捨て身の決着
あれから俺達とエルドランドは、ずっと睨み合っていた。円を書くように、ゆっくりと移動し、距離を取り合い、隙を狙い合う。その態勢がずっと続き、三十分が経とうとしていた。正直に言って、この状況は俺達に不利だ。人の集中力が続く時間はおよそ15分。その二倍の時間がたっている今、いつ集中力が切れてもおかしくない。しかし、相手は曲がりなりにも龍。集中力は一時間も二時間も続くだろう。
「グラァッ!」
「ふっ……らぁっ!」
均衡を破ったのはエルドランドだった。前脚を振り上げ、俺に振り下ろす。【大太刀:血吸いの禍太刀】を、下段から前脚に向かって切り上げる。あたりに暴風と衝撃波を撒き散らし、エルドランドの前脚と、【大太刀:血吸いの禍太刀】がぶつかり合う。ぐっ、スキルなしでこれだけ強えのは反則だろうが!
「グォォォ」
「ぬぁっ!」
互いに弾かれ合い、エルドランドと俺は大きく体制を崩す。直ぐに納刀し、体制を正す。
「雪月!」
「ゴーーー!」
雪月に俺の意思が伝わったようで、豪腕を唸らし、エルドランドに叩き込む。HPを二割削り、エルドランドの巨体を宙に浮かせる。
「【抜刀術・飛燕】!」
【抜刀術・飛燕】を、ガラ空きになっているエルドランドの喉元に叩き込む。そしてまた、下段に構える。俺のほおを、一筋の汗が伝う。その事実が、否応無く俺に、この戦いは現実のものだということを突きつける。
「グォォォッ」
「ふぅぅぅぅぅ」
エルドランドは、血走った目で俺を睨み、俺は異様に熱い吐息を吐き出す。なんだか、途轍もなく嫌な予感がする。それこそ、迫り来る死の予感のような。
『よくぞ我をここまで追い込んだ。カナよ。知っているだろうが、我はエルドランド。遥か昔に緑龍を統べた者だ』
「昔?今は違うのか?」
エルドランドは、口角をあげ、翼をたたむ。死の予感、か。的を得てんじゃねえか。
『息子に叩き落とされてから、王は息子に変わった。それから、我はここにいる』
なるほど、下克上ってやつか。ってか、引き摺り下ろされたこいつがこんなに強えなら、息子とやらはどんだけ強いんだよ。まさか、そいつもここにいるとか………いや、まさかな。ははは。いない……よな?
「エルドランド、息子は、どこにいるんだ?」
『わからん』
いやわからねえのかよ!?いる可能性もあるってことじゃねえか!頼むよエルドランドさん!
『さて、久しく見ぬ強き者よ。楽しいお喋りはここまでだ。クールタイム、とやらをこの場だけ消させてもらった。お前の全力を、見せてもらおう』
っ!空気が変わった。肌に絡みつく濃密な殺気がエルドランドから放たれる。クールタイム無効?嬉しいことをしてくれるじゃねえか。【大太刀:血吸いの禍太刀】を納刀し、居合の構えを取る。
『ふふふ。強き者と共に逝くのもまた一興』
「悪りぃが、お前とは死ねねえ。俺にはまだ、守りたいものがある」
『我の全力を、受け取れ!【災禍の鉤爪】!!!』
ドス黒く染まった両の腕を振り上げる。エルドランドのHPが減り、1になった。そうかよ、これはそういう技かよ。面白え!
「受けてたとうじゃねえか!【抜刀術奥義・宵闇を照らす一閃】!アァァァァァッ!」
『グォォォォォォォォッ!』
俺が【大太刀:血吸いの禍太刀】を抜き放つのと、エルドランドが腕を振り下ろすのが、重なった。
光の斬撃と、闇の爪がぶつかり合い、光と闇があたりを包み込む。だか、一瞬の拮抗の後、光の斬撃が霧散した。
『ふははははっ!終わりだカナ!』
ああ、わかってたさ。どうせ勝てないってことくらい。だから、この勝負は譲ってやるよ。だけどな、勝ちは譲らねえ。
きっかけはほんの偶然だった。【戦闘狂】と【狂い笑う黒狼】を、偶然順番に取得出来たことだった。その後、ある称号を取得した。
【????】という、効果が?の称号を。
そして今、その称号の条件を満たした。種族が【ウルフ】であり、相手に明確な殺意を抱くこと。という条件を、今。
『全ての条件を満たしました。種族を、【ウルフ】からユニーク種族【獄死狼】へ進化します。ユニークスキル【全てを喰らう一撃】を取得しました。ユニークスキル【限界突破】を取得しました』
そう無機質な声が頭の中に流れる。毛色がさらに黒くなり、体が一回りも二回りもでかくなる。【全てを喰らう一撃】は、【災禍の鉤爪】と同じく、HPを1残し、それ以外の全てのHPを捧げて使用するスキル。まさに捨て身のスキルだ。
だが、これだけやってもまだ、エルドランドには敵わないだろう。
「【限界突破】」
だから、新たに取得したスキルを使うことにした。【限界突破】というスキルは、短時間だけ、ステータスを含めた全てを格段にあげるという効果を持ったスキル。使用した後は、三日間丸々動くことが出来なくなるが。
「誰が終わりだっつたぁ!!!俺はただじゃ死なねえよ!!【全てを喰らう一撃】!!」
地を思いっきり蹴り、自ら【災禍の鉤爪】に突っ込む。そして、右腕を突き出す。突き出した右腕は、両腕を消し飛ばし、エルドランドの上半身を消し飛ばした。




