その時のエミリア II
「はぁ、はぁ、はぁ。邪魔、しないでっ!『アイス・ランス』」
斬りかかるスケルトンを『アイス・ランス』で貫く。スケルトンはそのままポリゴン片となって砕け散った。
「まだ……諦めるわけには、いかないっ」
薙ぎ払っても薙ぎ払っても襲いかかってくる膨大な数のモンスター。薄暗く遥か先まで続く階段。またモンスターの発生源があるのではないか?この階段に終わりは無いのではないか?言いようの無い不安が湧き上がってくる。でも、この先に必ずカナさんはいる。理由はよくわからない。けど、なんだか嫌な予感がする。
ギリッと奥歯を噛み締める。
人形見たい。感情が無い。いつも無表情で不気味。なんていつも言われ続けて来た私らしく無い行動だということはわかってる。自分らしく無い。そんなことは私がよく知ってる。カナさんで無ければこんなに必死になることもなかっただろう。他の男性が目の前で死んでも別に構わない。というより、なにも思わない。でもカナさんが死ぬのは……嫌だ。カナさんの側にいるのは楽しい。一緒に同じ時間を過ごすと幸せな気持ちになる。この気持ちは、この感情がなにかは皆目検討もつかない。そんな気持ちで助けたい。なんて、中途半端かもしれないけれど、体がうごいてしまうのは仕方が無い。
「見えたっ!」
一気に階段を駆け下り、薄暗い階段を抜ける。そこは、大きな洞窟の中に緑の柱状の水晶が鍾乳洞のように連なっていて、その中央にはエメラルドグリーンの湖が湧き出ていた。
「カナ、さん?」
【獣化】したカナさんが四つ足の何かの上半身を消し飛ばし、着地した。もともと黒かった毛色がさらに黒くなり、大きくなっていた。【獣化】が切れたのか元のカナさんに戻り
、地面に倒れた。
「カナさん!」
慌てて駆け寄って抱き起こす。そして、そこで異変に気づいた。カナさんのHPが、1しか無かった。あと少し、あと少し遅かったらカナさんはいなくなっていたかもしれない。そして、カナさんがこんな目にあったのは、私のせい。そう考えたら、涙が零れ落ちて来た。でも、よかった。間に合ってよかった。
「エミ……リア」
普段では考えられないほど弱々しい声でカナさんが私の名前を呼ぶ。不謹慎だけど、それだけで心臓が跳ねた。
「カナさん!よかった。本当によかった」
カナさんが起きたことに安堵し、再び涙が零れ落ちて来た。
意識を取り戻したカナさんは、今までの経緯を話し始めた。その時には私も落ち着いていた。
「なんというか、いろいろとぶっ飛んでいますね」
「ああ、我ながら、ユニークスキルと種族変化をするなんて思ってもなかった」
本当にぶっ飛んでますよ、カナさん。こんなプレイヤーがいるんじゃ、運営も大変でしょうし。
「とにかく、無事で、よかったです」
カナさんが無事だったことに安心して、カナさんの体をぎゅっと抱き締めた。
「いっだだだだ!エミリア!痛い!ちょっ、離してくれ!」
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
抱き締めた瞬間、カナさんが大声を上げて悶えた。
「エミリア。新しいスキルの副作用みたいなもので、俺、丸三日動けないんだわ。たはは」
あっけらかんと深刻なことを言うカナさんに、私は呆れた。それじゃあこれからどうするのだろう。身の回りのこととか…………。
待って?丸三日動けないと言うことは、カナさんはなにされてもされるがまま。
「あの、えっと、エミリアさん?なにを企んでいらっしゃいますか?」
「ふ、ふふふ。別に、動けないカナさんの毛をもふもふしたりくんかくんかしたり、看病という口実に私の部屋へ連れて行こうとなんて、考えていませんよ?」
本当は考えているけど。まず始めにどうしようかな。 まずはギルドにかえらなければいけないから、カナさんを連れていかないと。右手を背中に回し、左手を膝裏に当てる。そして、抱き上げる。レベルが上がり、STRが上がっていたようで、かなり楽に抱き上げることが出来た。
「ふふっ、やっぱりカナさん、もふもふしてますね」
温かくて、手触りがいい。βテストの【ウルフ】はこんなにもふもふしてなかったけど。
「さて、行きましょうか」
「ああ、もう、勝手にしてくれ」
「はい♪」
自棄になったカナさんを抱き上げたまま、階段を上る。襲いかかるモンスターを蹴散らしながら帰路を急いだ。




