大事な話
楽しい時間は早くすぎるもので、ホルンとのデートはもうすでに夕方になっていた。
俺とホルンは空を見上げ、顔を見合わせる。
「もう、こんな時間」
さっきまであんなに楽しそうだったホルンは、顔を陰らせてそういった。どうしたんだ?確かにもう夕方だし、デートは打ち切らなきゃいけないだろうが、また出来るだろうに。
「カナさん。少し、お話があります」
「なんだ?」
俺はそう問い返すが、ホルンは黙って踵を返して歩き始めた。街を歩き始め、ポータルを通り、やがて街の門を過ぎフィールドへ出る。それでも、ホルンは歩みを止めることはない。
「お、おい!」
この辺はノンアクティブモンスターしかいないとはいえ、何があるかわからない。そんな俺の忠告を無視して森へと入っていった。
「あー!もう!どうとでもなれ!」
半ば自棄になりながらも、ホルンの後についていく。
「カナ、さん」
森のある一角。蛍が飛び回り、湖の水面に反射して、幻想的な光景の場所でホルンはとまった。そして、ゆっくりとこちらを振り返る。
「どうした?」
振り返ったその顔は、目からは大粒の涙が零れおち、儚げな笑みを浮かべていた。
思わず、俺はたじろぐ。
怯えられて涙を浮かべられたことはあったが、ホルンの本気の涙を見たことはなかったからだ。
「これで、最後にしようと思ってました」
たじろぐ俺から視線を湖に移し、ポツポツと話し始める。
「私は、カナさん。貴方のことが、好きです」
「ぇ」
たどたどしくも突然の告白に、喉から掠れた声がもれた。好き?ホルンが、俺を?
「でも、私が、その気持ちに自分で気付いた時には、カナさんはエミリアさんと付き合っていました」
戸惑う俺に困ったように笑いながら、言葉を続ける。
「カナさんはエミリアさんと付き合った。だから、この想いは、諦めなきゃ、いけない。そう思い続けて毎日を過ごしてきました。でも、そう簡単に諦められるほど簡単じゃなくなっていきました」
そう、だったのか。俺を怖がっていたホルンが最近えらく積極的だなとは思っていたが、そんな理由があったのか。
「毎日毎日カナさんに会うたびに胸が締め付けられて、辛かったです。好きで好きで辛かったです。だんだんと気持ちが落ち込んでいたところに、私の変化に気付いたエミリアさんがこう言ってくれました。「無理に諦めなくてもいい」と。そう、言ってくれたんです」
エミリアはそんなことを言ったのか。やっぱりエミリアは凄いな。俺はホルンのそんな様子なんて気づきもしなかった。
「おかげで、決心が付きました。このデートで最後にしよう。そういう決心が、ついたはずでした。でもっ、実際は、カナさんへの想いは強まっただけでしたっ」
それは、悲痛の叫びだった。その声から、自分の中でどんなに葛藤したのかがうかがえる。そんな声だった。
「この想いは口にしちゃいけない。それはわかっています。ですが、聞いてください。私は、遠坂奏は、カナさんのことが大好きです!」
ホルンは自分の現実世界の名前を明かし、俺へ告白した。自分の名前を明かすほど、俺のことがそんなに好きなのか?そう、なのか。
「ホルン、ごめん。ホルンの気持ちは正直にいってかなり嬉しい。だけど、俺にはエミリアがいる。だから、ホルンの気持ちには答えられない」
「わかっていました。振ってくれて、ありがとうございます」
目を瞑り、ビンタに耐える。しかし、来るべきはずの衝撃と痛みはいつまでも来ることはなかった。
代わりに、優しい声が辺りに響いた。
「これで、やっと諦めが付きます。もう夜も遅いですね。私は先に帰ってますが、カナさんはどうするんですか?」
「あ、ああ。まだここにいるよ」
「そうですか。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ホルンは、どこか清々しい気分で、森から去っていった。




