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第一章【旅立ち】  第8話「目覚めし力」

“地下室になら何かあるかもしれない”―――そんな希望を持って、ルイは地下室へと足を進めていた。ここにならば、村の不用品や昔使われていた“何か”がまだ保存されている可能性がある。それがあれば、微力ながら村人達の力になれるはずなのだ。


「とりあえず……。」


 ルイは地下室にある扉を、片っ端から開けていった。この地下室には、20あまりの扉がある。ルイはレアの部屋に通じる扉しか開いたことが無かったため、一つ一つの扉を開いて中を確認する必要があった。


「くそ……。何もないな……。」


 もうかれこれ10個の扉を開けているが、中には役に立ちそうなものは何も残されていなかった。だが、生活用品などはいくつか発見することが出来た。これならば、どこかの扉に武器も残されている可能性もある。


「お兄ちゃん……。」


 後ろから響いた、ナオの心配そうな声がルイの耳に届く。

 ルイが振り向くと、そこには不安げな表情を浮かべながら立っているナオの姿があった。微かだが、体は震え、目には涙が溜まっている。それはそうだろう。こんなにも幼い少女が、世にもおぞましい体験をしているのだから。

 レアを守ることはもちろんとして、大切なナオを守るためにも、ここで何かを発見しなければならない。


「大丈夫だよ、ナオ。僕が守るから。」


 ルイは自分に出来る精一杯のたくましい顔をして、ナオに言った。


「でも……私を守ったら、お兄ちゃんも傷ついちゃう……。」


「僕はどうなったって良いんだ。ナオが守れれば……。」

「そんなのイヤ!!」


 突然、今まで泣きそうだったはずのナオが、声を荒げた。その迫力に、ルイも若干の驚きを隠せない。それほどまでに、ナオの声は力強いものだった。


「ナオ……。」


「お兄ちゃんはそれで良くても……私はイヤなの!お兄ちゃんが危険な目に遭うなんて、絶対にイヤ……!」


 ナオの声の震えは、より確実なものとなっていた。いつもは元気で明るく、決して涙を見せないナオ。そんなナオが、ここまで声を震わせている所を、ルイは今までに見たことが無かった。


「どうして……!せっかくレアとお友達になれたのに……!お兄ちゃんと一緒にお世話できると思ったのに……!どうして……!」


 さらに声を震わせ、ナオは続けた。

 僕の大切な妹のナオ。いつも僕の世話をしてくれていたナオ。

 そんな大切なナオを泣かした連中が、ルイはやっぱり許せなかった。

 ナオが心配するのも分かる。だが、あいつらだけはこの村から追い出さなくてはならないのだ……!


「ナオ……。」


 震えるナオの体を、ルイはゆっくりと、しかし力強く抱き締めた。

ナオを抱き締め密着した事で、ナオがどれだけ怯えていたのかを実感する。


「大丈夫。僕は死なない。絶対にレアとナオを守って見せるから。」


 確たる決意を込めて、ルイは言った。どうしてか、そう言い切れた。

 ルイの断固たる決意を感じ取ったのか、ナオはそれ以上何も言わず、ただ小さな鳴き声を漏らすばかりだった。


「とりあえず、ナオはレアの部屋にいて……。」 


 泣き崩れるナオに肩を貸し、ルイはレアの部屋へと向かった。






「……!」


 レアの部屋に入ると、そこにはキラキラと瞳を輝かせたレアが待っていた。恐らく、今もルイ達が世話に来たと思っているのだろう。だが、ルイはレアに真実を告げねばならなかった。


「レア……残念だけど、今日は遊んであげられないんだ。」


「……?」


 ルイの言葉に、レアは不思議そうに首を傾げた。


「レアの命を狙ってる奴らが……この村に来た。」


 ルイは出来る限りの冷静を装って、そうレアに告げた。ルイの言葉を聞いたレアは、一瞬“ビクリ”と体を震わせる。


「でも、安心して。僕がレアを守るから。だから、レアはここに居て欲しい。」


 そう言って、ルイはレアの部屋を後にしようとする。が―――


 がしっ―――


「えっ……?」


 部屋を出ようとするルイの体を、レアがぎゅっと抱き締めていた。強く、そしてしっかりと、まるでルイを行かせんとばかりに。

見れば、レアの体も震えていた。恐らく、レアはこういった経験を何度も積んできたのではないだろうか。自分と友達になった者が、自分を守るためにアルナト狩りに挑み、そして散ってゆく。それはみんな自分のせいで。自分がいなければこんなことにはならなくて。だけど、いくら嘆いたところで現実は変わらなくて。

そんな憤りを、何度も経験してきたのではないだろうか。

故に、レアはルイを行かせたくない。アルナト狩りの元へと行ってしまえば、今までと同様、ルイも散ってしまう。レアは、それがイヤだった。


「ダメ……ルイ……ダメ……!」


 レアは何度も、そう繰り返していた。ただ永遠の命を持っているだけの非力な自分に出来ることは、これくらいしかないから―――


「レア……。」


 その真摯な思いは、確かにルイに伝わった。深く、そして厚く、ルイの心に刻み込まれた。

 だが、それでルイの決心が変わるわけではなかった。いや、むしろ、決心はより大きく、確かなものとなっていた。

 今の自分に出来ること―――大切な友達のレアと、大切な妹のナオを守ること。

 アルナト狩りに挑めば、ルイは死んでしまうかもしれない。だが、レアとナオが生き残れるかもしれない。

 ルイには、それだけで十分だった。


「ありがとう、レア。だけど僕は行くよ。レアを守るために。レアが一生懸命応援してくれるなら、僕は死なないから。」


 ルイは満面の笑みを浮かべ、レアに言った。

やがて、レアがルイを抱き締めていた力が弱まっていく。


「レア。ナオも。ここで待っていてくれ。きっと、僕は帰ってくるから。」


「お兄ちゃん……死なないで。」


「ルイ……死んじゃイヤ……!」


 ナオとレアの言葉が、想いが、ルイの心に染み込んでいく。

 その想いは確実に、ルイの力に、そして剣になる。


「ああ。」


 力強く頷くと、ルイはゆっくりとレアの部屋を後にした。








「ふぅ……。」


 道具探しを再開して、およそ3分が経過した。その間、ルイは3つの部屋を調べ終え、残る2つの扉の捜索を開始していた。

 だが、一つ心配な点がある。それは、ケレンの安否だった。地下室からでは当然地上の様子は確認できず、ケレンの様子も分からない。

 どうか、無事でいて欲しい―――ルイは、そう祈るしかなかった。


「ダメだ……ここにも無い。」


 残る二つの扉のうち、一つの扉には、残念ながら役に立ちそうなものは無かった。生活用品、何に使うのかもわからない水晶玉。そして、古びた杖。発見できたのは、おおよそ戦闘には使用できそうもない物ばかりだった。


「よし……!」


 気を取り直し、ルイは最後の扉の前へと立つ。この扉の先に何か役に立ちそうなものが無ければ、最悪素手で戦うしかない。だが、当然ルイは武道に長けているわけでもなく、とりわけ腕力が強いわけでもない。素手でやっても、勝ち目などあるはずはないのだ。


 ギィ……


ゆっくりと、半ば腐りかけた扉を開く。途端、中から大量の誇りが噴き出てきた。


「ん……?」


手に持っていたロウソクで部屋を照らすも、全体を照らすことは出来なかった。今まで回ってきた全ての部屋は、手に持っているロウソクだけで全体を照らすことが出来たのだから、つまりこの部屋は、今までのどの部屋よりも広く作られているということになる。


「仕方ないな……。」


 ロウソクの炎を、部屋の松明に灯していく。意外と簡単に火は灯り、同時に部屋の全体像が浮かび上がった。


「―――これは!?」


 浮かび上がってきたのは、今までとは全く違う構造の部屋。壁のいたる所に草のツタを思わせる紋章が描かれ、回りには豪華な装飾品も置かれている。最奥には、どこか神々しい巨大な像が建っていた。


「なんなんだ……この部屋……。」

 

 見た限りでは、使用用途が全く分からない。一体誰が、何のために作った部屋なのか……。


「あっ!」


 装飾品の一つに、ややサビついた剣を発見する。非常にシンプルな作りで、それほど強靭というわけでも無さそうだが、戦闘には使えるだろう。切れ味もまだ健在のようだ。

 だが、ルイが剣を持つのはこれが初めてだった。初めて持つ剣は、予想以上に重く、自身のバランスを取るのさえ危うい。こんな調子で、あんなゴツゴツとした大剣に敵うのだろうか。


「……いや!無理でもやるんだ!」


 そう言って、ルイは自分の頬をバシバシと叩くと、その部屋を後にした。

 目指すは地上。ケレンが戦っている場所へ―――






「み、みんな!」


 ルイが地上に出ると、そこでは村人と黒ローブの男達が、熾烈な戦いを繰り広げていた。いや。それは戦いというよりも、一方的な攻撃と言うべきか。村人達は、黒ローブの男達に手も足も出ないようだった。


「ル……ルイ……!」


 ゴルドに足蹴にされていたケレンが、声を上げた。その声で、ルイはケレンの置かれた立場に気付く。


「じ、じいちゃん!」


 苦しそうに顔をしかめるケレンに向かって、ルイは叫んだ。


「ほう。さっきのガキか。むざむざ殺されに来たか……。それとも、アルナトの場所を言う気になったか……。」


 ルイの存在に気付いたゴルドが、再びいやらしい笑みを浮かべてそう言った。自分達の村を襲い、村人達を傷つけながら、それでも笑みを浮かべるゴルド。そんなゴルドの非情さに、ルイは例えようの無い怒りを覚えた。


「残念ながら、どっちも違う。僕は、お前達を倒しに来た。」


 そう言って、ルイは剣を鞘から抜き、構えた。剣を持つのも初めてのルイにとっては、当然初めての構え。それは、お世辞にも綺麗と呼べるものではなかった。


「ふははははははは!ガキが笑わせてくれる!そんなヘナチョコな構えで、我々を倒すだと!?ふははははははははは!」


 ゴルドはルイの構えを見て、大きな笑い声を上げた。


「うるさい!やってみなきゃ……!分からないだろ!」


 ゴルドの癪に障るような笑い声を遮るように、ルイは言った。途端に、ゴルドの笑い声がピタリと止んだ。


「ほう……。ではやってみてもらおうか。……行け。」


 ゴルドが、村人を攻撃していた部下の一人に向かって、そう指示する。


「はっ!」


 指示された部下はそう返事をすると、歪な形状をした槍を構え、ルイに突進してきた。


シュッ―――


 目にも留まらぬ速さで、黒ローブの男はルイの眼前まで到着する。そして、構えていた槍をルイめがけて振り下ろした。


  ブゥンッ―――


「ぐッ!」


 キィンッ―――


 ルイはその一撃を剣で弾くことで、なんとか防御する。が、力の差は歴然。攻撃を弾いた衝撃で、ルイはバランスを崩してしまう。そこへ、再び男の槍が振り下ろされる。


「うわっ!」


 ルイは持ち前の反射神経で、どうにか男の一撃をかわす。だが、反射神経だけでかわし続けられるほど、この男の攻撃はやわではない。その事を、攻撃を受けたルイははっきりと実感していた。


「はぁっ!」


 ギィンッ―――


 男は槍を構えなおすと、正面突きを繰り出してきた。ルイは剣でガードするも、あまりの力の差に、後方に吹き飛ばされてしまう。


「うわっ!」


 後方へと飛ばされた衝撃で、ルイは転倒する。が、すばやく立ち上がると、体勢を立て直した。

 そんなルイに向かって、黒ローブの男はゆっくりと歩み寄ってくる。


「ぐっ……!」


 このままでは、負けてしまう。殺されてしまう。そうなれば、当然レアもナオも守れない。それどころか、村人達まで危険な目に遭ってしまう。


『おうルイ!おめぇはいつも元気だなぁ!』


『やぁルイ君。お仕事頑張ってね。』


『さ〜て、仕事頑張らなきゃね。』


 村人達の言葉が、脳裏に浮かぶ。穏やかで優しい村人達。時に厳しく、仕事熱心だった村人達。そんな村人達を、失いたくない。そして―――


『ルイ。お前はワシの自慢の孫だよ。』


『お兄ちゃん!隠し事してるでしょ!』


『ルイ……。』


 おじいちゃん、ナオ、そしてレア……僕の最も大切な人たち。僕にとっては掛け替えの無い絆で繋がっている彼らを、絶対に失いたくないんだ―――


 そうだ―――


 僕は―――


 僕はこんなところで―――


「果てるわけにはいかないんだッ!」


漆黒の夜空に向けて、ルイはそう叫んだ。その叫びは、空を突き抜け、どこまでも響き渡るほどに澄んでいた。


 ドクンッ―――


「―――!?」


一瞬、ルイの鼓動が激しくなった。―――いや、違う。一瞬だけではない。気が付けば今も、ルイの鼓動はより激しいものになっていく。


 ドクンッ―――

 ドクンッ―――

 ドクンッ―――


「ぐぅっ!」


 あまりの鼓動の激しさに、一瞬、目眩がした。だが、それもすぐに収まり、今度は言いようの無い“力”が、ルイを包み込んでいった。


「なんだ……これ……。力が……溢れて……!」


 やがてルイの右頬に、草のツタを思わせる紋章が浮かび上がる。その紋章は、眩しく、そして神々しい光を放っていた。


「すごい……この“力”……!」


 突如自分を包み込んだ“力”に、ルイ自身も驚きを隠せなかった。それはそうだろう。今まではふらつくほどに重く感じていた剣が、まるで羽根のように軽く感じるのだから。

 ゆっくりとルイに歩み寄っていた男が、やがてルイの前へと到着する。その男は再び槍を構えると、先ほどと変わらぬスピードでルイを攻撃し始めた。


(アレ……こいつの攻撃、こんなに遅かったっけ……?)


 ブゥンッ―――


 その攻撃をルイは軽々とかわす。その反射神経は、尋常では考えられないものとなっていた。

 男は休むまもなく、攻撃を繰り出し続けた。しかし、ルイはそれらの攻撃全てをいとも容易くかわし続ける。


(すごい……!見える……あいつの攻撃が、見える……!)


 ルイは男の最後の攻撃を避け切ると、クルリと一回転して後方へと着地した。


「お、おい!あれ、本当にルイか……!?」


 村人の一人が、ルイを見てそう呟いた。だが、そう思っているのは彼だけでは無かった。村中の人間が、ルイを見て驚愕していた。それほどまでに、ルイの運動能力は人間離れしていたのだ。


「今度はこっちの番だ。」


 そう言って、ルイは剣を構える。その構えは、先ほどのものとは比べ物にならないほど美しい構えだった。一部の隙も無く、相手をいつでも捕らえられる。そんな完璧な構えだった。


「はぁっ!」


 ズバァッ―――


 ルイは思い切り地面を蹴ると、一瞬で男の前まで移動。相手に武器を構えさせる暇さえ与えずに、一瞬で男を切り裂いた。 

 男は、何も確認することが出来なかった。自分がいつ切られたのかも分からぬまま、ただ倒れるのみ。


「ふんっ!」


 次にルイは、村人を攻撃していた男三人の前へと移動する。そして、真っ先に武器を構えた男を、一撃で粉砕した。


「ぐぁぁっ!」


 声を上げて、男は倒れる。その男も、先ほどの男と同じく、ルイの攻撃を確認することさえ出来なかった。


「うわぁぁぁっ!」


 遅れて武器を構えた男が、ルイの背後で自分の武器を振り下ろす。その武器は大鎌のような形状をしており、他の武器と同様、歪な形状をしていた。

 しかし、ルイは振り向きざまに男の武器を剣で弾く。力の差は歴然。男の武器は、漆黒の空へと弾かれていく。武器を失い、無防備となった男に、ルイは一閃を浴びせた。


「はぁっ!」


 一番武器を構えるのが遅かった男が、その双剣をルイに向かって振り下ろす。が、ルイはその一撃を、剣を使って軽々と受け止めた。そして、そのまま剣を返す。男はその衝撃で、バランスを崩した。


「うわっ……!」


 ルイはその隙を見逃さず、男に痛烈な一撃をお見舞いする。男は何が起こったのかも分からぬまま、ただ倒れていった。


「はぁ……はぁ……。」


 荒くなった息を整え、ルイは周りを見回す。

 そこには、力なく倒れた黒ローブの男達の姿があった。これでルイは、4人の黒ローブの男達を倒したことになる。

これで、ゴルドを含めて残り2人―――

 突然ルイに与えられた、この“力”―――黒ローブの男達を一瞬でなぎ倒すほどの“力”―――

 この力の正体が何なのか、ルイには分からない。だが、この“力”があれば、みんなを守れる―――今のルイには、それだけで十分だった。 

 ルイはケレンを足蹴にしているゴルドに向かって、強い口調で言った。


「……次は、お前たちだ。」


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