き出したところです。それなのにカナさんは、冷静に自分を見つめ、今なにをすべきか考えて…………カナさんは「生き残るために」って言っていましたが、それはみんな同じはずです。こう言ってはカナさんに悪いですが、少し………異常です」


「お前さんがそこまであのプレイヤーを気にかけるとはな…………知りたいか?カナのことを」


ゲームマスターの質問に、緋百合は首を縦に振る。


「わかった。それじゃあ教えよう。カナの本名は、金澤真也。年齢15歳。家族構成は、父親、母親、妹、そしてあいつの四人家族だ。お前の冷めているって言った事は多分、解離性同一性障害(かいりせいどういつせいしょうがい)のことを言っているんじゃないか?」


「多重人格、ですか?」


「まあ、正確には違うがな。あいつの中には多分、自分が二人いる。一つは、年相応の自分。そしてもう一つは、お前の言っているように、酷く冷めている自分と、な…………。曖昧に別れるんじゃなく、はっきりと別れているんだろう。普通は自分が二人いるなんてことはあり得ない。詳しくはわからないが、きっと小さい時に、あいつにとって不幸なことがあったんだろうな。今の技術でもとうてい治す事などできないような、深い心の傷を負うような、不幸な出来事がな。どうしてあいつが二人に別れたのか、わからないが、俺はこういうことじゃないかとおもっている。しょせん、推測でしかないが、いいか?」


「はい」


「あいつが負った心の傷は、心が壊れてしまう程に深いものだったんだろう。心が壊れないようにするためには、自分を二人に分けることしか方法はなかった。だからあいつは無意識のうちに、自分を二人に分けることによって、心を保ったんじゃないか…………というのが俺の推測だ」


ゲームマスターの言葉を聞いた緋百合は、絶句した。それはあまりにも不憫で、可哀想で、あまりにも残酷な理由だったからだ。治す事が出来たならば、もう一度、二人いる自分が一つになれることが出来たのだろう。しかし、ゲームマスターは治す事ができないと言った。それはずっと別れたままだということ。金澤真也はまだ中学三年生。まだまだこれから辛いことや楽しいこと、嬉しいことや悲しいことがあるだろう。辛いときや悲しい時に泣こうとしても、楽しい時や嬉しい時に喜ぼうとしても、別れたもう一つの自分の所為で、出来なくなっている。そういうことになってしまう。そんな理由だったからだ。


「俺の推測を聞いて、どう思った?助けたいと、そう思ったか?」


「はい」


ゲームマスターは、緋百合の返答を聞いて、ニヤリと笑った。


「あいつだけログアウトさせることは出来ないが、その代わり…………あいつを最大限バックアップすることを許可しよう。ナビゲーターとして、あいつにスキル、それから称号を与えることを、お前の任意に任せよう。これからあいつにどんなスキル、どんな称号を与えようと、俺は一切なにも言わん。俺に判断をあおぐことなく、お前の任意で与えることを許可しよう」


「ありがとうございます」


「なに、俺にとっても、優秀なプレイヤーがいなくなることは耐えきれないことだからな。お前がそこまで固執する相手なら尚更だ」


そういってゲームマスターは踵を返し、モニタールームから出て行った。


「絶対に、生きて返してあげるからね………」


モニターに映っているカナの寝顔を見て微笑みながら緋百合は、そう呟くのだった。












感想待ってま〜す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ