鍛治師エリゼ
「相変わらず、ここは暗いな」
俺は今、『黒の森』に来ている。ポータルで始めの街に飛ぼうと思っていたのだが、歩くのも悪くないなと思い、こうして歩いている。LV差をわかっているのか、一行にモンスターが俺の前に立ち塞がることはない。ふむ。まさに獣の本能だ。無駄に凝ってるな。
「ほう?ここにもついにプレイヤーが?」
プレイヤーはプレイヤーだが、なんか普通とは違うな。女の子を囲ってんのか、男三人で。そういうことね。
「いやっ!触らないでください!」
「へっへっへ。叫んだって助けは来ないぜ?」
「なに、直ぐに気持ち良くなるさ」
「ゲームマスターに感謝感謝だな!」
…………胸糞悪りぃ。こういう奴等が出るとは思ってたが、まさかこんなに早く出るとはな。いや、良く今まで出て来なかった、というとこか。リーダーみたいな男のLVは16。あとの二人は14ね。女の子の方は、13。みたところ戦闘職ではない。ということは生産職か。生産職とわかっていながら襲ってるのか、男三人は。
「どちらにしろ、こういう奴等は生きてる価値などない。【風斬刃】」
『太刀:蒼色の舞う桜』の試し切りという意も含め、【風斬刃】をリーダーに放つ。狙うは首。一発で仕留める。
「はっ?」
「え?」
戸惑う男二人。リーダーは首を飛ばされ、ポリゴン片となって砕け散った。
「こんな昼間から盛るな。猿かお前らは。【震踏】」
「ぐげぇっ」
地を蹴って男の一人に肉迫し、【震踏】で男の腹を蹴る。カエルが潰れたような声を発し
、膝を着く。そのままポリゴン片として砕け散った。
「ひ、ひいっ!」
「逃がさねぇよ。【鎧通し】」
背を向けた男の背中に、【鎧通し】を放つ。ボキボキッという音と共に、背骨の折れる感触が伝わり、男がポリゴン片となって砕け散った。
「さて、無事か?」
「はひっ!ぶ、無事です」
乱れていた服を正し、立ち上がるまでおよそ四秒。なかなか早いな。
まあ、そんなことは置いといて。
「そうか、それならよかった。俺はカナ。名前は?」
「エリゼといいます!年は13歳。種族は【ホビット】で、第一職業は【鍛治師】。第二職業は【鉱夫】です!」
【鉱夫】て、ネタじゃなかったのか?たしか、鉱石を採取する時に補正がついて、良し悪しがわかる、そして、鉱石を使う武器や防具を作るときに品質が上がる、とかだったか?【ホビット】は確か、STR、VIT、HPが低い代わりに、DEX(ここでは器用さ)がかなり高くなっているはずだ。【ドワーフ】といい【ホビット】といい。身長や体型が違うな。あまり現実との差がありすぎると、体に負担がかかるから、誤差の範囲で済ませてあるのか?
「あ、あの、気付いていますか?貴方は人を、殺したんですよ?」
考え事をしていた俺に、エリゼがおずおずと言う。プレイヤーを殺す、PK(プレイヤーキルしたプレイヤーをプレイヤーキラーと呼ぶ)には、頭の上に黄色いマーカーがつくようになっている。五人殺すと赤いマーカーがつく。犯罪を犯しても黄色いマーカーがつく。だいたい三日おとなしくしていれば消えるため、ソロプレイヤーである俺には関係のない話だ。
「そうだな。それが?」
「それがって、他に何かあるんじゃないですか?こう、罪悪感とか」
どうやら俺の態度はさばさばし過ぎたらしい。といっても
「それが普通のプレイヤーだったらな。たが、今回は相手の頭上に赤いマーカーがついていた。つまりは人を五人以上殺してるんだ。そんな奴等を殺して、何で罪悪感なんか覚えなきゃいけないんだ?そもそも、相手を殺すんだったら、自分が殺される覚悟はしておくべきだ。自分が一方的に人を殺せる権利などどこにもないんだから」
「…………でも………」
「別に俺の考えを押し付けるつもりはないぞ?ただ、俺はそういう人間だって理解して欲しいだけだ」
いちいち説明するのもめんどくさいからな。
「わかりました。あと、気になってたことなんですが、カナさんって、トッププレイヤーのあのカナさんですか!?」
「どのカナかわからないが、多分、合ってる」
「はわ〜。まさかこんなところでカナさんに出会えるとは。光栄です」
年は俺とあまり変わらないか。それにしては子供っぽいな。俺が達観しすぎな気もしなくわないが。現にいつも達観しすぎと言われてるしな。
「それで?純生産職のエリゼが、この適性レベル15のところへ何の用だ?」
「えっと、鉱石を、取ろうかと思って」
なるほど。ようは自分のレベルでは鉱石を採取できる場所まで辿り着けないから、始めの街の中でレベルの高いプレイヤーとパーティを組み、ここに来て、そして襲われたと。
「なんというか、まぁ、頑張れ」
「酷いです。全部わかってるのにそんなことを言うなんて」
そんなこと言われたってな。もし犯されても自業自得しかいいようがないぞ。こんな危険な時に、人を不用心に信用しすぎるからこうなるんだ。
「まあいいか。それより、俺とパーティ組まないか?良ければ俺が採取場所まで連れて行くが」
「まあいいって酷い!いいんですか!?ありがとうございます」
…………感情の起伏が激しいな。
「んじゃ、ついて来てくれ」
パーティを組み、鉱石が取れそうなところへ案内する。場所は、ボス部屋がある崖しただ。
着いた早々エリゼは、バックからツルハシを取り出し、「すごいです!いい鉱石がいっぱいあります!」と叫びながら鉱石を採取する。ツルハシって武器として使えるんだよな、そういえば。あの尖った先端で刺されたらさぞかしいたいんだろうな。穴が軽くあくぜ。
「ふぁ〜。満足満足」
一時間ほど採取していただろうか。かなりの量の鉱石を採取したエリゼが俺の元へ歩いて来た。LVは15に上がっている。どうやら戦闘以外でもレベルは上がるようだ。効率は悪そうだが。
始めの街まで連れて行き、フレンド登録をする。
「今回はありがとうございました!なにか用があったら言ってください!いつでもうけたまわります!」
そう言ってエリゼは、宿の中へと入って行った。
「いい鍛治師を手にいれたな」
歩いて正解だった。さて、掲示板で勧告でも出しとくか。
次回は丸ごと掲示板編です