閑話 その時のエミリア I
落ちて行った。なんの比喩でもなく、カナさんが崩れた壁と一緒に落ちて行った。底が見えない大穴に。崩れたはずの壁はすぐに修復し、追いかけることも出来ない。膝からくずおれ、涙が零れ落ちる。
「私のっ、私のせいでっ」
私がスイッチを押したから。私がスイッチに気づけていなかったから。作動した罠を避けることが出来なかったから、カナさんが私の代わりに、落ちて行ってしまった。カナさんはこの世界の中で一番LVが高い。LVだけではなく、それを差し引いても一番強い。だから、そう簡単に死ぬはずがない。だけど、余計な危険にさらしてしまった。後悔と自己嫌悪に呑まれそうになる。
「え?」
が、呑まれる時間など、与えてくれるはずがなかった。突然、遠くの壁が崩れ落ち、数えるのが億劫になるほどのモンスター達が通路になだれ込んで来た。
『エミ、リアッ、俺の後ろの壁が崩れたら、俺はそのまま落ちていくと思う。多分、そのあと、エミリアのところに、モンスターがかなり向かって来る。気をつけろッ』
カナさんが私に伝えた言葉が脳裏を過った。
こんなところで自責の念にかられている場合じゃない。早く片付けて、カナさんのところに向かわないと。いくら高度な罠といっても、罠には必ず終わりがある。二手に別れてしまったのなら、何処かで必ず合流する。泣くのは、カナさんと会ってから!
「邪魔!『アイス・ウォール』」
軽く百を超えるモンスターを一体一体相手をするなんて出来ない。だから、まとめて叩く。そのために、通路を塞いだ。
「『アイス・クラッシュ』」
『アイス・ウォール』で作り出した氷の壁に手のひらを当て、『アイス・クラッシュ』を唱える。砕けた氷は、スケルトンの頭、クリティカルポイントや、マシンナーを破壊し、巻き込みながら飛び散った。
不遇魔法と言われている『アイス・クラッシュ』。なにか使い道がないか模索した結果、あることがわかった。それは、魔法で作り出した氷を『アイス・クラッシュ』で砕けるということ。そして、砕く時にある方向性を与えることで、その方向に氷が飛んで行くこと。次に、モンスターの一部を凍らせて砕いた場合はすぐに消滅するけれど、魔法で作り出した氷を砕いた場合は、一定時間形を維持し続けるということの三つがわかった。
つまりは、氷の壁を砕いた後でも敵の足止めになるということ。
「『アイシクル・ブルーム』」
手に小さな氷の種を作り出し、砕けた氷に足を取られているスケルトンに投げる。投げた種は、スケルトンに当たる前に開き、無数の半透明な蔦をスケルトンに絡みつかせる。パキパキと凍りつきながら、絡みついた蔦により、スケルトンのHPが吸い取られ、吸い取ったHPを種が吸収し、花を咲かせる。一層太くなった蔦を他のモンスターに同じように絡みつかせ、どんどん大きくなって行く。木の根のように周りのモンスターからHPを吸収して大きくなる。それを何度も繰り返す。
やがては通路を埋め尽くし、砕けて消え去った。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
一応通路のモンスター達は倒し終えた。けど、まだ終わりじゃない。ポーチからカナさん特製の中級MPポーションを取り出して、飲む。
「【ダッシュ】」
【ダッシュ】で崩れて横穴が空いた壁に近づく。
「邪魔っ!」
横穴から飛び出して来たスケルトンのクリティカルポイントを杖で殴り飛ばす。スケルトンはポリゴン片となって砕け散った。
「見つけた」
横穴の中央には、緑色に光る球体が浮いて居た。はじめから疑問に思っていた。あれだけのモンスター達は何処からPOPしたか。自然にPOPするとしても、あれだけのモンスター達はPOPしない。ならば、なにか発生源のようなものがあるのではないか、そう睨んだ。案の定それらしきものが横穴の中にはあった。
「『アイス・ニードル』『アイス・アロー』」
二つの氷魔法で発生源を破壊する。
発生源を破壊したことにより、モンスターは生み出されなくなった。
「やっ……た」
張り詰めて居たものが一気に緩み、その場にへたり込む。危なかった。本当に。でも、これでカナさんと合流出来る。
「っ!」
背後でなにかが動く気配がして飛び起きる。
「かい、だん?」
壁が崩れ、ずっと下へ続く階段が現れていた。階段から、カラカラと骨が当たる音が聞こえてくる。
まさか、またモンスター達と?
既に私は満身創痍。殆どさっきと同等の数のモンスター達と戦う気力などない。だけど。
「そんなことは、行ってられない」
階段を、一段一段降りて行った。
アイス・クラッシュ
【凍結】したものしか砕けない。
→凍結していればなんでもいいのではないか?
→そういえば氷も水が凍結したもの。
→じゃあ、やってみよう。
→というわけで実行に移す。
→見事成功。
という流れですね。システム的抜け穴、というところでしょうか。




