【妖精の気まぐれ】との対談 II
「エミリアから聞いてると思うけど、【妖精の気まぐれ】はたちあげないことにした。理由は、この世界から早く出たいから」
そうだな、誰だってそうだ。だが、俺と組むことで、早くこの世界を出れるのか?確かに俺は強い。たけど、それは本当の強さじゃない。俺は本当は弱い。
「それで、にぃに。一つ提案があるの。私達と、協力しない?」
「俺が立ち上げるギルドと、【妖精の気まぐれ】を統合させるっていうことだよな?」
俺の問いに、カヤが頷く。
「まだこんなこと言うのは早えって思うんだが、統合させたギルドマスターは、誰にするんだ?」
「それは勿論カナさんに決まっているじゃないですか」
俺の後ろにいるエミリアがそう答える。
「それでいいのか?お前ら【妖精の気まぐれ】は、カヤをギルドマスターとしてやってきたんだ。何ヶ月もの間。それを、ただ強いからっつー理由だけで俺がギルドマスターになっていいのか?カヤとエミリア以外の奴らは納得するのか?俺とカヤは義兄妹だ。義兄妹だから全く同じっていうことじゃないんだぜ?頭が変わるんだ、やり方が変わって当然。それもすこしじゃないだろう。かなり変わる。それでお前らは納得するのか?できるのか?今まで通りやっていけるのか?」
返って来たのは沈黙だった。カヤとエミリアは納得するだろう。なにせ俺を直ぐ近くで見て、一緒に戦ったんだ。これはあまり自分でいいたくないんだが、この提案は、恐らく俺の人となりを見ての提案だろう。人となりを見て、任せられると判断したんだろうが、残りの10人は違う。明らかに初対面だ。初めて顔出した奴が、いきなりギルドマスターになりました。なんて、納得できるはずがない。ギルドは塊だ。集だ。その塊は、以外に脆い。一人納得していないだけで、今まで通りやっていけてないだけで、塊の一部が綻び、直ぐにバラバラになる。それがギルドだ。
「にぃに。別に納得なんて…「カヤ。それをお前が本気で言ってるのなら、俺は本気でお前を軽蔑する」………」
「大体、なぜそこまで俺に固執するんだ?カヤ。同盟でいいだろう」
俺の問いに、カヤは俯く。エミリアはわからないが、他の10人の表情には、いろいろな感情が湧いては消えている。動揺、焦り、疑問、怒り、恨み。
「同盟じゃ、嫌。元の世界で、にぃにといる時間はあまりなかった。無いと言ってもいい。にぃには、私達のところへ来てから、いつもそうだった。何処か壁を作って、人を寄せ付けないようにしてた」
俯きながら、こぼすように、カヤが呟く。
ーーー俺は孤児だった。ものごころついてすぐ親に捨てられ、親戚に引き取られたが、あまり歓迎されなかった。それはそうだろう。自分達の平穏を、日常を犯そうとする異端は、迎えいられるはずなどない。親戚からも、すぐに捨てられた。近所からは、「かわいそう」など、哀れみの目で見られたが、引き取ろうとする奴らはいなかった。
俺は、お金を稼ぐために働いた。なんでもいい。安くていい。誰もしないような仕事をし、生活費、そして入浴代などを稼いだ。それでもギリギリだ。体がガタガタになるまで働いても、一日の食費と、入浴代を稼ぐのがやっとだった。
恨めしかった。なにも知らず、のうのうと生きている奴らが。なぜ自分だけこんなに違うのだろう。なぜこんなに死に物狂いにならなければならないのだろう。自分はただ、普通にいきたいだけなのに。俺は別に贅沢は言っていない。ただ、普通に生きたいだけなのだ。それは誰にでも許されることだ。しかし、俺は許されることはなかった。
五歳になった俺は、感情など抜け落ちていた。体だけは清潔に保ったが、どうも内面はそうはいかないらしい。どろどろに濁った瞳。底無し沼を見ているようだと、いつも言われた。自殺しようと何度も思った。だが、なぜだか自殺してしまうと、自分が境遇に負けてしまうような気がして、自殺はしなかった。ある日、いつものスーバーで一日の食料を買い、その帰り道。一人の大人に声をかけられた。不思議な大人だった。周りの大人は、俺を君悪がって避けていた。しかし、この大人は、俺のどろどろに濁った目を見て話しかけた。
「ねえ君、僕たちの家に、養子にこない?」
金澤隆はそういった。実は、いつも俺の姿を見ていたらしい。ぶっ倒れるまで働き、ふらふらになって食料を買う。ふらふらのまま、ぶっ倒れて眠り、ふらふらのまま、働く。そんな俺の姿を見続け、引き取ることを決めたらしい。俺は渋ったが、最後は押し切られる形で了承した。俺はそのまま連れていかれ、金澤隆の妻、金澤胡桃と顔を合わせた。俺は出来るだけ自然に微笑んだが、俺の微笑みを見た胡桃の頬が引き攣っていた。この家族は、もう一人娘がいるらしく、三人で暮らしているらしい。なのに、料理が出来ないという。俺は今まで一人で暮らしていたため、代わりに料理をすることにした。日常を犯す異端は、捨てられる。それは俺の心から抜けることはなかった。
出来るだけ、日常を犯さないように気をつけた。朝昼晩のご飯を作り、自分は部屋で食べる。風呂も最後に入り、洗う。小学校に上がってもそれは変わらなかった。実際、ご飯は自動で出て来て、後片付けが終わり、風呂が洗われる。これしか変わったところがないようだった。
金澤香久夜とばったり出くわしたのは、俺が中学一年になってからだった。突然のことで俺と香久夜は固まり、それを二人に見られ、家族会議が行われた。
もう、一緒に暮らさないか?俺はそう言われた。家族なんだからとも。俺は、家族という言葉がわからなかった。俺は家族じゃない。異端だ。そう話したら、隆と胡桃は涙を流した。まずったと思った。日常に波紋を立てないつもりが、思いっきり波を立ててしまった。その日から俺は、一緒にご飯を食べ、団欒、という時間を家族と過ごすことにした。
だが、俺は後悔した。てっきり、妹は今まで一度も顔すら見せたことがない俺を、軽蔑するかと思っていたのだ。だがしかし、妹が起こした行動は違った。むしろ逆だ。今まであったことのない分、その時間を取り戻そうとしたのだ。俺にくっついて甘えて来た。あまつさえ、風呂まで入ってきた。寝る時だって俺の部屋で、俺を抱いて寝る始末だ。普通の親なら、引き剥がすなり注意すると思うのだが、あの二人は違った。むしろ健気な娘を見て、涙を流していた。
いや、感動するとこそこじゃないだろっ!
俺は初めて突っ込んだ。
だんだんと、家族というやつになっていっているような気がした。
だが、俺が周囲に作る壁は、消えることがなかった。
皮肉なことに、ログアウト不可能という自体に陥っても、壁は消えないらしい。
「なんでそんなに拒否するのかわからないけど、カナさんの言い分には納得だね。だからさ、ボクと、勝負しない?プレイヤー最強の実力がどんなものか、確かめたいし。それに、ボク達を率いるリーダーとしてふさわしいかどうか、この目で見極めたい」
【武闘家】、リナが俺の目を見て言った。
このギルドは、しっかりしたやつが多いらしい。
「カヤ。それでいいか?俺は一行に構わないが」
「うん。いいよ」
「それでは、広い場所まで案内しますよ?」
エミリアがそういい、俺とリナは、あとに続いた。