穏やかな日
やっとの思いでお風呂から抜け出して来た俺は、部屋の中でぐったりと寛いでいた。た、助かった。あそこでエミリアが離してくれなかったらどうなっていたことやら。それはともかく、エミリアはどうしたんだ?今まではあんなことしなかったのに。まあ、いいか。
考え事をやめ、目を閉じる。ちょうどよく眠気が来たところで、ノックの音が聞こえた。
「わ、私ですっ」
「そのたどたどしい口調は、ホルンか。いいぞ。入ってくれ」
俺の返答を聞き、恐る恐る中へ入ってくる。そういえば、変わったといえばホルンも変わったな。はじめは俺に怯えていたんだが。いや、それはただ単に慣れただけか。
「それで?こんな夜遅くにどうしたんだ?女の子が出歩く時間じゃないし、感心しないな」
「す、すみませ……あ、ありがとうございます」
叱っているようなたしなめているような言葉にホルンは謝りかけるが、遠回しに心配されていると気づいて顔を赤くし俯いた。
「あ、あのあのっ、こ、これをっ」
帽子を目深めにかぶりながらいくつかのポーションを差し出してくる。
「もしかしてこれって」
「は、はい。疲労回復剤です」
おお!いつぞやのポーションか!
あれは助かったな。次の日驚くほどに自分の体が軽かったからなぁ。
「これは明日の攻略に使えばいいのか?」
「はい。皆疲れているようだったので」
「ははっ」
はっきりとした口調でホルンが皆のことを心配する。
やばい。ホルンがめちゃくちゃ可愛い。へぇ、ホルンってこんなに可愛い子だったんだな。知らなかった。
「ありがとな。助かるよ」
「い、いえっ!そ、それだけですのでおやすみなさい!」
精一杯の笑顔と共に労いの言葉を掛ける。ホルンは顔を真っ赤にして勢い良く部屋から出て行った。
「純真だねぇ」
俺の笑顔で顔を赤くするやつなんてホルンくらいじゃないか?
「笑顔か」
俺もここに来てから笑うことが多くなったな。エミリアの言うとおり、馴染んできているんだろう。
「それがいいことか悪いことか、わからないけどな」
笑うことが多くなったのは恐らくいいことのはず。だが、馴染むのは恐らく悪いことだ。
つっても、馴染むなと言われても無理だろうが。
「大事なのは本当の自分を見失わない程度に馴染むこと、か」
馴染み過ぎて現実の自分を忘れてしまったらもう現実には戻れない。
そのことを頭に刻んでおかないと、いずれ区別がつかなくなる。肝に銘じよう。
「さてと。寝るかな」
ちょうどよく眠気が来たし、寝よう。そう決めて電気を消し、ベッドの上で目を閉じた。




