PKギルド
【限界突破】の反動で動けなくなった三日後。俺とエミリア、それからカヤは始めの街の東側に出来た、戦士五人、剣士二人、回復魔術師三人、付加魔術師二人、盗賊三人で構成されたギルド【イーストウッド】のギルドホームにやってきていた。
俺たち【死神の気まぐれ】だけでなく、新たに出来た、剣士二人、戦士二人、魔術師三人、盗賊一人、回復魔術師三人、付加魔術師二人で構成された【ノースウェル】
盗賊四人と回復魔術師三人で構成された【野をかける風】
三人の女性魔術師で構成された【スリーウィッチーズ】
剣士五人で構成された【黒騎士団】の四つのギルドのギルマス、ギルマス補佐、副ギルマスそれぞれ三人も集められていた。俺が把握している限り、この【Skill&Level ONLINE】の中で設立されたギルドは、ここに集まった六つのギルドに、PKギルド【悪魔の手引き】【蜜の溜まり場】の二つ。
今回集められたのは、女性だけで構成された【蜜の溜まり場】という最凶のPKギルドについて話し合うため、というのが目的だ。
「この度はお忙しいところ集まってもらい、誠にありがとうございます。さて、今回集まってもらったのは他でもありません。PKギルド【蜜の溜まり場】についてです。【蜜の溜まり場】の被害にあったプレイヤーの数が一桁を超えました。統計によりますと、このゲームにログインしたプレイヤーは、男性60000人、女性40000人とのことです。被害にあったーーもう、湾曲した言い方はやめましょう。殺されたプレイヤーは全て男性というなんとも情けない事実がわかりました」
丁寧な口調で話し始めたのは、【イーストウッド】のギルドマスターのミレッシェ。幼い顔立ちをしているが、実年齢は俺達とほぼ変わらないらしい。
「長ったらしいのはやめようぜ。そのPKギルドの情報を話してくれや」
再び口を開こうとしたミレッシェを遮ったのは、ノースウェルのギルドマスターのヴァファル。ヴァファルの問いに、ミレッシェは少し苦い顔をした。
「僕達も死力を尽くしたのですが、なかなか尻尾を現さず……」
「なるほど、情報をつかむ事は出来なかったと。それで、今分かっている情報はどのくらいあるんだ?」
腕を組んで顎に手を当てて言葉を発したのは、黒騎士団のギルドマスターのブラウス。
「 はい、全てが女性だけで構成されているというのと、構成人数が十五人だという事の二つです」
そこまで大きくない、のか?いや、その構成人数でPKした人数が十人を超すってことは、ある程度実力があると考えた方が良さそうだ。とすると、大体LV20後半くらいか。
(もしエミリア達が襲われた場合、どうなると思う?)
『そうだな。エミリアとカヤは問題なく対処出来るとは思うが、他のメンバーの場合は、ダメージを若干受けるが危なげなくってところか。まあどちらにしろ、大所帯でこられたら無事じゃすまねぇな。ま、PKギルドは大人数で行動するっつー先入観が根付いてるみたいだが、なんせ女だけのギルドだからな。まさかの単独行動ってのも十分考えられる。唯一言えることは、決めつけて行動するなってことだ』
(ありがとな、いろいろ考えてくれて)
『礼なんかいらねえよ。お前は俺、俺はお前だ。お前に降りかかる火の粉は、俺に降りかかるのと同じ。降りかかる火の粉は振り払うに決まってるだろ?』
こうして心の中で黒と話ができるようになってから、俺はかなり助けられている。主にあの悪夢の三日間の現実逃避に。
「それで、どうすんだい?【イーストウッド】のギルドマスターさんは」
【スリーウィッチーズ】のギルドマスターのウェリが、ミレッシェにそう尋ねた。
「そうですね、まずは皆さんに単独行動は控えてもらう、ということの一つ。そして、ここにいるギルドで同盟を組みたい、ということの二つです」
【カナさん、いえ、ギルドマスターはどう思われます?】
ミレッシェの話が終わるのとほぼ同時にフレンドチャットがエミリアから飛んできた。一応カヤにも届くように設定し、返す。
【俺はこの話を断ろうと思っている。理由は、戦力の強化をしたいからだ。そして何より、同盟を組むと俺たちの動きが制限される。そうなったら本末転倒だ】
【安全策が逆に枷になるもんね】
【やはりギルドマスターは聡明ですね。私も同じことを思っていました】
【それじゃ、断るぞ】
【【はい】】
「ミレッシェさん、だっけか」
「ミレッシェでいいですよ。カナさん」
フレンドチャットを終え、口を開く。
「それじゃお言葉に甘えて。ミレッシェもさんはなしでいい」
「それは無理ですね。プレイヤー最強を呼び捨てなんて出来ませんよ」
「そんなもんか。ま、それは置いて置くとして。俺達【死神の気まぐれ】は、その話を断らせてもらおう。無論、個人同士の同盟もだ」
俺の口からそんな言葉が出てくるとは思ってもいなかったらしく、皆が皆目を見開いている。
「勿論、【蜜の溜まり場】の駆除には協力する。穏やかならぬ問題だからな」
「理由を、聞いてもいいかい?」
「ああ。まず一つ、同盟なんかより、俺達は俺達の戦力の強化をしたいからだ。そしてもう一つ、俺達の動きが制限されること。とまあこの二つが、この話を断る理由だ」
理由を聞いた途端、ミレッシェの顔が複雑な表情へと変化する。ミレッシェはミレッシェなりに思うところがあるんだろう。
「最強ギルドと呼ばれていい気になっているんじゃないかい?アンタ」
「……つい四日前に死ぬ寸前まで来た人間が、他人の評価如きでいい気になるか?」
「死ぬ寸前って、トッププレイヤーのアンタがっ……「ウェリさん、でしたっけ。それ、私達のギルドマスターに対する侮辱ととっても、よろしいですか?」……っ」
立ち上がったウェリの言葉を遮り、エミリアが冷たい言葉を浴びせる。どうやらエミリアもカチンと来たようだ。そういう俺も黒も、かなりカチンと来た。
「トッププレイヤーだからそんな簡単には死なない。一番強いプレイヤーなんだから協力する。トッププレイヤーだから当たり前。そんな考え方は今すぐ捨てろよ?トッププレイヤーと呼ばれようが、俺も一プレイヤーだ。自分のこと、大切な人のことだけでいつも手一杯なんだよ。俺はお前らの奴隷か?LVが高ければ高いほど、より危険なことをして来てんだ。お前らの手助けあってここまで強くなったわけじゃない。俺一人でここまで強くなったんだ。俺が断ろうが受けようが、俺の勝手だろ?」
この言葉を聞いて何を思ったのか知らないが、ミレッシェ達は黙り込む。当のウェリはエミリアの言葉が相当応えたようで、少し顔を青白くしている。
「ああそうそう、今の一件で俺のことを恨もうがなにしようがそれはお前らの勝手だが、もし【死神の気まぐれ】に手ェ出してみろ。そんときは手ェ出した奴が所属するギルドごと潰してやるからな」
「ーーーーっ!」
【野をかける風】の女性一人は本当に手を出そうとしたらしく、顔を真っ青に染め、ガタガタと震え出した。
「それは兎も角だ。さっきも言ったように、駆除には協力する。あっと、聞き忘れたことがあった。ミレッシェ、一応確認をとっておくが【蜜の溜まり場】の奴らは殺してもいいんだよな」
「あ、ああ、それは構わないけど」
「それじゃ俺たちはこれで帰るが、いいか?」
カナの言葉を断れるプレイヤーはここには存在せず、全員が頷いた。




